第4話

第4章 隠している期間
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2026/02/15 08:53 更新
 自覚してしまったあの日から、れいは少しだけ器用になった。
 顔に出さないこと。
 声を揺らさないこと。
 距離を保つこと。
 ——好きだと悟られないこと。
 それが、最優先になった。
 昼休み。
 なおがれいの席に来る。
「れい、今日お弁当なに」
「普通」
「卵焼きある?」
「ある」
「ちょうだい」
 れいは何も言わずに半分渡す。
 今までと同じ。
 むしろ少しだけ優しいくらい。
 なおは満足そうに笑う。
「やっぱれい好き」
 軽い言葉。
 でも、今は刺さる。
 れいは笑って受け流す。
「安い好きだね」
「本気だよ」
「はいはい」
 平静を装う。
 でも、目が合うと少し逸らしてしまう。
 なおはそれに気づく。
「れい、最近さ」
「なに」
「なんか、優しくない?」
 れいは一瞬止まる。
「意味わかんない」
「前より甘い」
「気のせい」
 甘い。
 その言葉に、胸が揺れる。
 隠そうとしているのに、逆に滲んでいるのかもしれない。
 放課後。
 教室には数人しか残っていない。
 れいは机に向かい、ギターのコードを書いている。
 なおが隣に座る。
 膝が触れそうな距離。
 れいは自分からは近づかない。
 でも、離れもしない。
「弾かないの?」
「今日は指痛い」
「うそ」
「ほんと」
 なおはじっと見る。
 視線が長い。
「れい」
「なに」
「なんで目合わせないの」
 どき、とする。
 自覚してから、意識的に避けていた。
 目が合うと、何かが漏れそうで。
「合わせてる」
「合わせてない」
 なおは少し身を乗り出す。
 距離が近い。
 近いと、息が浅くなる。
「なお」
「なに」
「近い」
「前は言わなかった」
 その通りだった。
 前は、気にしていなかった。
 今は、気にしすぎる。
 なおは少しだけ困った顔をする。
「れい、わたしのこと嫌いになった?」
「ならない」
 即答。
 迷いなく。
 それだけは、嘘がない。
 なおはほっとしたように笑う。
「ならいい」
 その笑顔を見て、胸が痛む。
 好きだ。
 好きだから、言えない。
 好きだから、壊したくない。
 帰り道。
 信号待ちで、なおが袖を掴む。
 無意識みたいに。
 その小さな仕草だけで、心臓が速くなる。
 なおは気づいていない。
 れいだけが知っている。
 この鼓動の意味を。
「れいってさ」
「なに」
「わたしが他の子と仲良くしてても平気?」
 唐突。
 試すようでもなく、ただの疑問みたいに。
 れいは少しだけ息を止める。
 正直に言えば、平気じゃない。
 でも。
「平気だよ」
 嘘をつく。
 なおはじっと見る。
「ほんとに?」
「うん」
 なおは何も言わない。
 でも、その視線は少しだけ長い。
 夜。
 れいはベッドで目を閉じる。
 今日のなおの表情を思い出す。
 不安そうな顔。
 探るような目。
 もしかして。
 少しだけ、気づかれているのかもしれない。
 でも、まだはっきりはしていない。
 れいは決めている。
 言わない。
 好きだと伝えることはしない。
 この距離が続くなら、それでいい。
 隣にいられるなら、それでいい。
 それ以上を望まなければ、壊れない。
 ——はずだった。
 でも、感情は隠すほど濃くなる。
 なおが笑えば嬉しい。
 触れられれば苦しい。
 他の子と話せば、胸がざわつく。
 れいは知っている。
 もう後戻りはできないことを。
 好きだと、自覚してしまったから。

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