エイミは周囲を警戒しつつ、ミラに近づいた。
ミラを連れだし、小声で耳打ちする。
やはり王子の護衛だ。
彼女も敵に気づいていたようだ。
エイミは、何者かが尾行している事実を伝える。
すると、ミラは顔を赤くして、
と言い訳をした。
だが、そんな緩んだ空気は一瞬で消え失せる。
ミラはすぐに冷静さを取り戻し、護衛としての鋭い目つきに変わった。
アルは公衆トイレへと向かった。
ミラは利用者がいないことを確認すると、男子トイレ、女子トイレ共に不審なものがないか隅々まで点検して回った。
安全が確保されると、アルとユリはトイレに入っていった。
諜報員として、周辺地域の施設は事前に下調べをしている。
有事の際、そういった知識が生死を分けるのだ。
そのはずなのに、胸騒ぎがした。
エイミとミラが周囲を警戒していたとき。
チャラい男二人が話しかけてきた。
男がエイミの手を掴もうとしてくる。
その瞬間、エイミは男の手を掴んで掌が見えるように返し、腱が断裂するギリギリまでひねり上げた。
男は悲鳴を上げて逃れようとするが、両手でがっちり固定することで逃さない。
もう一人の男の悲鳴も聞こえた。
ミラが男の股間を蹴り上げていた。
うずくまった男を地面に転がしてうつ伏せにし、片腕を可動域限界まで曲げている。
そのセリフを聞いた瞬間、エイミは駆けだした。
一瞬遅れてミラもついてくる。
そう思った瞬間、トイレのほうから破砕音が聞こえた。
エイミは男子トイレに飛び込む。
トイレの壁に大穴が開いていたのだ。
壁が綺麗にくりぬかれていることから、爆弾などによる破壊ではないことがわかる。
まさかトイレ自体に仕掛けがあるとは思わなかった。
スーツの男たちが弱かったことで、甘く考えていた。
敵は、想像以上に強大かもしれない。
敵の作った大穴を抜ける。
アルは、今まさに車に乗せられていた。
さらに、車内にはユリもいた。
焦りが生まれるものの、こういうときこそ冷静でなければならない。
エイミはメガネ型カメラをかけて、録画を開始。
スリットからスカートの中に手を突っ込み、太ももに装着していたレッグホルスターから『くない』を取りだし、投げつける。
しかし敵には当たらず、車のボディや、車内のシートに突き刺さっただけだ。
そのとき、車内にいた連中が何かを放ってきた。
ガラス瓶だった。
それは地面に叩きつけられ、割れた。
瞬間、からしのような臭いが鼻をついた。
マスタードガスとは、有名な化学兵器である。
吸引はもちろん、触れるだけでも甚大な被害がある。
ジュネーブ議定書により禁じられているものではあるが、核兵器と同じで、抑止力のために保有する国もあるだろう。
核兵器と異なるのは、作成が容易という点だ。
テロリストが使用してきても不思議ではない。
ミラはガスを避け、イヤホンに手を当てる。
ミラは煙を避け、他の護衛とともにアルを追っていった。
エイミは、周囲を見回す。
マスタードガスは残留性が高い。
開けた場所ゆえまもなく拡散するだろうが、公園には一般人もいる。
放置することはできない。
そのとき、
女の子が不思議がってガスの発生源に近づいていった。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。