第11話

引き抜き
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2025/11/01 09:00 更新
気まぐれで出席したパーティで、ないこは酒を勧められ、かなり飲んでしまっていた。

い「ないこ、そろそろセーブせんと」

り「そーだよ、心なしか顔色が赤通り越して茶色くなって来てるし」

な「ん〜」

りうらといふは酒を勧められても全て断っていたため、完全に素面。
一方、ないこも途中までは全て断っていたのだが、一口だけのつもりで口にした酒が好みの味だったらしく、人と話しながらだったのもあり無意識に随分飲み勧めてしまったのだ。

い「ほら、酔い覚ましの薬」

な「ありがとぉ……」

いふがふところから薬を取り出す。
この薬は、ないこは酒に強くないことに加えてあまり良くない酔い方をするため、ほとけがいふに持たせていたものだ。
それをないこが飲み込んだとき、恰幅のいい男性が三人にゆっくりと近づいて来た。

「今、お話いいだろうか?」



な「いやぁ〜、まさかベロベロに酔ってる時に同盟の話持ちかけられるとはね〜」

り「あの時はまろが咄嗟に録音始めたから良かったけど、寝て起きたら忘れてるんだもん。ほんと勘弁してよ」

い「大体あそこまで飲んだ時はないこ記憶飛ぶからな」

な「その節は申し訳ございませんでした」

男性に話しかけられた時、いふはないこに薬のゴミを受け取って懐にしまったときに録音を始めていた。この録音機もほとけが作ったもので、ポケットや鞄などに入ったままでも特定の距離以内に対象がいるならしっかり録音できる。
今回はないこのおさらい用だったが、この録音機は取引の場では何度も役に立っているのだ。

い「ほら、着いたで」

そうこうしているうちに、話の最後に渡されたらしいメモに書かれていた場所に到着する。
立派な門の前で止まれば、スーツを見にまとった男性が一人駆け寄って来た。

「ないこ様、りうら様、いふ様でございますね? ただいま門を開きますので、中へお進みください」

数秒もしないうちに門が開き、いふが中へと車を進ませる。

な「結構ちゃんとしてるね」

り「昨日の格好、所作を見る限りだと相当大きいファミリーだと思うよ」

そうして通されたのは、ないこが話をした恰幅の良い男性が座っている応接室だった。後ろには側近と思われる男性二人が控えている。

「ご足労いただいて感謝する。早速だが、本題に入ろう。うちと同盟を組まないか?」

な「同盟、と言うと?」

「そうだな。ここではお互いが危険に瀕したら、お互いが資金や武力の手助けをする、と言うのでどうだ?」

な「……なるほど」

「そして、もう一つ。君達の活躍は私の耳にも入っていてね。特にそこの赤髪の少年! 君は筋が良いし何より若い! とても良い人材だ。どうだ? うちに来ないか?」

り「え……」

突然自分に目を合わせて饒舌に話し出した男性の勢いに、不意をつかれたりうらが身じろぐ。
ないこの方を確認したが、りうらが立っている場所からはないこの表情を伺うことはできない。

い「りうら、部屋の外で待っとって」

いふがりうらを外へと促す。
その冷え切った声に気押されて、りうらは素直に部屋の外へと出た。
流石に防音設備が整っているようで、中の話し声は聞こえない。
もちろんりうらは他のファミリーに行きたくはないし、ないこ以外の人間の配下につくなど言語道断である。
二人のことは信じているが、不安が全くないわけではない。
なぜ自分は外に出ろとの指示を受けたのか、自分に聞かせたくない話をしているのだろうか、とネガティブな疑問だけが浮かんでは消えていく。
りうらは扉の近くをウロウロしながら、二人を待つのだった。

            ◇◇◇

扉が静かに閉まり、ないこが再び口を開いた。

な「すみません、もう一度お願いします」

りうらが退出したことで、空気が一気に変わったことに嫌でも気づきながらも男性は言葉を続ける。

「赤髪の彼をうちのファミリーに招待したい。今の取引の内容をそちらに有利になるように変更するし、場合によっては断るとそちらの不利益に繋がるんじゃないか? 悪い話ではないだろう?」

な「残念ながら僕らは目先の利益を優先して家族を差し出すほど困っていないので。お断りします。同盟の件も白紙に戻します」

「待っ──」

男性の制止の声を背中で聞きながら、ないこは部屋を後にする。
最後に部屋を出るいふの目に睨まれ、その声も途切れた。

な「りうら、お待たせ。帰ろっか〜」

り「えっと、俺……」

な「断ったよ。全部」

ないこの言葉にりうらは安堵の表情を浮かべたが、最後に付け加えられた言葉を聞いて目を見開く。

り「全部⁉︎」

な「うん」

い「あいつと同盟組むのは俺も嫌やわ」

な「てか俺がりうらを差し出すと思ったの? ひどいなー」

り「いや! 信じてたけど行きの車で話してた内容聞いたらちょっとは不安になるじゃん! て言うか断り方によっては……」

な「ちょっとやばいかも?」

い「まぁ、あれなら誰が相手してもこうなってたやろ」

な「一応帰って事情はみんなに話しておこうか。間違いなく機嫌は損ねてるから」



「ただいま〜」

三人で同時にただいまを言うと、ちょうど近くにいたらしいしょうが三人を出迎える。

し「おかえり! 同盟組め……てなさそうやな」

い「いや〜」

な「あいつがりうらの引き抜き提案してきたから全部まとめて蹴っちゃった」

ゆ「それはしゃーないわ。夕飯もうできとるから冷めないうちに食べ」

な「ごめん、攻撃されるかもだから一応警戒お願いね」

ほ「僕らの誰が行っても絶対同じ結果になってたから大丈夫だよ。むしろ僕から殴り込みに行きたい」

い「だよな。何なら感情的にならなかったの偉いわ」

な「やっぱ同盟って難しいな〜」

ゆ「別にこのままでもいいんちゃう? 別に困ってないし」

い「やばい時の保険みたいなもんやからな〜……」

り「……ん。なんか来たね」

頬を膨らませながらりうらがゆっくりと顔を上げた。

し「まじか。早すぎ」

ゆ「うわ、結構な人数いそうやでこれ」

六人の中でも特に耳や第六感に優れている二人が反応する。
今更この二人がそれを間違えるはずがない。

な「面倒くさいから、ほとけっち、あれ試して良いよ」

ほ「え! 良いの⁉︎」

い「何?」

な「準備してもうやっちゃって良いよ。失敗とかのバックアップは俺らがやるから。とりあえず、はい」

し「ガスマスク?」

ほ「やった! 今日風ないし、ちょうど実験体ラットが欲しかったんだよね」

な「ちなみに今開発中の超強力な毒ガスね」

り「なるほど」

ないこが浮かれるほとけ以外の四人に耳打ちすると、納得した顔で頷かれた。



全員が車などから降りたタイミングで毒ガスが仕込まれている手榴弾を真ん中に投げ込んだ結果、ファミリーはほぼ壊滅。
生き残った数人はほとけの研究対象として捕縛された。
なんでも「吸い込んだ人間は全員死に至るはずだけど、抗体とかがあるなら解毒剤として持っておくのもあり」だそうだ。
そもそもこの毒ガスはほとけが一から開発したものではないため、不明確な事が多かったのだ。

ほ「りうちゃんをお前らなんかにあげるわけないでしょ」

もがき苦しむ彼らの前で、ほとけはガスマスクの下で冷笑を浮かべていたらしい。

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