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第5話

episode3
2,062
2025/02/15 09:08 更新


弟は、何かと僕の真似をしたがった






《にぃーーに!……いぃいー!!》


《はいはい、僕はここだよ。なぁに?》








物心つく前から、僕が行くところに一生懸命着いてきて…僕がご飯を食べるまでミルクも口にしないし、昼寝だって、僕が目を閉じないと意地でも寝ようとしなかった。物心ついたあとも、なんでもかんでも真似をしたがって……それが可愛くて可愛くて仕方がなかった














だけどある日、あの事故は起きた




『にぃーに!』


「んー?どうしたのあなた」





炎の火力をどこまで上げられるか鍛錬していた僕を見て、あなたも真似をしたくなったんだろう。庭先にいた僕の元まで駆け寄って来た弟は、両手に淡い炎を纏わせていた



『みちぇー!』


「見てるよー、すごいねあなた!」


『にぃにと、いちょねー!』


「うん、僕と一緒だ。にぃにとお揃い」


『えへえ』



見てみて、と飛び跳ねるあなたを褒めてあげれば嬉しそうに頬を綻ばせて僕を見上げる。左手に纏わせていた"青"炎を消して頭を撫でてあげれば弟は僕の足にしがみつき『にぃに』と甘える様に頬を擦り寄せてきた




「あなた、にぃにはもう少し特訓するから……そうだな、あなたはそこでにぃにの応援しててくれる?」


『がんばえー?』


「うん、そう。がんばれーって、応援してくれるとにぃに嬉しいな」


『いーよー!』





少し離れた木陰を指さし言えば弟は素直に頷いた。木陰の下に腰をおろして、僕に向かってガンバレと小さな手を一生懸命振っていた。あなたは聞き分けの良い子だった……危ないからとちゃんと言えば僕の真似をしようとはしない。……そう、"ちゃんと言えば"…きっと、防げていたんだ





















再び鍛錬に戻った僕は炎の温度を上げることだけに集中し過ぎて、あなたの方を気にかける事が出来ていなかった。だから…きっと、それがいけなかったんだ。たった数分……されど数分……そんな短い間、意識を向けていなかった僕の耳に『ぎゃっ』と短い悲鳴が飛び込んだ





「!?」





驚いて振り向いた時には遅かった。先程まで確かにそこにいた筈の弟は"紫炎"に包まれており、地面を転げ回っていた。熱い、痛い、と泣き叫ぶ声が聞こえるだけで弟の体が、顔が、紫炎に遮られて見ることが出来ない






「あなた!!」






考えるよりも先に僕の体は動いていて、弟の元まで駆け寄った。燃え盛る炎に手を伸ばし、炎の中にある筈の弟の体を引っ張ろうとする。まだ紫炎を生み出した事の無かった僕は、弟の体を覆い尽くし燃え盛る紫炎に突っ込んだ手を焼かれた。だけど…その程度で引き下がれる事態ではなかった。自分の肉が焼ける臭いが鼻を刺激し、焼かれる痛みと臭いで眉を顰める。必死に手を伸ばし弟の名前を叫びはすれども……一向に弟の体を掴むことが出来なかった






「あなた!……あなた!!僕の…にぃにの手を掴め!!」



『いぁああ!!』



「大丈夫!大丈夫だよ!にぃにが絶対に助けるから!」





"こっちに"手を伸ばせ、なんて言ったところで……まだ幼い弟にそれが出来るはずがなかった。僕よりも幼い弟の体が、紫炎に耐えられる訳が無い……燃え盛る炎の向こう側で、弟が必死に手を伸ばし泣き叫んでいるのが見える。嗚呼……嗚呼…!何故、なんで、どうしてこんなことにっ!




「くそっ!なんでっ……なんで炎の勢いが増していくんだよ!……消えろよ!」


『ぃ…に…ぁ…ぃい』


「っ…!…!」





どうすればいい、どうしたらいい…!もうダメだ、無理だ、あなたは僕の手に届かない…僕もこの炎を越えられない……どうしたらいい、どうすればいい!……必死に頭を回転させて、考えて、考えて…だけど何も思い浮かばなくて、瞳から零れ落ちる涙は紫炎の熱で直ぐに蒸発して…











「ちくしょう…ちくしょう!!……イフリート!!」











もう、なりふり構っていられなかった。後先考えている余裕はなかった。怒声にも近い叫びでイフリートを喚び出し、現れたイフリートに叫び続ける








「これを…この紫炎を燃やせ!!燃やし尽くせ!!……お前ならもっともっと高熱の炎を吐き出せるだろ!!」






弟の生み出した紫炎は…まだ完璧ではない筈だと信じ、イフリートに怒鳴りつけた。イフリートの更に熱い炎で相殺させる。もうそれしか方法が思い浮かばなかった。……僕の命令に従ったイフリートは弟の紫炎を上回る紫炎を吐き、炎を相殺させた。炎が消える前に僕はあなたの傍に駆け寄ったが、高熱に耐えられなかった幼いあなたの意識は既に無かった。焼け爛れた腕で弟を抱き上げ病院へと向かって……弟は一命を取り留めたけれど、幼い体に残された痛々しい火傷の痕が、今でも僕を苦しめる























……僕がちゃんとみていれば、ちゃんと真似をしてはダメだと言っていれば……僕の真似なんかしなければ……





…そもそも僕が、真似をされるような兄でなければ……弟は、あんな苦しむ事はなかったのかもしれない。あんなにも痛い思いをしなくて済んだかもしれない























「……」













だから……僕は、弟を突き放す事にした。
僕に憧れなくなるように……僕の真似をしなくなる様に……






もう二度と、あんな事故が起きないように













…それがお前の為だと信じて
































例えそのせいでお前に嫌われたとしても
……僕はお前を、突き放し守り続けるよ

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