第3話

発熱
15
2019/05/12 10:20
中学の陸上大会で無理やりさせられた高飛び。

「高飛びをしておけば高校に入学してからモテルよから」と顧問に言われてしぶしぶやったあの高飛びがあなたとの最初の出会いになっていたときは驚きました。

相変わらず学校で話すことはなかったけど、休日はお互いの家で遊ぶようになっていた。しかし友達以上恋人未満の関係。ある一定のラインから進展はしなかった。そしてその日もいつも通りの関係を保っていました。

そんな矢先に、あなたはその事実を私に言った。

決勝で最後の2人まで残っていたあのとき、観客たちのなかにあなたはいた。みんながもう1人の選手を応援するなかであなたは私を応援してくれていた。

あなたは嬉しそうにそう言った。

高校の入学式でわたしを見つけたとき、嬉しさのあまり母親に連絡したと言ってくれた。クラスが一緒だと知った時は嬉しさのあまりに中学の友人たちに報告してしまった言ってくれた。

あなたが嬉しそうに話すのを聞いているうちに、私は胸の奥から温かい何かが溢れてくるのを感じました。それはまるで心の中に何かが優しく点火されたようなほのかな温かさだった。
そしてそれは少しずつ私の全身を攻め立て、やがて言いようのない高ぶりに姿を変え始めていた。

「今から私は君に最低なことをする。だから嫌なら全力で拒んで」

私の頬に手を添え、あなたはゆっくりと顔を近づけた。黒い瞳が私に逃げろと言っているような気がした。暴れることだって、突き飛ばすことだってできた。でも、体は動かなかった。そんな今にも泣き出してしまいそうな瞳に見つめられるともう何もできなかった。
吐息が唇に伝わる距離まであなたの唇は近づき、そこで一旦止まった。互いの距離の近さが改めて実感させられた。
私はあなたに少しでも近づきたくて、壁から背中を離した。優しく抱き寄せ、キスをした。きっとこういう瞬間の積み重ねを、愛と呼ぶのだろうと思いました。夢中で重なり合う唇よりも、あなたの柔らかな前髪がおでこにくっつく感触の方が、こころを指で撫でられるように切なかった。

その夏、私たちは学校にも行かず、形のないものを見つけようとしていた。夏の蒸し暑さなど気にならず無我夢中であなたのことを知ろうとした。それを必死になって応えようとするあなたの姿にさらに体が熱くなるのを感じた。このまま溶けてしまいたかった。何にも縛られず、ただ心が満たされ、満たし合うことに私は自分という存在、あなたという存在を感じていたかった。外から聞こえる蝉の声はひどくうるさかった。しかし、時折訪れる静寂が世界を停止させた。まるで世界に私たちだけが取り残されたみたいだった。

今という時がずっと続けばいいのに。

風が吹き、夏の匂いが部屋に流れ込む。そしてまた蝉が鳴き始める。この世界は私たちだけではないことを知った。でもあなたは変わらずに私の隣にいてくれた。

それだけで私は十分でした。

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