第66話

57話 弱々しい
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2023/05/07 10:04
「楽ッ!!」
「おい、大声を出すな」
相澤に呼ばれ、慌てて来たのは爆豪であった。
相澤に事情は大方聞いているが目の前にいる楽は想像以上に怖がっている。
「熱は?」
「37.8度ある。せめて目を冷やすことが出来ればいいがな」
泣き止むことなく、しんどそうにしている楽に相澤もマイクも心配の視線を送った。
「そろそろ泣き止めや。辛いだろ」
「せんぱ…先輩、ばく、ごせんぱいっ、」
「声枯れてんなァ、鼻声だし」
爆豪は楽の鼻にティッシュを当てる。
涙でびちょびちょの頬をそっと触れ、拭き取った。
「おれっ、怖くて、全部怖くて、」
「全部って俺もかよ?」
「ぁ、爆豪先輩はこわく、ない」
「俺が怖くねェなら大したもんだろ」
緊張が解けたのか、楽は相澤の机から出て爆豪に抱き着く。
初めて見る楽の弱々しい姿はとても愛おしかった。
敵の個性を浴びても、自分のことを怖がらず求めてくれていることが信じられないほど嬉しい。
「今日はお前の家で預かって貰ってもいいか?寮だと怖くて寝れないだろう」
「分かった、外泊届けは俺が変わりに書いとく」
「助かる」
嗚咽を漏らし泣く楽を背負い、外泊届けにサインする。




「ジーパン、楽ここのベットに寝かせる」
両親が居るので爆豪家で泊めるのは辞め、ジーニスト事務所で楽と1晩いることにした。
「楽の状態は?」
「俺が来て落ち着いたけど怖くて寝れねェつって、ずっと震えてる」
「厄介な個性に当てられたものだな」
ジーニストはベットで横たわり毛布にくるまっている楽の背中をトントンと一定のリズムで優しく叩く。
暫く沈黙が続いたがインターホンの音が鳴り、爆豪は玄関先へ向かった。
「どうも、秋本の様子を見に来た」
「他の補習のヤツらは?」
「置いてきた。複数で行くと迷惑だろ」
爆豪は眉間に皺を寄せる。
見舞いに来たのが犬塚であることが気に食わない。
「勘違いすんな。俺はアイツが心配で来た訳じゃない。補習の奴らに様子見を任されたんだ」
「なら、別の奴に任せりゃイイだろ」
「…雄英の奴とは喧嘩して話せる状況じゃない」
「もっと他に居んだろ、テメェじゃなくても」
「1人、秋本の見舞いに行きたいって言ってた女はいるが…ソイツは今の秋本じゃなくても近づくのは危険だ」
「危険って具体的になんだ」
楽に危険な人間が補習に居る。
それを聞いただけで爆豪は青筋を浮かべた。
これ以上、自分から何を奪うつもりなのだろう。
こんなに強くなっているのに何処も彼処も危険なままだ。
「やだっ!せんぱ、ばくご、先輩!行かないで、!怖いよ!俺の…隣にいて!」
部屋から飛び出し楽は爆豪に泣きながら抱き着く。
「オイ、深呼吸しろ。過呼吸気味になってる」
「しない!む、無理!怖い!」
「怖くねェッ!やれ!死にてェのか!!」
「こわい、こわい…は、はぁ、むり」
息の吸い方を忘れパニックになった楽は胸に手を当て服を握りしめた。
酸素が回っていないのか顔色も青い。
「……テメェなら出来んだろ、な?俺の真似して吸ってみろ」
「うん、ごめ…なさい」
「謝んな、鬱陶しい。呼吸に集中しろ」
背中を摩り、楽と目を合わせ深呼吸をする。
弱っていても爆豪は楽に対等に接した。
心配の声をかけず、絶対に出来ないなんて言わない。
ヒーローとしては良くないことなのかもしれないが楽にとってはそっちの方がきっと気持ちは落ち着くだろう。
そして、ある程度呼吸が安定した楽を爆豪が姫抱きすると犬塚は戸惑った表情をした。
「本当にコイツは秋本なのか…?」
「どう見たって楽だろ」
「まだ補習の時はここまで酷くなかったぞ」
「個性が遅効だったんかもな」
そう話しながら腕の中で震えている楽の頭を撫でる。
すると楽はフルフルと首を振った。
「ステインが、怖くて、でも光坂を疑ってるみたいでヤなのに光坂が怖い…」
「ッ!!もしかして光坂の噂に数年前のヒーロー殺しが関係あるのか?!」
「どういうことだ!!説明しろッ!!イヌ!」
「知るか!ただ聞いたのは光坂の噂が本当だと危険という話だけだ!何の噂かは話さなかった!」
「ンで聞いてねェんだよッ!!シネッ!!」
ステインと関係のある噂であれば犬塚の思っている倍、楽は危険なことを1人でせ追い込もうとしている。
数年前、ステインの意思を全うしようとできたのがヴィラン連合だ。
リーダーとも言える死柄木弔はステインの意思とは違う理由で世界を壊そうとしていたのは歴史的大事件として報道されていたことを覚えている。
「楽、なんで俺に相談しなかったんだよ」
「…ごめん」
「テメェのことだから気をつけてはいたのかもしれねェが、何も1人で解決しようとしなくてイイだろ。俺が居んだから」
「詳しい話はまた今度に聞けばいい。今日は秋本も疲れてるだろうし休め」
犬塚はそれだけ言うと事務所を去った。
楽が何に対しても恐怖を感じている以上、まともに話すことはできない。
今日のところは恋人の爆豪に楽の身を任せた。


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