数日後。俺は人気のない道路で人を待っていた。相手は名前も知らないおじさん。
どうやらその人は俺のような貧弱な若い男が好みなようで、アプリを入れて早々に話しかけられた。
そう、それはゲイの出会い系アプリ。
でも、俺はゲイと言う訳ではなく、このアプリを入れたのはただ興味があったから。
普段の自慰で穴を使うというだけで、俺が男を好きなのかは分からない。少なくとも、今までになったことは無い。
でも、この前借りたAVで見てしまったのだ。
尻の穴に太い肉棒を、乱暴に抜き差しされる映像を。
そこで、所謂受けという立場の人は、それはもう気持ちよさそうで……そろそろ玩具にも飽き飽きしていた俺には興味をそそられるものだった。
そうして俺は、若干の深夜テンションもあり、このマッチングアプリを入れたのだ。
「あ、君があなたくん?」
「……はい」
「よろしくね」
話しかけてきたのは小太りの中年男性。マッチングした時は大人びたイケおじという印象だったから……その、まさか本当におじさんが来るとは思わなかった。
そういうアプリにありがちな事だとは分かっていたはずなのに……いざ対面してみれば足が竦む。
「じゃあ行こうか。近くにホテルがあるから案内するよ」
顔はニコニコと笑っているが、腰に当てられる手は執拗に俺を撫で付けていた。
今からこの人とヤるのだ。
全く、素性も知らないこのおじさんと。
そう自覚した途端、酷い嫌悪感を抱いてしまった。気持ち悪い。触らないで欲しい、と。
だけど、これを望んでいたのは自分だし、今更断るなんて出来ない。
段々と目的地に近づいていて、涙が溢れそうになった、その時
「おい、何してんだよ。離せや」
見覚えのある紫髪が見えた。
「はぁ?僕はこの子とちゃんと同意の上で一緒にいるんだ。他人にとやかく言われる筋合いはない!」
「じゃあなんでコイツは泣きそうなんだよ」
「は……?」
おじさんに顔を覗き込まれる。バレてしまった。泣いていることを、知られてしまった。
「ご、ごめんなさい……」
「行くぞ」
「はぁ?お、おい!!」
紫髪の人は俺の手を強く引いて、おじさんから離してくれた。
パチンカスなはずなのに、その姿はまるでヒーロー見たいで。
「……っ」
俺の心臓は、ドクドクと激しく脈を打っていた。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!