「で、お前はなんであんなヤツといたんだ?」
あの場所から少し遠くまで来たところで、立ち止まった紫髪の男に質問を投げかけられた。
「……マッチングアプリで……知り合って」
「はぁ!?」
相手には呆れと困惑の混ざった顔をされた。当然だろう。
だって自分からマッチングアプリを始めたのだから最初からその気なはずなのに、嫌がって。
自業自得な癖に、いっちょまえに被害者ズラして、そんなの…呆れられても仕方ない。
でも……だけど───
「……て、みたかった」
「え?」
「1回でもいいから、抱かれてみたかった!!」
泣きながら、自分でも何を言ってるのか分からなくなってきた。
でも、この涙はきっと、嫌悪ではなく安堵から出たものだ。
「へ〜…、君そういう趣味だったんだ?」
「別にいいだろ。俺だって、こんなはずじゃ……」
顔を見てないからどういう感情なのかはわからないが、明らかに好意として感じられていないことは確かだ。
俺だって少し垣間見るだけにしようと思ってただけで、まさかこんなことになるなんて……
「ふーん……まぁ、そんなにヤりたいなら俺が相手になろっか?」
「……え?」
「だって、おじさんには抱かれたくないんだろ?これでも20代前半だし、ルックスもいいんだけど」
それ、自分で言うのかよ……と思いながら事実なので否定出来ずにいた。
というか、その前……なんて言った?
「俺が相手になろっか……?」
「うん、だからそう言ってるだろ」
え、いやいやいや。おかしいだろ。なんでそうなる?
「あ、でもヤる代わりにお金ちょーだい」
「……」
あぁ、そういえばこの人、パチンカスだったな。金のためだったら何でもするのか……。
俺はこの人について深く考えることをやめた。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。