第4話

〜生徒たちの楽しみ調査〜 4
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2020/05/30 02:38
学校の周りを囲っている、ひしめき叢る樹木つづきの緑の海に迷い込む、一年は組の初島孫次郎と、一年い組の諸泉尊奈門、そして、同じくい組の鶴町伏木蔵と三人で突き進んでいたのだ。

「可愛い動物さんたち居ないかな〜?」

「久々の登校。路地も良いけど、森の中はもっとスリル〜」

「はぁ。何で俺まで」

孫次郎は生き物探し、伏木蔵はスリルとサスペンス探し、ただ何となく連れて行かれた尊奈門にとっては、退屈な時間に過ぎない。

「尊くんは何か探さないの?」

そう聞いたのは初島だ。

同じクラスではないが、諸泉の事を「尊くん」と呼んでいる。

「何か?ん〜」

と言われたらどことなく何を探すかを考えてそれを目標にしようとしていた途中

「小銭〜!小銭には落ちてませんか〜?」

「?」

前方を見れば、小銭探しで忙しそうにしている一年ろ組の摂津のきり丸と

「♪」

その近くで穴を掘っている二年は組の綾部喜八郎の姿が。

「………………………………………」

きり丸はいつものように小銭探し。

喜八郎先輩はいつものように穴掘り。

って考えると。

俺の楽しみって一体何なんだ?

「ごごごごゴメン!」

ザッと立ち止まった彼を見る二人は、瞬きの数が多くなる。

「二人で楽しんで!」

そう言い、彼は走って学校に戻って行った途中で、盛り上がっていた根っこに脚を取られ

「うえ〜〜〜〜〜〜!!!?」

そのままバッターンと前に倒れてしまう。

「尊くん。何してるんだろう?」

「さぁ」

案外孫次郎は心配しているようだが、伏木蔵は全く関心すら無く彼に顔を向けて笑みを浮かべる。

「尊奈門はほっといて探しに行こう」

「うん。そうだね」

孫次郎も笑みを浮かべて一緒になって探しに行く。

その時、諸泉はこう感じた。

皆、嫌いだ。

「うわ〜!」

とたん、二人の大きな声が聞こえて上半身を起こしてバッと顔を向けると

「!!!!!?」

綾部が掘った穴に見事落ちていて、すっぽりと大きな穴が。

「ぶふっ!ふっはっはっはっはっ!」

立ち上がり、ワイシャツについた土を払いながら歩いて近寄る。

「言い気味だ!鶴町伏木蔵!初島孫次郎!そうやって自分の事ばかり考えてるか」

とたん、あと三歩のところでその穴に近付けるところで

「らーーーーー!!」

彼も落ちたのだ。

「諸泉(しょせん)くんもねー」

穴を掘っていた喜八郎は覗き込みそう口にする。

「諸泉尊奈門だ!!」

落ちたその勢いで仰向けになって股を広げている。

「小銭に〜!小銭には落ちてませんか〜?」

相変わらずきり丸は誰にも関心が無い。

暫くして穴から出て学校内に戻った尊奈門は、まず初めに、自分のクラスの生徒たちから学ぶ為に、「楽しみ」を探して行く。

「なめくじさ〜ん。偉い偉い」

教室内の床には、なめくじの行進が。

「山村喜三太はなめくじで遊んでいる、と」

シャーペンとメモを手に先ずは書いていく。

「その他は携帯かトランプで遊んでいる。次だ」

次に調査したのは隣の組のろ組だ。

「ここも携帯かトランプ。あとは、読書か。良し」

そしては組へ。

「うわっ。は組の教室は色んな生き物がいる。孫次郎か?」

最初に目にしたものは、収納棚の上の生き物たち。

「違う違う。人間を観察しなければ」

メモとシャーペンを片手に人間観察続行。

「しんべヱ。お菓子ばかり食べてると太るよ?」

いつものように体を気に掛けている乱太郎は、しんべヱの食に関して注意する。

「だって、お菓子美味しくて止められないんだもん」

机の上にはせんべいや金平糖、マドレーヌなどが広がっていた。

「しんべヱは食に関しての楽しみがある、と」

「照星先輩、夏休み中に会った僕の話しを聞いてください!」

「?」

ふとメモから顔を逸らして見ると、目をとてつもなく輝かせている虎若の目の前には、何と三年ろ組の照星の姿が。

「!!!!!!?」

佐武虎若の奴!

照星先輩と話している!

案外凄いやつ何だな。

「佐武虎若は、照星先輩と話すのが好き、と」

「ふはは。それは災難だったな」

楽しそうに笑う彼の顔をは、案外可愛かった。

「照星先輩は、笑うと可愛い。よし次だ」

何だか要点が違くなってきたが、次に向かったのは二年い組だ。

「ここで僕の豆腐講座!」

黒板の前では豆腐に関して熱く語る久々知兵助の姿と、周りには池田三郎次や三反田数馬の姿が。

「久々知先輩は豆腐講座を開いている、と」

「ちょっと雑渡!ここ私の席何だけど〜!」

「?」

雑渡?

雑渡先輩?

耳に入って来た声を頼りに顔を向ければ、ともみの席に座っている、二年は組の雑渡昆奈門の姿が。

「?」

あっれ〜?

何で雑渡先輩がともみ先輩の席に?

「全く。そんなに座りたければどうぞ」

体を横に向け、組んでいた長い脚を広げて腿をパンパンと叩く。

「嫌よ変態!」

脚の上に座れってか。

「お前はそうやって女に嫌われるような事をするからだ」

それに加わったのは立花仙蔵だ。

「あっ。立花仙蔵先輩だ」

分かったぞ!

「雑渡先輩はともみ先輩をからかうのが好きで、立花先輩は、雑渡先輩が女の子から嫌われるのを見て楽しんでいる、と。沢山の情報が掴めてきたぞ」

気付けばメモには色んな人の情報が。

結構満足出来たのか、彼は笑みを浮かべる。

「よ〜し!次だ!」

ダッと走り、次々と見て情報を手に入れて行った尊奈門は、自分の教室の席に着いてメモを見返す。

「えっと〜。何々?三年い組の食満留三郎先輩は、大木雅之助先輩と大声で張り合っていて、反屋壮太先輩と山田利吉先輩は何か書いてたな〜。っで、尾浜勘右衛門先輩は不在だったと」

メモ帳をめくり、目を通す。

「三年ろ組は、彫刻の凄腕先輩の手首に包帯を巻く、二年い組の善法寺伊作先輩が対応をしていて、潮江文次郎先輩と五条弾先輩が何だかケンカしていて、竹谷八左ヱ門先輩は黒板消していたっと」

まためくり、最後に三年は組の情報わ目に通す。

「三年は組は、高坂陣内左衛門先輩が教科書を読んでいて、平滝夜叉丸先輩と風の玉三郎先輩が「良い男」とか、「女の子にモテる人気ナンバーワン」とか言って張り合っていて、はちや三郎先輩は植木に水を上げていて、七松小平太先輩は笑いながら走り回ってて、斎藤タカ丸先輩は、北石照代先輩の髪を変にしちゃって怒られていて、椎良勘介先輩はそれを見て笑っていたっと。て言うかこれ、「楽しみ」とか、「何かを探してる」とかじゃなく、今日の自由時間何をしていたかを書いただけじゃないか」

どんどんと要点が変わってきて、たどり着いた先は自分の求めているものとは全く関係のない答えにたどり着いていたのに気付いたのだ。

「はぁ」

大きなため息を吐いてメモ帳を閉じ、彼は上半身を倒してしまう。

結局。

俺の楽しみって。

学校では無いのかもしれない。

やがて教室から出た尊奈門は廊下を歩いていると

「あっ!」

目の前には教員兼父親代わりの土井半助の姿が。

「土井半助!」

「?」

ふと呼び掛けられ立ち止まれば、後ろを振り返る。

「何だ?尊奈門、ってお前。何だその格好は。土だらけじゃないか」

「ほっといてくれ!次の英語の授業。俺は必ず良い点を取って見せるからな!お前の教えではなく、俺なりに授業を楽しむ!」

指を差してそう宣言したのだが、結局は何が言いたいのか分からず、目が点になってしまう。

「はいはい。お前の好きなようにすれば良いさ」

呆れた表情を浮かべて口元が緩み、彼は歩いて近寄る。

「何だその言い方は!?俺を子供扱いしてるのか!?」

「その前に髪にも土が付いてるから、取ってあげる」

「そんなもの要らん!」

とか言いつつも男子トイレの洗面台の鏡の前に立って、髪留めをスルッと解いてバサバサの長い髪についた土をクシを通してとかしていく。

「土井先生」

「何だ?」

髪をとかしている先生の口調はいつもより優しさかった。

「俺、家では楽しみがあるのに、学校では楽しみが無い。何かこう、皆にはあるのに、何で俺だけ無いんだろうと思って。俺だけ浮いていると言うか」

濃い影に隠れて表情は見えず、洗面台の枠に手を付いて震える。

「………………………………………」

すると、後ろから手を伸ばしてギュッと抱き締め、こう、口にした。

「お前、毎日充実してるのに、勿体無いなぁ。気付かない何て」

「充実?」

「支えてくれる仲間が沢山居て、教えてくれる先生方が居て。お前、毎日充実して学校生活送れてるのに」

その通りだった。

楽しみとは、焦らずに探すものであり、喋ってくれる仲間、遊んでくれる仲間、からかってくれる仲間と、彼の周りには沢山支えてくれる人たちに囲まれて学校生活を送っている事を、忘れていた。

「………………………………………」

充実。

確かに楽しい。

俺一人の「楽しみ」は無いけど。

周りには。

そう言う連中がいっぱい居た。

「う、迂闊にもお前に悩みを打ち明けてしまった!」

バッと離れると後ろを向き、カアァッと頬を染める。

「ど、同情するなよ!俺は、ただ!不満を、だな!」

「はいはい分かった分かった。髪結ぶから動くな」

肩を掴んで後ろを向かせて髪を結ぶ。

「はい出来た」

クシを持ったまま彼はトイレから出ようとしたとたん

「?」

尊奈門は走って抜かし、バッと顔を向ければ、カアァッとホオズキのように真っ赤にし、揺れる瞳で見詰めこう、口にしたのだ。

「ありがとう何て、絶対に言わないからな!」

そう言い放ち、ダッと走って教室へ向かう。

「ふぅ」

やれやれ。

教員兼父親何だから。

もっと頼って欲しいものだ。

自分には子供はいないが、諸泉をどれだけ可愛がっているか。

自分がどれだけ大切にされているかも、気づいて欲しい土井半助なのでした。

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