第97話

水族館にくると魚が食べたくなる
24
2024/01/09 11:33
11月3日。

雨が降っていた。
あなた
水族館なんて遠足ぶりだなぁ。屋内で良かったね!
セツ
あぁ。急に雨降るんだもんな
この日私はセツくんと水族館へ来ていた。

近々リニューアルするのでしばらく入れなくなるからと
セツくんが誘ってくれたのだ。

私自身あまり水族館での思い出はないし…。
あなた
綺麗なとこだねー。セツくんはここ来たことある?
セツ
…………いや、ない。そもそも水族館も来たことなくて
あなた
えっマジで?
セツ
うん
セツくんはにまりと笑いながらこちらを向く。
セツ
だからあなたの下の名前が初めて
あなた
…………、そ、そうなんだ
彼は答えを聞くとさっと私を引っ張って大水槽へ歩く。

…………突然でびっくりした…。
女性
イルカショーすごい人だったねー
もう11月なのに
人間
次はシャチが来るらしいよ。
その時また行こうか
セツ
…………シャチか…
あなた
いいねー次また行こ
今日は休日のために人が多い。
いや、混雑していると言ってもいい。

しかしこの雨の中でもイルカショーは通常通りらしいな…。
あなた
イルカ見に行く?
セツ
お、じゃあせっかくだし行こうぜ
あなた
うん!
小さなケースの中で泳ぐ魚達を眺めながら
私達はイルカショーまでの時間を潰すことにした。
あなた
このチンアナゴくそ可愛い
セツ
何でチンアナゴって名前なんだろうな
あなた
ちょっ//やめてよそういう話!
セツ
何も言ってねぇよ
セツ
ウツボカズラって夢あるよなー
あなた
それ植物
セツ
え?
あなた
生まれ変わるならくらげになりたい
セツ
クラゲって睡眠とらないらしいぜ
あなた
えっ可哀想
ネオンに光る筒状の水槽の間を進む。

その静かで仄暗くて神秘的な空間には
何もかもを忘れさせる穏やかさがあった。
セツ
…………あ、もうそろそろ始まるっぽい
あなた
人が引いていってるね。
私達もいこうか
既に誰もいなくなった空間には私達の声しか響かない。

これを見終えたらもうお昼か________
男の子
………お母さん…
セツ
あなた
っ…!
不意に声が聞こえた。

その声のする方へ身を翻すと、
そこには小学生らしき男の子が隅にうずくまっていた。



確かめる間もなく彼は男の子に駆け寄っていた。

私も遅れて膝を折る。
セツ
どうしたの?
男の子
…………、おか、お母さんが…
怯えているように見える。

混乱して、怖くて、心細いのだろう。

お母さんと逸れた…のかな?
あなた
(…………お母さん…)
きゅっと胸が締まる。

一人は怖い。とてつもなく。

私は無意識に顔を歪ませた。
セツ
じゃあ一緒にお母さん探そう。な?
大丈夫、絶対に見つけるから。…………な、あなたの下の名前?
あなた
え、あっ勿論!
もう怖くないよー
目線を合わせて微笑みかけると、少年は少しはにかんだ。

さぁ、と言って立ち上がろうと少年に目を向けると
彼は少し涙目でこちらを見つめていた。
あなた
あっ怪我…?
セツ
……、じゃあ俺絆創膏買ってくるわ。
あなたの下の名前、ちょっと待っといて。
お母さん見つかったら連絡頼むわ
あなた
えっわかった!






ふと胸がきゅっと締まった。

何故か、もう戻らないような気がした。

彼は背中を見せて走り出す。

その背中を見て思い出す。


私はそれを知っている_______?

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