第36話

第36話 敵襲
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2023/11/15 23:00
鈴木エイミ
鈴木エイミ
(アルを狙っている奴が複数いる)
(このままデートを続けるのは危険だ)
 エイミは周囲を警戒しつつ、ミラに近づいた。
鈴木エイミ
鈴木エイミ
ちょっと話がある
 ミラを連れだし、小声で耳打ちする。
鈴木エイミ
鈴木エイミ
何者かがアルを狙っている
ミラ
ミラ
…………
ええ、わかってます
 やはり王子の護衛だ。
 彼女も敵に気づいていたようだ。
ミラ
ミラ
アルはかっこいいですから
鈴木エイミ
鈴木エイミ
は?
ミラ
ミラ
街を歩けばたくさんの女性の目を引きます
不届き者が湧いても不思議ではありません
鈴木エイミ
鈴木エイミ
…………
そういう意味じゃない
 エイミは、何者かが尾行している事実を伝える。
 すると、ミラは顔を赤くして、
ミラ
ミラ
わ、わかっています
私も気づいてました
 と言い訳をした。
 だが、そんな緩んだ空気は一瞬で消え失せる。
 ミラはすぐに冷静さを取り戻し、護衛としての鋭い目つきに変わった。
ミラ
ミラ
アル、少しお話が──
アル
アル
すまん、その前にトイレ行ってくる
姫野ユリ
姫野ユリ
あたしも
ミラ
ミラ
それどころではありません
実は──
アル
アル
おいおい、俺に漏らせというのか?
ミラ
ミラ
そういうわけでは……
 アルは公衆トイレへと向かった。
ミラ
ミラ
せ、せめて危険がないか下調べをさせてください
 ミラは利用者がいないことを確認すると、男子トイレ、女子トイレ共に不審なものがないか隅々まで点検して回った。
 安全が確保されると、アルとユリはトイレに入っていった。
鈴木エイミ
鈴木エイミ
(あのトイレの出入り口は一つ)
 諜報員として、周辺地域の施設は事前に下調べをしている。
 有事の際、そういった知識が生死を分けるのだ。
鈴木エイミ
鈴木エイミ
(中に小窓はあるけど、人が通れるほど大きくはない)
(ミラが人がいないことを確認したから)
(出入り口を見張っていればアルは安全だ)
 そのはずなのに、胸騒ぎがした。
 エイミとミラが周囲を警戒していたとき。
男性A
きみたち、待ち合わせ?
 チャラい男二人が話しかけてきた。
男性B
暇なら俺たちと遊ぼうよ
鈴木エイミ
鈴木エイミ
(こんなときにナンパか)
ミラ
ミラ
ごめんなさい連れがいます
男性A
そんなこといわないでさ
ちょっとだけでいいから
男性B
ね、君も一緒に行こうよ
 男がエイミの手を掴もうとしてくる。
 その瞬間、エイミは男の手を掴んで掌が見えるように返し、腱が断裂するギリギリまでひねり上げた。
 男は悲鳴を上げて逃れようとするが、両手でがっちり固定することで逃さない。
鈴木エイミ
鈴木エイミ
(注意を逸らそうと近づいてきた敵かと思ったけど)
(素人か)
男性A
ぐおっ!
 もう一人の男の悲鳴も聞こえた。
 ミラが男の股間を蹴り上げていた。
 うずくまった男を地面に転がしてうつ伏せにし、片腕を可動域限界まで曲げている。
ミラ
ミラ
なぜ私たちに近づいた
三秒以内に答えないと折る
男性A
ご、ごめんなさい!
スーツの男が君たちをナンパするよう金を渡してきて──
 そのセリフを聞いた瞬間、エイミは駆けだした。
 一瞬遅れてミラもついてくる。
鈴木エイミ
鈴木エイミ
(こいつらは囮!)
(アルが危ない!)
 そう思った瞬間、トイレのほうから破砕音が聞こえた。
 エイミは男子トイレに飛び込む。
鈴木エイミ
鈴木エイミ
なっ……!
 トイレの壁に大穴が開いていたのだ。
 壁が綺麗にくりぬかれていることから、爆弾などによる破壊ではないことがわかる。
鈴木エイミ
鈴木エイミ
(事前に切れ目だけを入れて、いつでも抜け穴を作れるようにしていたんだ!)
 まさかトイレ自体に仕掛けがあるとは思わなかった。
鈴木エイミ
鈴木エイミ
(しかもこんな大がかりな手を使ってくるとは……)
 スーツの男たちが弱かったことで、甘く考えていた。
 敵は、想像以上に強大かもしれない。

 敵の作った大穴を抜ける。
 アルは、今まさに車に乗せられていた。
 さらに、車内にはユリもいた。
鈴木エイミ
鈴木エイミ
(なぜユリまで!?)
 焦りが生まれるものの、こういうときこそ冷静でなければならない。
 エイミはメガネ型カメラをかけて、録画を開始。
 スリットからスカートの中に手を突っ込み、太ももに装着していたレッグホルスターから『くない』を取りだし、投げつける。
 しかし敵には当たらず、車のボディや、車内のシートに突き刺さっただけだ。
ミラ
ミラ
下手くそめ、それでも忍者か!
 そのとき、車内にいた連中が何かを放ってきた。
 ガラス瓶だった。
 それは地面に叩きつけられ、割れた。
 瞬間、からしのような臭いが鼻をついた。
鈴木エイミ
鈴木エイミ
(まさか、マスタードガスか!?)
 マスタードガスとは、有名な化学兵器である。
 吸引はもちろん、触れるだけでも甚大な被害がある。
 ジュネーブ議定書により禁じられているものではあるが、核兵器と同じで、抑止力のために保有する国もあるだろう。
 核兵器と異なるのは、作成が容易という点だ。
 テロリストが使用してきても不思議ではない。

 ミラはガスを避け、イヤホンに手を当てる。
ミラ
ミラ
緊急事態発生!
アシュラム様が捕らわれた!
Y公園北口付近からワゴン車が逃走!
 ミラは煙を避け、他の護衛とともにアルを追っていった。
 エイミは、周囲を見回す。
鈴木エイミ
鈴木エイミ
(これが本当にマスタードガスだったら……)
 マスタードガスは残留性が高い。
 開けた場所ゆえまもなく拡散するだろうが、公園には一般人もいる。
 放置することはできない。
 そのとき、
女の子
この匂いなぁに?
 女の子が不思議がってガスの発生源に近づいていった。

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