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第1話

that day.
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2019/08/13 10:16
「もうしらねぇ!」

ガチャン、と乱暴な音を立てて閉じられたドア。
俺の頭には血が昇っていて脳みそは怒りと化していた。


✤✤✤✤✤✤✤✤✤✤✤✤✤✤✤✤✤✤✤✤✤✤✤✤✤✤


それはもう些細な出来事だった。
仕事のストレス、お互いが逢えない事への虚しさ…。
そんなこんなが重なって、会話に火花が散ったのであろう。

何時もなら、俺が痺れを切らして出てってしまう。
結局、外の冷めた空気で頭を冷まして家へ帰る。
その度にキヒョナは料理を作って待ってくれていた。

「…あの…ごめんな…言い過ぎた…」

目を逸らしてぎこち無く俺より先に謝ってくる。
お決まりのコース。

「俺も。ごめんな。…食べよ?」

そう言うと、キヒョナは笑ってくれた。


でも、今回の展開は予想出来なさそう。
何時も出てってしまう俺が家に居たままで
何時も料理をして待っているアイツは居ない。

余っ程キレさせてしまったのか…。

そう分析しだした俺は既に冷静だったのだろう。
俺はキヒョナに電話をしてみる事に。

「…っー、っー、っー、」
「…クソっ…んで出ねんだよ…」

電話には出てくれない模様。
その上カトクにはメッセージを読んだ痕跡は無い。

あぁ。嫌われた。

付き合って未だ5ヶ月の俺たち。
潮時だったのかな…。

今までと同じ終わり方なのか…。

そんな気はしなかったのに…。


✤✤✤✤✤✤✤✤✤✤✤✤✤✤✤✤✤✤✤✤✤✤✤✤✤✤


1週間を過ぎようとした頃。

俺は完全に捨てられたと思っていた。

ピーンポーン。

久し振りに誰かが来たようだ。
1週間が過ぎようとしていたとは言え、心の傷は癒えていない。

「何方ですか。」

怠い体と心を無理矢理起こして、ドアに向かった。

「…え」

するとそこには…

「ひょおなぁ(笑)今起きたの?(笑)」
「…キヒョナ…?」

どんな顔だよ と笑って部屋に入ってきたのは、キヒョナだった。

「ふぅ〜…で、どうする?かいもんいったけど、スーパー開いてなかったわ(笑)」
「御免な」
「……どしたの?(笑)」

恋しかって、愛おしくて…。
俺はキヒョナを背後から抱き締めた。

「俺、お前に捨てられたと思った。お前とならこの先だって行けると思ってたのに。でも仕方ないとも思ってたんだ。」
「ちょっとちょっと(笑)何言ってんの?(笑)」

少し赤くなった耳を塞ぎながら、不思議そうに笑って
聞いてくる。
何度も何度も説明しても「なんの話(笑)」と相手にしてくれない。
きっと、俺の為に芝居をしてくれてるんだ。
無かった事として。何て良い恋人を持ったのだろう。
此処迄来れば、俺は神様にでも愛されているのだろう。

「…ね、ひょおな。デート行きたい。」

デート…。
そういや、行ってなかったね。
ほんとに久し振りにこうやって2人が休みだ。
勿論俺は、行こう、と答えた。

「昼御飯…買いそびれたし…食べに行こっか…」
「うん。そうしよ。」


昼御飯をカフェで食べた。
キヒョナは其処では昔の思い出話を沢山して来た。
嬉しそうにニコニコしながら俺に「楽しかったね 」とか
「あん時はホントに照れた」とか素直に言ってくる。
珍しいけど愛しい。

「今日、ヤケに素直だな(笑)」
「…ぅるさいよ」

照れてる照れてる。
けど心做しか笑顔のキヒョナが暗く見える。

「…?大丈夫か?」
「…っえ、どうした?」
「いや、大丈夫だったらいいけど…」

考え過ぎだよな。俺も。


✤✤✤✤✤✤✤✤✤✤✤✤✤✤✤✤✤✤✤✤✤✤✤✤✤✤


「はぁ〜…美味しかったぁ…」
「そうだな(笑)偶にはキヒョナが作るの以外食べんのも悪くは無いな」
「俺はどんなけの腕前なんだよ(笑)」
「珍しく謙虚じゃん」
「自信あって何か言ってもお前おちょくるだろ(笑)」

そこからは他愛も無い話で次の地点への道を繋いだ。
ショッピングに行って、服やアクセサリーを見ていた。
煌びやかな時も夕暮れに染まる頃、
俺達は既にショップからは出ており、外へ居た。
帰り道も他愛の無い話が又道を繋いでいった。


「あっ、ここ…」

ふと前を見てみると、其処には懐かしい光景が浮かんできた。

「俺達の今は此処のお陰で成り立ってるよな。」

其処は公園。
地域の住民からも俺らからも親しみを持たれてる公園。
只のちょっとした公園だが、
俺達は此処で新しいスタートを切ったんだ。

「此処でお前が俺に言った言葉覚えてる?」

キヒョナが聞いてきた。

「え、なんだったっけな…。
あっ、アレだ。『幼馴染やめて、一線越えよう。』だったっけ?wwwプッwwwはずッwww」
「笑い過ぎでしょ(笑)」
「いやぁでも、ホント一生懸命考えた言葉がアレだもんなwww」
「俺は…嬉しかったよ…」

大笑いする俺の横で何か寂しそうな表情で笑っている
キヒョナ。

「そっ…か……。なんか変な感じだな」
「…ぇえ?(笑)何ー(笑)」

" キスしない? " 今日は目を合わせて言ってくれた。
今日は本当に素直だ。何時もそのままが良いけど、
ぶっきらぼうも可愛いから良い。

「ん。いいよ」

お互いの唇が重なって、初々しい気持ちになる。

「ごめんな?」
「何でだよ(笑)お前が頼んだんだろ?」
「まぁ、そうだけど…」

今更かよ(笑)って笑ってる俺。
モジモジしてるキヒョナ。

嗚呼。この感じ。良かった。

「あ、もうこんな時間」

時計を見ると、もう夜の7時を回っていた。

「帰らねぇ?」
「へへへ」
「ん?どした?」
「もう歩けないよ」

確かに今日1日沢山歩いたな。
もう少し長居しても子供じゃあるまいし、大丈夫だよな。

「じゃあ、もうちょっとしたら帰ろか」
「んーん。ひょおな、先帰ってな。」
「え、おう、分かった」

キヒョナにやり残した事があったのか?
敢えてそこはツッコまないことにした。
何か、突っ込んじゃいけない気がした。

俺とキヒョナは一旦そこで解散し、
おれはキヒョナと同居してる家へ帰った。
そうだ。何時もならキヒョナが作る晩飯を
今日は俺が作ってやろう。


✤✤✤✤✤✤✤✤✤✤✤✤✤✤✤✤✤✤✤✤✤✤✤✤✤✤


チクタク…チクタク…

「………おっそいなぁ」

外は雨が降っている。
俺は1人しか居ないリビングで呟いた。
作り立てだったサムギョプサルはすっかり冷めてしまい
脂身も固りそう。

「連絡…してみるか…」

心配だ。
連絡を入れる事にした。

" ―――ッ…オカケニナッタデンワバンゴウハ、ゲンザイツカワレテオリマセン "

、はぁ?
俺と会ってない間に番号変えたのか?
キヒョナなら、幼馴染であり、
俺の親友であるミニョガの家で 雨宿り…なんて事も。

「―――ッはい?」
「あぁ、ミニョガ?俺だけど。
お前ん家にキヒョナ来てないか?」
「…キヒョナ?何言ってるんだ?」
「ええ?電波悪い?」
「そうゆうんじゃない、けど…」
「…けど、なんだよ。」


" キヒョナなら1年前に死んだじゃん "

























嗚呼。そうだ。キヒョナは居ないんだ。

俺はあの日、彼奴を追い出してしまって、

そのまま…追い掛けもせずに…

嗚呼。そうだったな。

俺はキヒョナの居ない現実に、深く傷付いたんだ。

でも向こうの世界でもっと傷付いてるのは…

キヒョナだよな。

どうして…

何もしてない俺が馬鹿になって色々迷惑掛けてんだよ…





" もしもし…もしもし…?おーい……ヒョンォナ、? "

























なぁ。キヒョナ。こんな俺が、逢いに行って、良い?



______END

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