沈黙。
闇の鏡の前で、
学園長ディア・クロウリーは完全にフリーズしていた。
帰る、というのは少し変かもしれない。
まずここは夢の中…だと私は思っている。
逆にそうじゃなかったら何だと言うんだ。
まぁそこは1度置いておいて、
とりあえずここから離れたかった。
バサァッとマントを翻し、
クロウリー先生は鏡と私の間に割って入る。
会場がざわつく。
学園長の慌てぶりが可笑しいのか、
笑っている生徒達も半数。
私はどうしたものかとその場で固まっていた。
ふいに、割と近くに居た人が
だるそうに小さく溜息をついた。
腕を組んだまま、
視線だけを闇の鏡へ向ける。
ざわめきが、
少しだけ静まる。
その直後。
凛とした足取りで立っている人。
先程の3人組のうちの1人が、
静かに息を吐いた。
その視線は、
私ではなくクロウリー先生へ。
冷たいが、よく通る声。
言葉を詰まらせるクロウリー先生。
その人は、
一瞬だけこちらを見る。
値踏みでも、同情でもない。
それだけ言って、
視線を戻した。
その時だった。
クロウリー先生の腕から逃れたグリムが、
ドンッと床に着地する。
その小さな衝撃音が、
やけに大きく響いた。
ぷすぷす、と
耳の炎が勢いを増していく。
さっきまで少し落ち着きかけていた空気が、
一気に嫌な予感を帯びた。
その一言で、
張り詰めていた空気が──
バチンと、別の方向へ弾けた。
ぷす、と
耳の炎が一段階、明確に大きくなる。
しかし。
遅かった。
青白い炎が、
鏡の間の中央で弾けた。
誰かの声が響くと同時に、
私含めた生徒達は身を守るための行動に出る。
青白い炎が弾け、
鏡の間に熱風と悲鳴が渦巻く。
『うわあっ!!?』
『ローブ燃える燃える!!』
『誰か水魔法を!!』
あちこちから悲鳴が聞こえる。
それに混ざって楽しげな声も聞こえてくる。
緊張感というものを知らないみたいに、
水面を跳ねる泡みたいに弾んでいて。
しかしその声もすぐ他の悲鳴にかき消された。
一歩踏み出しかけた、その瞬間。
す、と
自然な動きで前に出た人物。
銀色の髪に細身の体。
整った顔立ちに、眼鏡が映えている。
その言葉は柔らかく、
笑顔も完璧だった。
だが、空気は確実に変わった。
先程のタブレットが呟く。
それを気にもとめず、
アズールという人は近くにいた赤髪の人に声をかける。
少しの心配と苛立ちを抱えながら、
学園長の隣で様子を伺う。
割と激戦になる、かとも一瞬思ったが――
鬼ごっこは一緒で終わりを告げ、
タヌキの首に枷のようなものが嵌められた。
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無茶苦茶
⋯ 道理・順序・常識がなくて、めちゃくちゃな状態。
または度を超えているさま
























編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。