前の話
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「もうしらねぇ!」
ガチャン、と乱暴な音を立てて閉じられたドア。
俺の頭には血が昇っていて脳みそは怒りと化していた。
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それはもう些細な出来事だった。
仕事のストレス、お互いが逢えない事への虚しさ…。
そんなこんなが重なって、会話に火花が散ったのであろう。
何時もなら、俺が痺れを切らして出てってしまう。
結局、外の冷めた空気で頭を冷まして家へ帰る。
その度にキヒョナは料理を作って待ってくれていた。
「…あの…ごめんな…言い過ぎた…」
目を逸らしてぎこち無く俺より先に謝ってくる。
お決まりのコース。
「俺も。ごめんな。…食べよ?」
そう言うと、キヒョナは笑ってくれた。
でも、今回の展開は予想出来なさそう。
何時も出てってしまう俺が家に居たままで
何時も料理をして待っているアイツは居ない。
余っ程キレさせてしまったのか…。
そう分析しだした俺は既に冷静だったのだろう。
俺はキヒョナに電話をしてみる事に。
「…っー、っー、っー、」
「…クソっ…んで出ねんだよ…」
電話には出てくれない模様。
その上カトクにはメッセージを読んだ痕跡は無い。
あぁ。嫌われた。
付き合って未だ5ヶ月の俺たち。
潮時だったのかな…。
今までと同じ終わり方なのか…。
そんな気はしなかったのに…。
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1週間を過ぎようとした頃。
俺は完全に捨てられたと思っていた。
ピーンポーン。
久し振りに誰かが来たようだ。
1週間が過ぎようとしていたとは言え、心の傷は癒えていない。
「何方ですか。」
怠い体と心を無理矢理起こして、ドアに向かった。
「…え」
するとそこには…
「ひょおなぁ(笑)今起きたの?(笑)」
「…キヒョナ…?」
どんな顔だよ と笑って部屋に入ってきたのは、キヒョナだった。
「ふぅ〜…で、どうする?かいもんいったけど、スーパー開いてなかったわ(笑)」
「御免な」
「……どしたの?(笑)」
恋しかって、愛おしくて…。
俺はキヒョナを背後から抱き締めた。
「俺、お前に捨てられたと思った。お前とならこの先だって行けると思ってたのに。でも仕方ないとも思ってたんだ。」
「ちょっとちょっと(笑)何言ってんの?(笑)」
少し赤くなった耳を塞ぎながら、不思議そうに笑って
聞いてくる。
何度も何度も説明しても「なんの話(笑)」と相手にしてくれない。
きっと、俺の為に芝居をしてくれてるんだ。
無かった事として。何て良い恋人を持ったのだろう。
此処迄来れば、俺は神様にでも愛されているのだろう。
「…ね、ひょおな。デート行きたい。」
デート…。
そういや、行ってなかったね。
ほんとに久し振りにこうやって2人が休みだ。
勿論俺は、行こう、と答えた。
「昼御飯…買いそびれたし…食べに行こっか…」
「うん。そうしよ。」
昼御飯をカフェで食べた。
キヒョナは其処では昔の思い出話を沢山して来た。
嬉しそうにニコニコしながら俺に「楽しかったね 」とか
「あん時はホントに照れた」とか素直に言ってくる。
珍しいけど愛しい。
「今日、ヤケに素直だな(笑)」
「…ぅるさいよ」
照れてる照れてる。
けど心做しか笑顔のキヒョナが暗く見える。
「…?大丈夫か?」
「…っえ、どうした?」
「いや、大丈夫だったらいいけど…」
考え過ぎだよな。俺も。
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「はぁ〜…美味しかったぁ…」
「そうだな(笑)偶にはキヒョナが作るの以外食べんのも悪くは無いな」
「俺はどんなけの腕前なんだよ(笑)」
「珍しく謙虚じゃん」
「自信あって何か言ってもお前おちょくるだろ(笑)」
そこからは他愛も無い話で次の地点への道を繋いだ。
ショッピングに行って、服やアクセサリーを見ていた。
煌びやかな時も夕暮れに染まる頃、
俺達は既にショップからは出ており、外へ居た。
帰り道も他愛の無い話が又道を繋いでいった。
「あっ、ここ…」
ふと前を見てみると、其処には懐かしい光景が浮かんできた。
「俺達の今は此処のお陰で成り立ってるよな。」
其処は公園。
地域の住民からも俺らからも親しみを持たれてる公園。
只のちょっとした公園だが、
俺達は此処で新しいスタートを切ったんだ。
「此処でお前が俺に言った言葉覚えてる?」
キヒョナが聞いてきた。
「え、なんだったっけな…。
あっ、アレだ。『幼馴染やめて、一線越えよう。』だったっけ?wwwプッwwwはずッwww」
「笑い過ぎでしょ(笑)」
「いやぁでも、ホント一生懸命考えた言葉がアレだもんなwww」
「俺は…嬉しかったよ…」
大笑いする俺の横で何か寂しそうな表情で笑っている
キヒョナ。
「そっ…か……。なんか変な感じだな」
「…ぇえ?(笑)何ー(笑)」
" キスしない? " 今日は目を合わせて言ってくれた。
今日は本当に素直だ。何時もそのままが良いけど、
ぶっきらぼうも可愛いから良い。
「ん。いいよ」
お互いの唇が重なって、初々しい気持ちになる。
「ごめんな?」
「何でだよ(笑)お前が頼んだんだろ?」
「まぁ、そうだけど…」
今更かよ(笑)って笑ってる俺。
モジモジしてるキヒョナ。
嗚呼。この感じ。良かった。
「あ、もうこんな時間」
時計を見ると、もう夜の7時を回っていた。
「帰らねぇ?」
「へへへ」
「ん?どした?」
「もう歩けないよ」
確かに今日1日沢山歩いたな。
もう少し長居しても子供じゃあるまいし、大丈夫だよな。
「じゃあ、もうちょっとしたら帰ろか」
「んーん。ひょおな、先帰ってな。」
「え、おう、分かった」
キヒョナにやり残した事があったのか?
敢えてそこはツッコまないことにした。
何か、突っ込んじゃいけない気がした。
俺とキヒョナは一旦そこで解散し、
おれはキヒョナと同居してる家へ帰った。
そうだ。何時もならキヒョナが作る晩飯を
今日は俺が作ってやろう。
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チクタク…チクタク…
「………おっそいなぁ」
外は雨が降っている。
俺は1人しか居ないリビングで呟いた。
作り立てだったサムギョプサルはすっかり冷めてしまい
脂身も固りそう。
「連絡…してみるか…」
心配だ。
連絡を入れる事にした。
" ―――ッ…オカケニナッタデンワバンゴウハ、ゲンザイツカワレテオリマセン "
、はぁ?
俺と会ってない間に番号変えたのか?
キヒョナなら、幼馴染であり、
俺の親友であるミニョガの家で 雨宿り…なんて事も。
「―――ッはい?」
「あぁ、ミニョガ?俺だけど。
お前ん家にキヒョナ来てないか?」
「…キヒョナ?何言ってるんだ?」
「ええ?電波悪い?」
「そうゆうんじゃない、けど…」
「…けど、なんだよ。」
" キヒョナなら1年前に死んだじゃん "
嗚呼。そうだ。キヒョナは居ないんだ。
俺はあの日、彼奴を追い出してしまって、
そのまま…追い掛けもせずに…
嗚呼。そうだったな。
俺はキヒョナの居ない現実に、深く傷付いたんだ。
でも向こうの世界でもっと傷付いてるのは…
キヒョナだよな。
どうして…
何もしてない俺が馬鹿になって色々迷惑掛けてんだよ…
" もしもし…もしもし…?おーい……ヒョンォナ、? "
なぁ。キヒョナ。こんな俺が、逢いに行って、良い?
______END
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。