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第98話

クラゲにも似ている
32
2024/01/12 23:22
胸が苦しくなった。

私は思わず唇を噛む。
慣れない、でも感じたことのある感情だった。

私を置いて出ていく背中が怖い。

もう戻ってこないんじゃ______。
男の子
………お姉さん
あなた
ん?どしたの?
男の子
………あの、ありがとう
あなた
………全然!大丈夫だよ!ほら今のうちに
このティッシュで血拭いて
____いや、大丈夫。

彼はきっと戻ってくる。

泣いて待つ必要なんてない。
あなた
……君はお母さんのこと好き?
男の子
うん!僕の好きなハンバーグ作ってくれるからね、
あと一緒に遊んでくれる!怒ると怖いけど…
あなた
あははwそうだよね〜
笑いながらふと思い出を探る。

3歳の頃に叔母さん達の元へ預けられてから、
一度もそういったことは無かったように思える。

特に叔父さんの記憶は曖昧だ。

私には無関心で、関わり合いを避けて、
そんなあの人に振り向いてほしくて、私は家事を覚えて____。
あなた
(………駄目。余計な事ばっか思い出す)
比べて叔母さんはよく話しかけてくれた。

キッチンには中々立たせてもらえなかったし、
5時までに家に帰らないと心配されたけど。

深い愛情ばかりを込めてもらって、それで
なんだか距離がわからなくなっていって。

………でもそういうのも小学生までだったなぁ。

私が中学生になってからは、お互いに
干渉するのを恐れていたのかもしれない。

あまり何も言われなくなったし、何だか、極端な人で……
男の子
お姉さんはお母さん好き?
あなた
、っ…………うん、大好き
わからない。
男の子
いい事だね!
私のお母さんは
あなた
そうだねぇ
帰ってこなかったのに______









セツ
ただいま
あなた
っ…!
視線を上げると、息も切らさず彼は立っていた。

肺に引っかかっていた何かがストンと落ちて
どっと安堵の息をつく。



________あっ。










絆創膏を膝の上に貼り、私達は歩き出した。
女性
…………っケイタ!
男の子
あ、お母さん
程なくして少年はお母さんと再会した。

案外すぐ見つかったもんだから
少し呆気ないなと肩の力が抜けてしまった。
女性
本当にありがとうございました
男の子
ありがとうございました
セツ
はい、お気をつけて
彼らは別のフロアへ歩いていく。

セツくんは見えなくなるまで手を振っていた。

私はその顔をじっと見上げていた。
あなた
…………
セツ
やっぱ魚なんだよな
あなた
わかるわかるぞ〜
イルカショーを見た後、私達は
水族館を出てセツくんのオススメの洋食店に入った。

注文は勿論魚料理だった。



___________それよりも
あなた
…………ねぇセツくん、変な事聞くけどさ
セツ
ん?



あなた
……3歳くらいの頃、お祭りって行った?
セツ
…………
それは断片的な記憶。

微かな祭囃子と、酷い人混みと。

そして小さな絆創膏。
セツ
…………行ってない
あなた
…………そっか。まあそうだよねー
セツ
…………
まぁ彼が行っていたとしても、それが確定することはない。



_________私が昔お祭りで会った、あの少年のこと。
セツ
……そんなことよりあなたの下の名前、こっち向いて
あなた
ん、
パシャ、という軽いシャッター音。

にやりと笑いながらスマホを構えるセツくん。
あなた
…え
セツ
めっちゃ幸せそうだったから
セツ
可愛いかった
あなた
…………
あなた
…………………
あなた
……………………………ちょっと!!

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