第70話

番外編 話を聞かせて
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2023/05/13 04:36
合宿先で補習となった楽、眠田、泉、鳥本だったが、楽と眠田はサボって肝試しの方へ向かってしまった。
(ど、どうしよう!泉君と二人きりになっちゃったよ!!)
鳥本飛は泉蒼斗に絶賛片思い中である。
好きになったきっかけというのはイマイチ自分でも分かっていないが、泉のそこ抜けた明るさや、友情深さに前から少し憧れていた。
「泉君は、秋本君達追いかけなくていいの?」
「俺は秋本と違って相澤先生に怒られる勇気ないからさ」
「うん、私も」
「やっぱ入学当初から秋本って狂ってたよな。個性把握テストで最下位は除籍にするっていう話してた時、1番にアイツ何言ったか覚えてるか?」
「"皆頑張れ!"だよね」
「そうそう。アイツは自分が最下位になるなんて考えてもなくてさ…ヤベェ奴来たなって思ったわ」
口ではヤバい奴なんて言うが、目は友人を尊敬している眼差しである。
よくクラスの女子からは真のクズと言われているが、本当はとても良い人なのだ。
「秋本はいいよなー、女に囲まれて。あと手藤も普通科の女子としょっちゅう噂にされてるし」
「あはは…」
クズでは無いが鳥本から見ても泉は女好きである。
「秋本って誰が好きだと思う?」
「う〜ん、華ちゃんとかかな。彼氏のフリとかしてたし、よく可愛いって言ってるし」
「確かに!花咲ってイメージあるかも。あ、でも中学からの仲の猫田も欠かせなくね?距離感バグってるし」
「空ちゃんもなんだかんだ言い合ってていい感じだよね」
楽とはあまり話したことがなく、兎に角、泉と同じく男女共に仲がいいイメージであまり特定の誰かと一緒に居るイメージはない。
「どうして秋本君の好きな人気になるの?」
「いや好きな人が気になるって言うより、アイツって必要以上に自分のこと話さないから心配になるんだよ」
「そうなの?」
「俺が自分語りしてもアイツは聞くだけだし、1個教えてくれたのはダイナマに憧れてるってことだけで、好きな人とか好きな食べ物とか知らないことが多すぎるんだよな」
同じA組に居るのに、対等では無いかのような楽の振る舞いが嫌なのだろう。
泉は拗ねた表情をした。
「秋本君はきっと!泉君のお話が好きなんだと思うよ!」
「うおっ?!いきなり大きい声でどうした」
「わ、私も泉君の話が…す、好きだから!秋本くんの気持ち分かるの!自分のお話をするのが嫌なんじゃなくて、泉君のお話がもっともっと聞きたいんだよ!!」
泉に元気になって欲しくて思わず、手を握って伝えてしまう。
「ぶはっ、鳥本って良い奴だなっ!」
「え、あ、ごめんなさい!私みたいな根暗が首突っ込んじゃって」
「なんで謝んだよー。俺は別に鳥本が根暗なんて思ってないけど?大人しい子だなとは思ってたけど意外と表情豊かだし」
「あ、ありがとう…」
「おう!」
ニカッと笑う泉に鳥本は胸を抑えた。
こういう真っ直ぐなところがキラキラとしていて眩しくて大好きなのである。
「教室でももっと話してよ。俺、鳥本の好きなことも聞きたい」
泉にとっては当たり前のことで自分を恋愛対象として見ていないのは分かっていた。
それでも自分のことについて知りたいと思ってくれているのは、ただ単純に嬉しい。
「私も泉君のお話聞かせて欲しい!」





「泉って鳥本が好きだったんだな!」
「は〜?なんのことだよ」
「え、違うの?」
補習が終わり男部屋で楽に突然聞かれ泉は瞬きを数回し、考えた。
「いや、まあ、可愛いなとは思う」
「それ好きって言うんじゃ?」
「うるせーっての。ほら、寝るぞ」
「コイツ照れた!手藤!コイツ確信犯だぞ!!」
「よし逮捕!聞かせろ!」
「お前らすぐ茶化すよな!?猫田居らんで良かったわ!」
これが恋に発展するのは、まだまだ先のお話。



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