俺、早乙女あなたはウンザリしていた。
耳を突き刺す音、光に溢れる空間。その中で一心不乱に手を動かす大人たち。
ここはとあるパチンコ屋
一見ゲームセンターのようにも見えるが、居るのは大体おじさんだ。真顔な人もいれば、当たったのか叫び声をあげている人もいる。
一言だけ言わせてくれ。
「帰りたい……」
こんな所にいるのは決して俺の意思では無い。大学で仲良くなった友達がたまたまパチンカスだったのだ。
行こうと誘われても断っていたのだが、そろそろ毎日毎日言われることにもウンザリしてきて、今日は仕方なく承諾したまでだ。
だから決して自分の意思では無い。でも、当の本人はもうどこかに行ってしまったし……俺、来る意味あったかな?
することも無くてウロウロしていると、マスクにバケハを被った男の人が寄ってきた。
「初めてですか?」
「あ……はい」
近くで見れば高い身長にスラッとしたモテそうなスタイル。とてもパチンカスには見えない人だ。
「打ち方分からないんすか?」
「いや、打つつもりは無くて…友達に誘われただけなんで」
「油断してちゃダメですよ〜。俺も友達に連れてこられて打ってみたら見事にパチンカスになったんだから」
「はぁ……そうなんですか」
綺麗な人だから一見近寄りがたそうだけど話してみればフレンドリーな人なのだと分かる。
「1回だけ、やってみません?」
そう言って笑う顔はパチンコに向かうギャンブラーだというのに、俺は思わず見とれてしまった。
こんな人に笑いかけられたら男女問わず誰でも落ちそうだ。だってイケメンすぎる。
「や、大丈夫です」
だが断る。
俺は絶対にパチンカスにはなりたくない。断固として。この人の話を聞けば尚更だ。
「そうですか〜…まぁ、また機会があればやってみて下さい」
その機会は来ないだろうが、俺は何となく愛想笑いをしておいた。もしかしたらこの人は仲間を増やそうとしたのかもしれないけど、それはお断りだ。
その人と別れた後、友達を探してみたら既に1万程使っていたようで、金をせびられた。あげるわけないだろ。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!