チュンチュン……という雀の声がして目を覚ました。見慣れた天井、だけど、何故かいつもと違う気がする。
現実味のない浮遊感……と、全身にかかる疲労感!!!
「うぁ"〜……腰いてぇ……」
昨日の行為から引きずっていて、その上初体験だったからなのか……腰が死ぬほどの激痛が走る。
腰が痛くなることなんてジジイになるまでないと思ってたのに……これから大学だけど行けるかな、俺。
腰をさすっているとスマホからピコンと音がして通知が鳴った。見てみれば俺にこんな身体被害を負わせた榊さんだった。
《おはよー起きた?仕事あるから先帰ったけど大丈夫そ?》
榊さん、仕事してるんだ……という失礼なことを思いながら《大丈夫です》と、返事をしておいた。
文面からも伝わるおちゃらけ感。とても仕事人には見えないし(酷い…By榊)、多分交通整備とかしてるんじゃないかな?なんていう考察なんかをしてみて、やめた。
変に模索するのは良くない。あくまで俺と榊さんはセフレなんだから。
《お金はまた今度会った時にちょーだい》
また通知がなったと思ったらお金についてだった。ちゃっかりしてるな……と思いつつ最初からその約束なので
《どのくらいがいいですか?手始めに2000円……とかですかね。基準が分かんないんですけど》
と返しておいた。
「はぁ〜〜……」
盛大なため息をして布団に顔を埋める。
この前……というか、榊さんに出会ってから俺は何かがおかしい。人間関係をキッパリ分ける性分で、自分からは関わりに行かないタイプなのにセフレなんて曖昧な関係を作って、成り行きでヤって。オマケに金まで払うなんて。
なんで、榊さんにはこうなるんだろう
そう考えたら嫌なことを自覚しそうで頭を振って無理やり思考を止めた。
「ただのセフレだから」
自分に言い聞かせるように口に出して、何事も無かったかのように出かける準備を始めた。
「おはよー!って、なんか疲れてね?」
クラスに入って早々、陽気なテンションで話しかけてきたのはゼミが同じの北見遊征。
朝なのによくそのテンションで居られるな……と思いつつも今は少し有難い。
北見はこう見えて気遣いが出来るし、しっかり人を見てくれるから、言うなればマジ良い奴なのだ。
呪術師?みたいなことに誘われた時は某アニメに影響されすぎたキッズなのかと勘違いしたけど。いや、キッズか??
「いやちょっと……昨日色々あって」
北見が不思議そうに見てくるから一応答えると納得したように前に向き直った。
「へー、気をつけろよな!お前って1人で抱え込むタイプだし、我慢するから」
核ついてくるな……なんで分かるんだよ。
良心が身に染みて「ありがとう…」と目を細めると北見もにっと笑ってくれた。
眩しい、これが人が大型犬に見える現象なのかと何となく分かった気がする。犬歯あるのは反則すぎ。男の俺でもかわいいと思うぞ。
「……なんか用あった?遊征からこっち来るなんてあんま無いし」
危うくオタク思考になりそうになった所で話を戻す。
本来なら北見は陽キャだから俺みたいなのに話しかける事はあまりない。
朝から元気よく挨拶をしてきたってことは何か用があるのだろう。
「え!?俺は用なくても来る!……けど、用あるのは事実だな……」
気まずそうに顔を逸らす北見。そんな気遣ってくれなくても別に俺は気にしないのに。
「実は買い物に着いてきて欲しくてさ」
「え、なんで俺?他の人でもいいじゃん」
「お前じゃないと無理なんだよ!!」
若干顔を赤らめながら必死に訴えてくる北見に本気度が伝わってくる。
北見がこんなになってまで買いたいものってなんなんだ……という好奇心もあり、俺はYESと答えたのだった。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!