「……俺は翡翠(ひすい)。
お前は?」
「私は……。」
「お嬢様。ご当主様より発言を許可されておりません。
ご挨拶程度であれば構いませんが……そろそろ参りましょう。」
使用人が、また機械的に口を挟んだ
少年は明らかに不満そうだったし、
私が大人しく従うと、さらに不服そうにこちらを睨んだ
そんな彼の横を通り過ぎ、案内されたのは大広間の上座
あの人の隣に座らされた
目の前には、顔も知らない大人たちが並び、
こちらを品定めするような目で見ている
誰も一言も話さなかったけど全員が投手の発言を待っていることは明らかだった
その人は一度咳払いをすると、こう告げた
「朔夜の娘、あなただ。
本日より――皇 あなたを、皇家の後継者とする。」
その瞬間、明らかに鋭い視線が私に集まった
「母さん、あまりにも突然なお話ですね。
家を出た朔夜兄さんの子を後継者に選ぶなんて。」
「そうですよ、お義母様!」
翡翠……
今の発言が彼のことを指すなら、彼は私の従兄弟にあたるというわけだ
目の前の大人たちのざわめきを、
川向こうの火事のように感じながら、私は静かにそう思っていた。
「――沈まれい。」
あの人の、地を這うような声
大人たちは一斉に口を閉じ、広間に静寂が戻った
「私の決めたことに文句があるのかい?」
「文句もなにも……。
母さんだって、翡翠を後継者として少しは認めてくれていたんじゃないの?
それなのにこんなの……いくら兄さんを可愛がっていたからって、あんまりだ。」
「勘違いするんじゃないよ。
別に私は、あの親不幸者を特別可愛がっていたわけじゃない。
能力ある者には、それ相応に評価をしていただけだ。
結局、この家を出た男のことなど、なんとも思っておらん。」
「じゃあ!」
「それなら証明してみなさい。
翡翠が、あなたより優秀であることを。」
「っ……わかりましたよ。
ぽっと出の子が、うちの翡翠に勝るはずがありませんから。
その時はお義母様も考えを改めてくださいね。」
「構わん。」
(後継者とか、くだらない……勝手にすればいいのに。)
「あなた。」
ビクッ
「……はい。」
「力を示せなかったとき、
私がどうするかは……お前もよく分かっているね。」
ゾワリ、と背筋が冷えた。
「……はい。」
くだらなくなんてなかった
後継者なんて、そんなものいくらでもくれてやると思っていたのに、この人は私に後退することを許さない
それから、私は今まで以上に努力した
勉学
作法
教養
運動
すべて完璧でなくてはならなかった
ひとつでも劣ることは許されない
頭を使いすぎたせいか、ときどき鼻血が出た
日中に襲う立ちくらみもあった
眠気は、食事の量を減らすことで少し楽になった
ご飯を減らすと栄養失調になったので、薬の量を増やした
やがて食事は、完全栄養のサプリが中心になった
生理は止まり
目は虚ろになって
毎日少しずつ自分が崩れていきような感覚だった
やめてしまいたい
諦めて逃げてしまいたい
そんな気持ちに飲み込まれそうにななって
眠れない夜には、縋るように夜空を見上げた
ここに持って来られたものは、なにひとつなかったけれど――
この夜空だけは、今も遠くのミョン家の人たちと、ジェヒョンと繋がっている気がしたから
何を失ってもその想いだけでなんとかその日を生きることができた
“ あなた…!僕がいるよ……だ、だいじょぶ。だいじょぶだよ……。”
1人じゃない気がした
そんなある日
「よぉ、あなた。久しぶりだな!」













編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。