3年が過ぎた今、変わったことといえば、私の生活環境がガラリと変わったぐらいで
社会人になり、世の中の厳しさを知った
実力で全て評価されたり、1人の過ちが全体に影響を与えたり、何事にも責任はつきもので
これが社会人か、なんてことを考えていれば、いつのまにか3年の時を経ていた
ただ、イエンちゃんのことは忘れることなんてできなかった
イエンちゃんはもう私のことなんて忘れてしまっているだろう
むしろあんな非現実的なことが起きたこと自体夢だったんじゃないかって、何度考えたのか
でも不思議と、そう考えれば考えるほどマインドコントロールされたのか、私自身も本当にそんな過去があったのかわからなくなってきたんだ
ただ、私の胸元で光るこのリングは嘘をつかない
当時STAYだった私でも知ってるんだ
彼のこのリングがどれほど大事なものだったのか
彼がいつもつけているリングを見かけなくなったことから、SNSにはリングの在処を探る書き込みをぼちぼち見かけた
イエンちゃんがあのリングに触れた話題を見つけるたび、もしかしたら私のことを思い出してくれるんじゃないか、なんて呑気なことを考えていた
連絡先だってどうせあの頃から変わってるだろうし、変わってなくとも私の連絡先は消えてると思う
そして肝心のイエンちゃんは、私と離れたあの日から特段変わらない姿をSTAYに見せている
やつれてもいないし、変なところも見られなかった
なんだ、よかった
離れてもイエンちゃんがあの時みたいに酷く苦しんでいなければいいと、毎日願っていた
3年も経ったんだから、神様だってもう私たちに構う暇もなくなったんだと
てか神様なんて、いなかったんだよ
とにかくイエンちゃんが健康で幸せでいてくれるのが、私の何よりの幸せなんだ...............
だからあの時のことは、ちょっとだけ長い幸せな夢を見たことにしたんだ
このリングは私がイエンちゃんの幸せを願うために必要なものだと、そう思うようにして
収録を終えたメンバーたちがドアの向こうからガヤガヤとしてるのが聞こえてきたので、それと同時に気持ちを切り替えた
ゾロゾロ入ってくるメンバーはいつも以上に汗だくで、すぐさま飲み物やらタオルを持っていく
空になったペットボトルを見せつけては、爽やかに笑うスホ
私の背中を押して半ば強引に連れ出される
まあでもまだ新人だし一人でフラフラさせるには少し危なっかしい子だから見ておかないと..........って私、別にマネージャーでもないんだけどな
そんなことを思い浮かべながら、頭の上からは上機嫌な鼻歌が聞こえてくるが、思ったよりクオリティの高い鼻歌に思わず見上げてしまった
やっぱり随分背の高いスホは、首をかしげてその爽やかさを存分に生かした笑顔で私を見つめる
なんかフレッシュでいいな.........なんて思ったり
今日はスーツだからかいつものお茶目な感じが半分なくなっていてるけど、やっぱり行動一つ一つは年相応のやんちゃさが垣間見える
気がつけば自動販売機の前で、どれにしようかなーとぼやいているスホの声と、
「ヤー!なんで俺が買わないといけないんだよー!!」
............待って、この声、聞いたことある
「あははっ、チャンビニヒョンが勝手に飲んだのがいけなかったんだよーㅋㅋㅋ」
”チャンビニヒョン“........?
あまりにも聞き馴染みある名前と、その言葉を発した低い声の持ち主
「ほんとにさー、喉カラカラで死にそうなんですけど?」
.............嘘、でしょ
絶対聞き間違えるはずのない、その声
少しだけ訛りが入って、気だるげで
そして、私が1番大好きだった”彼の“声
咄嗟に階段下の物陰に隠れ、状態も伺えないまま息だけを殺す
おそらくスホは、彼ら.....スキズに遭遇して戸惑っているんだろう
いやでもなんで?アンコールステージあるから鉢合わせるなんて思ってなかったけど、そんなすぐに終わったの?
ごめんスホ
勝手に消えるなんて、しかもスホを一人ぼっちにさせるなんて....でもこれは致し方ないの............
私の後ろには、イエンちゃんが
手の届く距離にいるのに
もちろん私には今から身を乗り出す勇気なんて微塵もない
心臓がありえないほどドクドクと音を立てていて、あの時の記憶がパーっと一気に蘇る
聞こえてくるイエンちゃんの声に、心臓がキュッと掴まれるような感覚に陥って、次第に呼吸が荒くなり冷や汗も止まらない
苦しいのに、あの時感じていた愛しい感情が沸々と湧き出ていて、早く去って欲しいのに去って欲しくないような
”あなたヌナ“
そうはっきりとイエンちゃんのつぶやいた声に、思わず涙が出そうになる
もしかしたら私のことを思い出してくれたのかな、とか、そんな都合のいいことを一瞬のうちに考えてしまって
?!!!!!
ちょっとそれはやばいよ、どうにか言ってよスホ!!!
スホはありがとうございます!!!と大きい声でお礼を言っては颯爽と階段を上がって行き、彼らも飲み物を買って颯爽とどこかへ行ってしまった
チラッと自動販売機を見れば誰も人もいなくて、足音も声も聞こえない
誰もいないとわかって一気に気が抜け、その場にペタリと座り込む
まさか思いもよらぬところで遭遇しかけるなんて、誰が想像できたのか
スホにはあとで謝ろう
ただ私にも事情ってのはあるんだ.............
当たり前に私の頭の中はイエンちゃんでいっぱいだし、階段も登り切ったのに一生心臓がドキドキしているのは、きっとあなたのせい
忘れようとしていたあの時の記憶が、再びよみがえった
















編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!