なぜか来てしまった同窓会。
ぼーっと思い出すのは目の前で忙しそうに人と話す、
彼女とのかけがえのない思い出たちばかり。
心の奥底にしまったアルバムを
私は久しぶりに取り出し、笑みをこぼす。
「春はいっしょにお花見に行ったよね。
優しく私の頭から花弁を払う彼女の瞳に見惚れて、
結局どんな桜だったかなんて覚えてない。」
「夏は2人きりで夏祭りに行った。
なぜかイタズラ気に笑った彼女は、
何の前触れもなく私の手を掴む。
って顔を赤く染める私の手をずっと
花火が終わるまで、家にたどり着くまで、
たとえ人が一人も歩いていない夜の路地でも
離さないでいてくれたよね。」
「秋は確か、すごくしょうもないことで喧嘩した。
仲の良い2人で有名だった私達は
喧嘩することなんて滅多になくて、
そのせいで色んな人に迷惑かけて、
結局、挙句の果てに
一ヶ月の冷戦は
彼女の泣きじゃくりながらの謝罪で幕を閉じた。
縋り付いて泣くその様はまるで子供みたいで、
でもきっと私なんかよりも遥かに大人な彼女は
引くに引けない不本意な喧嘩に終止符を打ってくれた。」
「冬はあなたにマフラーを編んだ。
こんな可愛くない返しでも、
彼女は優しく微笑んで、
「大事にするね」って言ってくれた。
夏に切り替わるギリギリまでそれを付けてくれて。
毎朝、その不格好なマフラーに
嬉しそうに顔を埋めていた彼女を見て、
私はどうしようもなく胸がドキドキ高鳴った。」
いくつもの季節をいつものように過ごした私達。
やわらかくて優しくて
無期限、無条件の幸せだと思っていた。
このときが終わるはずがないって思っていたから。
だけどそれが長く続かなかったのは、
お互い「好き」の一言だけが
どうしても言えなかったからに違いなかった。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。