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第1話

神集いの部屋
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2025/11/19 08:13 更新
第一話「神集いの部屋」

 きっかけは、三日前の夜だった。
 大学の課題に追われ、ふと息抜きに開いた匿名掲示板で、ひとつのスレッドが目に入った。

《神集いの部屋》──入るだけで“救われる”って本当?

 あまりに胡散臭いタイトルだった。
 しかしその下に並ぶレスの数は多く、「リアルで消えた」「写真が変わった」「寝たら声がした」など、悪質なデマにしては手が込みすぎている書き込みが目に付く。

 私は興味本位でリンクを開き、誘導先のSNSアカウントを覗いた。
 そこに貼られていたのは、簡素な白背景の招待ページ。

──《神の集い》 招待コード:01-桜

 そのときは「悪質なネタだろう」と思い、画面を閉じた。
 だが翌日、大学構内でとある名前を耳にしたことで、不安は急に現実味を帯び始める。

「川北が行方不明なんだってよ」

 男子学生がそう話しているのを偶然聞いてしまった。
 川北桜──同じ学部で何度か見かけたことのある、あの川北だ。

 まさかと思いながら検索すると、彼女のSNSはすでに鍵がかけられ、最新の投稿だけが外から見えた。

《01-桜、承認されました》

 背筋が冷たくなった。

 私は、いつものように鷹さんへ連絡した。

私:
「鷹さん、少しいいですか。ちょっと気になるものがあって……」

 すぐに返事が来る。

鷹:
「また妙なものを拾ったんですか。
 とりあえず送ってください」

 少し呆れたような、それでも面倒がらない返事。
 それがいつもの距離感で、私は少しだけ安心する。

 私はリンクと状況をまとめて送った。
 しばらく既読がつかず、数分後──

鷹:
「……なるほど。
 “神の集い”ですか。名前にしては雑ですが、構造は案外しっかりしていますね」

私:
「しっかり……なんですか?」

鷹:
「招待コード方式、表向きの情報統制、そして“選ばれた形式”の示唆。
 典型的な“新興団体のテクニック”ですよ。
 ただし、今の段階では危険性も実態も判断不能です」

 鷹さんはいつも通り冷静だったが、私は胸の奥がざわついた。
 川北さんの失踪と招待コードが、どうしても頭の中で繋がってしまう。

鷹:
「あなたは、この川北さんとは接点が?」

私:
「同じ学部ですけど、ほとんど話したことは……」

鷹:
「なら深追いしないほうがいいでしょう。
 ただ、興味本位でアクセスした招待ページの履歴は削除しておいてください」

 忠告に従いながらも、私はどこかで引っかかっていた。
 あの《01-桜》という表記。
 まるで番号と名前がセットになっているような、不気味な規則性。

翌日、さらに不穏な情報が出てくる。
「大手企業の山口直輝が《神の集い》のトップでは?」という匿名投稿だ。
山口といえばメディアにも露出する若手社長で、そんな人物が宗教団体に関わるとは考えにくい。

私:
「山口社長って、あの……?」

鷹:
「はい。普通に考えればデマでしょうが……
 “名前をあえて利用している可能性”は否定できません」

 鷹さんから送られた画像には、企業ロゴにそっくりだが微妙に違う“模倣ロゴ”が使われていた。

鷹:
「権威の借用はよくある手です。
 本物が関わっているように“錯覚させる”のが目的でしょう」

 しかし、その“模倣”は異常に出来が良い。
 完全一致ではないが、専門デザイナーが作ったとしか思えない精密さだ。

川北の“残したもの”


夜、大学のオンライン掲示板にひとつの書き込みがあった。
川北さんの友人を名乗る人物からだ。

《川北が消える前に、変なメモを残してた》
《招待コードの番号は“役割順”。
 01は“入口”。
 人を集める役。
 集めた数が“自分の価値”。》

 私は思わず鷹さんへ送った。

私:
「……これって、川北さんが誰かを勧誘してたってことですか?」

鷹:
「まだ断定はできませんが“01=入口”という構造は合理的です。
 ただし、そのメモが本物かどうかは判断不可能です」

 そのとき、ふと気づいた。
 私が最初に見た招待コードは 01-桜
 つまり「入口」の役割を持った川北桜。

 だとしたら、
 川北さんは“誰かを連れてこようとしていた”のかもしれない。

翌日、突然ニュースが入る。

《行方不明だった女子大学生・川北桜さん、無事保護》

 大学はざわつき、SNSは騒ぎ、掲示板は祭り状態だった。

 しかし詳細は語られない。
 “本人の希望で非公開” の一点張り。

 事件は止まった。
 表向きは。

 私は落ち着かなくて、また鷹さんへ連絡した。

私:
「良かった……んですよね?」

鷹:
「表面的には、でしょう。
 ただ、“保護された経緯が明かされない”のは気になります」

私:
「神の集いと関係あると思いますか?」

鷹:
「可能性の範囲としては残ります。
 ただし、これだけでは“関係なし”の可能性も同じくらい高い」

 断定しない。
 いつもの彼らしい返答。


その夜、私は川北さんのSNSをもう一度覗いた。
鍵はかかっているが、プロフィールだけは見える。

 そこには新しい文字が追加されていた。

《桜は散りました。また、春に。》

 意味は分からない。
 でも、何かが終わったようで、何かが始まったようでもある曖昧な言葉。

 そのスクリーンショットを鷹さんへ送る。

鷹:
「……含みはありますが、判断材料としては不足しています。
 “創作的な表現”と見るのが妥当でしょう」

 そういう彼の声が、逆に不安を薄めてくれる。

私:
「第二の“01”とか、そんなことは……」

鷹:
「考えるだけ無駄ですよ。
 あなたが巻き込まれている証拠は一つもありません」

 その言い方は優しくもなく、慰めでもなく、ただの事実を述べるだけ。
 それが不思議と心地よい。

 そして、会話を終えようとしたとき。

鷹:
「……ただ。
 “神の集い”のサイト、昨日とはレイアウトが変わっています。
 招待コード一覧に新しい枠が追加されました」

私:
「新しい……?」

鷹:
「“02-鷹”。
 もちろん偽物でしょう。
 ですが……あまり気持ちのいいものではありませんね」

 私は息をのんだ。

 鷹さんは、続けた。

鷹:
「深く考えなくて結構です。
 私が調べておきますから」

 それは“頼れる先輩”の言葉で、
 同時に“不穏な予告”でもあった。

“事件は止まった。しかし、何も解決していない。”

次の招待コードは、誰の名前になるのだろう。

二話につづく。

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