第7話

第6話 滅茶苦茶
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2026/02/08 00:35 更新




(なまえ)
あなた
帰っていいですか。
ディア・クロウリー
ディア・クロウリー
…………。


沈黙。

闇の鏡の前で、
学園長ディア・クロウリーは完全にフリーズしていた。


帰る、というのは少し変かもしれない。

まずここは夢の中…だと私は思っている。
逆にそうじゃなかったら何だと言うんだ。



まぁそこは1度置いておいて、
とりあえずここから離れたかった。


(なまえ)
あなた
という訳なんで…
ディア・クロウリー
ディア・クロウリー
い、いやいやいや!
ちょっと待ってください!
帰るという選択肢はですねぇ!?

(なまえ)
あなた
(なまえ)
あなた
今掲示しましたけど…
ディア・クロウリー
ディア・クロウリー
提示しないでください!
ここは名門!
名門ナイトレイブンカレッジですよ!?



バサァッとマントを翻し、
クロウリー先生は鏡と私の間に割って入る。


ディア・クロウリー
ディア・クロウリー
闇の鏡!本当に!もう一度!
もう一度だけ再診断を!
きっと測定誤差とか!ほら!
魔力が奥ゆかしすぎるタイプとか!
闇の鏡
闇の鏡
無いものは無い。
ディア・クロウリー
ディア・クロウリー
冷たッ!

会場がざわつく。

学園長の慌てぶりが可笑しいのか、
笑っている生徒達も半数。


私はどうしたものかとその場で固まっていた。


ふいに、割と近くに居た人が
だるそうに小さく溜息をついた。


???
???
……ハァ。
腕を組んだまま、
視線だけを闇の鏡へ向ける。

ざわめきが、
少しだけ静まる。

その直後。

凛とした足取りで立っている人。

先程の3人組のうちの1人が、
静かに息を吐いた。


???
???
…見苦しいわね。
その視線は、
私ではなくクロウリー先生へ。


???
???
選定ミスかどうかなんて、
今はどうでもいいでしょう

冷たいが、よく通る声。


???
???
問題はこの場をどう収めるかよ。
名門を名乗るなら、
それくらい美しくやりなさい
ディア・クロウリー
ディア・クロウリー
うっ…

言葉を詰まらせるクロウリー先生。

その人は、
一瞬だけこちらを見る。

値踏みでも、同情でもない。
???
???
……本人は、案外落ち着いているのに。
それだけ言って、
視線を戻した。







その時だった。


グリム
グリム
 ぐぬぬぬ、ぷはっ!
ディア・クロウリー
ディア・クロウリー
あっ!?
待ちなさい!このタヌキ!
クロウリー先生の腕から逃れたグリムが、
ドンッと床に着地する。

その小さな衝撃音が、
やけに大きく響いた。
グリム
グリム
だったらその席、オレ様に譲るんだゾ!
そこのニンゲンと違ってオレ様は魔法が使えるんだゾ!
グリム
グリム
だから代わりにオレ様を学校に入れろ!
ぷすぷす、と
耳の炎が勢いを増していく。

さっきまで少し落ち着きかけていた空気が、
一気に嫌な予感を帯びた。

グリム
グリム
そこのニンゲンより、オレ様のほうがよっぽど学園向きなんだゾ!!魔法ならとびっきりのを今見せてやるんだゾ!
その一言で、
張り詰めていた空気が──

バチンと、別の方向へ弾けた。

ぷす、と
耳の炎が一段階、明確に大きくなる。
ディア・クロウリー
ディア・クロウリー
なっ…!?いけません!!
ここは式典会場!!
グリム
グリム
見せてやるんだゾ!!
オレ様の実力を!!
ディア・クロウリー
ディア・クロウリー
見せなくていいです!!

しかし。

遅かった。


グリム
グリム
ん゛な゛~~~!!
青白い炎が、
鏡の間の中央で弾けた。

???
???
伏せろ!!

誰かの声が響くと同時に、
私含めた生徒達は身を守るための行動に出る。



???
???
うわあ!! あちちちっ!
尻に火が!?
ディア・クロウリー
ディア・クロウリー
このままでは学園が火の海です!!
誰かあのタヌキを捕まえてください!!


青白い炎が弾け、
鏡の間に熱風と悲鳴が渦巻く。



『うわあっ!!?』
『ローブ燃える燃える!!』
『誰か水魔法を!!』




あちこちから悲鳴が聞こえる。



それに混ざって楽しげな声も聞こえてくる。

緊張感というものを知らないみたいに、
水面を跳ねる泡みたいに弾んでいて。



しかしその声もすぐ他の悲鳴にかき消された。





???
???
チッ……かったりぃな。
???
???
アラ、狩りはお得意でしょ? 
まるまる太った絶好のオヤツじゃない。
ディア・クロウリー
ディア・クロウリー
みなさん、私の話聞いてます!?
(なまえ)
あなた
なら私が――

一歩踏み出しかけた、その瞬間。

す、と
自然な動きで前に出た人物。


???
???
クロウリー先生、おまかせください。


銀色の髪に細身の体。
整った顔立ちに、眼鏡が映えている。

???
???
いたいけな小動物をいたぶって捕獲するというみなさんが嫌がる役目。
この僕が請け負いましょう!


その言葉は柔らかく、
笑顔も完璧だった。


???
???
それに、"魔法を扱えない方"が前に出るのは最善とは言えませんからね。
???
???
善意で前に出られるのは結構ですが、出来ないことをなさる必要はありませんよ。
(なまえ)
あなた
……。


だが、空気は確実に変わった。


謎のタブレット端末
 さすがアズール氏。
内申の点数稼ぎキマシタワー。


先程のタブレットが呟く。

それを気にもとめず、
アズールという人は近くにいた赤髪の人に声をかける。


アズール
アズール
リドルさん、お願いできますか?
リドル
リドル
違反者は見逃せないからね。
さっさと済ませるとしよう。




少しの心配と苛立ちを抱えながら、

学園長の隣で様子を伺う。




割と激戦になる、かとも一瞬思ったが――





リドル
リドル
‪”‬首をはねよオフ・ウィズ・ユア・ヘッド‪”‬!!
グリム
グリム
フギャッ!?


鬼ごっこは一緒で終わりを告げ、

タヌキの首に枷のようなものが嵌められた。







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無茶苦茶むちゃくちゃ
⋯ 道理・順序・常識がなくて、めちゃくちゃな状態。
または度を超えているさま

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