ーーStray Kidsのみなさん、こんばんは!今日はみなさんに日本のおいしいものを食べていただきたく、こちらを準備しました!聞いたところによると、リノさんが大のプリン好きとか?
ーーあ、はい、そうですね。日本のプリン、大好きです。
子どもたちが寝たあとの静かなリビングルーム。
カウチに座ってテレビ画面を見つめる彼女の視線の先には、今よりもだいぶ大人っぽくなったミノがアップで映されている。
照れくさそうに話すその姿は、面影を十分に残していて、ミノへの話が一段落すると、運ばれてきた色々なクリームが挟まれたどら焼きにメンバーたちの視線が固定される。
ミノの隣には長髪を後ろにまとめたリクスが座っていて、「진짜 맛있겠다.」と呟きながら、どら焼きをガン見している。
「「かわいいなぁ」」
ふっと溢れた笑いが彼女と俺で重なった。
さぁっと靄が晴れるかのように、意識が静かに浮上し、目を開ける。目覚めはすっきりとしていて、見つめた天井はいつも通りだった。
ミノの顔が、見えた。
リクスのあの低い声が、聞こえた。
ここ最近、ずっと歪んでいた夢の中でのStray Kidsの映像が、はっきりテレビに映っていた。
「なぁ、これは、『信じろ』って、ことだよな......?」
鮮明に瞼に残るミノとリクスの顔を思い出しながら、夢の中の彼女に問いかける。
もちろん返事はないけれど、確信に近い気持ちの俺は、微かに震える手の平をぎゅっと握りしめた。
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ミノとリクスが脱落してから、最後のミッションに向け、すべての曲の動線を変更し、歌詞パートの降り直しをしなければならなかった。
10人から9人へ、9人から8人へ。
人数が少なくなればなるほど、ダンスのフォーメーションに隙間が大きく空いて、酷く目立つ。
歌の割り振りが変わったことで、メンバーたちも間違いが増え、日に日に全員が疲弊していくのが目に見えた。
2人が去った宿舎は、それでもまだ大の男が8人もいるというのに、以前よりも格段に静まり返っている。
常にふざけあっては溢れていた笑い声も、いつから耳にしなくなったのか。
全員が集まってテーブルにつくことも、テレビのチャンネルを争って下手くそなゲームが始まることも、今はない。
集まれば、必ず、その人数を意識してしまうから。
「1、2、3、4、5、6、7、8、なんで足りないんだ?他のメンバーは?」
練習室にいるメンバーを数えて、そう呟くクリスに、こいつもかなりキテるなと思う。
すぐにハッとして「ごめん、こんがらがった」と言ったクリスだけれど、頭の中は相当やばいことになっているんだろう。
なにかを忘れるためか、考えないためか、相変わらずオーバーワーク気味に毎日動いている。
俺はそんな中、クリスがぶっ倒れないように横で見張り、他のメンバーが崩れないように後ろから見守った。
ミノのときと違い、リクスの脱落で俺の心が折れていないのは、予感があるからだ。
夢の彼女が見せてくれた、このタイミングには、なにか意味がある気がしてならなかった。
そんなある日のことだった。
「入りなさい」
PDニムのその言葉とともに、扉から現れたのは、ミノとリクスだった。
俺の予感は賭けに勝ったんだ。
照れながら中に入ってくる2人の姿を見て、俺の中で弾けた喜びを噛みしめる。
「2人が抜けてからね、あのショーケースで見せてくれた10人が1つの生き物のような、一体感、それが8人では見られなくなったんだよ。8人のほうが動きも揃っているし、レベルも確実に高い。でも僕はあの一体感がもう一度見たいんだ。ファイナルミッションでは8人でのパフォーマンスと10人でのパフォーマンスを見せてほしい。それで、最終デビューメンバーを決めよう」
PDニムの落ち着いた声がじんわりと脳にしみる。
2人はチャンスを勝ち取ったんだ。
ああ、信じてよかった。
ミノも、リクスも、ちゃんと夢の通り、戻ってきたんだ......。
「너무 오랜만이야.」
そう呟いたリクスを皮切りに、やっぱりジソンが1番に駆け出し、リクスと抱きしめあう。ヒョンジンとスンミンがミノに駆け寄り、輪になって再会を喜ぶ。
そんなメンバーたちを、切なそうに目を細めながら、一定の距離を開けて近づかないクリス。俺はその肩をがっつり掴み、自分へと引き寄せる。
「Yo, Chris, we did it.」
「Yeah… we, we made it.」
クリスの頭に自分の頭をくっつければ、酷く安心したクリスの声が耳元に届く。
まだ最終ミッションは残っているし、デビューは確定してない。
帰ってきたミノとリクスにも、俺を含めたほかのメンバーにも、最後に脱落する可能性がある。
特に、夢を信じるならば、俺とウジニヒョンは.......。
でも、俺らはやったんだ。
こいつらを連れ戻すチャンスを掴んだんだ。
今は、それだけでいい。それだけで。
ぎゅっと腰に回ったクリスの手に力がこもり、その力強さが、リクスとミノの帰還を改めて実感させてくれる。
俺はクリスの肩を押して、抱きしめあうメンバーの輪に飛び込んだ。
「俺らも混ぜやがれーーーー!」
と叫びながら。
もう、絶対にこいつらを離しはしない。
俺の腕の中で、メンバーに囲まれ嬉しそうに笑うクリスも、俺が全員、一人残らず、この手から逃しはしない。
たとえ、最後の壇上に、
俺がこいつらの横に並んでいなかったとしても、
2025年に夢で輝いていた姿が本物になるように、
こいつらをデビューへと送り出すんだ。
ウジニヒョン、ヒョンのことも最後まで諦めねぇけど、
けど、もしヒョンが俺と同じ道を辿ってしまうとしたら、
そしたら、必ず一緒に、一杯やろうな......。
メンバーたちに押しつぶされながらも笑顔を浮かべるウジニヒョンを見つめていたら、ふと視線があった。不思議そうに首を傾げるヒョンに、何でもないと首を振る。
今はただ、メンバー全員で、喜びに浸っていたかった。
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いよいよ、ファイナルミッションの生放送が始まる。
今、俺らはミノとリクスを除いた8人で舞台裏に立っている。
今日で、全てが決まる。
後悔しても、やり直そうと思っても、全てが決まってしまう。
舞台に上がるまで、あと20秒。
1列に並んだ俺たちは互いの手をしっかりと握りしめていた。
その手が震えているのは、誰かの震えが移ったからか、それとも全員の手が同じように震えていたのかもしれない。
ぎゅっと右手にこもった力強さに目を向ければ、瞳まで微かに揺らしたクリスと目が合う。
「The ten of us, stand as one.」
小さな声で呟けば、クリスが力強く頷く。
少しでも気を抜けば、自分が信じたい未来を疑ってしまう心を、クリスに向けた言葉と共にキツく引き戻す。
震えが消え、俺を強く見つめ直すそのクリスの目が、俺の中から諦めをかき消してくれる気がした。
その瞬間、目の前の扉が両脇に開き、舞台の眩しい明かりが俺たちに振り注いだ。
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★視聴者視点
「それではこれより、Stray Kidsのファイナルミッションを、生放送でお送りします!」
MCの言葉に熱気に溢れた観客の声が続く。
「やっと、始まった〜!楽しみにしてたんだ!スンミナ、頑張れ〜!」
親も寝静まった自分の部屋、扉もきっちりしめて、スマホを握ったベッドの上、小声で画面に話しかける。
ぎこちなくも自己紹介を進めていくメンバーに、みんな初々しくかわいいなぁと思う。
「もう1人のビジュアルメンバー、あなたくん、その魅力を存分に引き出した笑顔をお願いします!」
最後にあなたの番が回ってきて、MCのことばに照れたように笑ったあなたが次の瞬間、
あ、目が合った。
そう思わせるほど強い視線でカメラを見つめ、妖艶にほほ笑んだ。
バッと自分の顔に熱が集まるのを感じる。
小さなスマホの画面を見ながら、真っ赤になっている自分の顔が恥ずかしくて、部屋には自分一人しかいないのに思わず顔を覆ってしまう。
自分の顔の魅力をよくわかっている笑顔だった。
あー!やられた!なにあの顔!
悔しい思いでもう一度画面を見れば、放送は過去の映像の振り返りに変わっていて、それが終わると、まずは8人での『YAYAYA』のパフォーマンスが始まる。
「Stray Kids!」
という叫び声で始まった曲、踊る8人の中からつい目があなたを追ってしまう。
これまで、サバイバルを観てきて、特にあなただけを追うことはなかったのに、今、目は必死にあなたを探していた。
この曲立ち位置どこだったっけ?
え?歌の割り振り箇所、覚えてないんだけど。
そうやって焦っているうちに、ジョインナ、スンミナ、ウジニの順でボーカルメンバーが続く。
「俺の手を掴んでいて」
ウジニのパートが終わった瞬間、
「絶対離せねぇよ」
センターに回ったあなたが射貫くようにカメラを見つめ、呟いた。
瞬きしている間にあなたの視線はカメラから外れ、すぐに怒涛のラップが続く。
普段しゃべっているときよりも一段階低くなり、少しだけ掠れたその声が呟いたアドリブが、耳にこびり付いて離れない。
心を鷲掴みにされた瞬間だった。
ドキドキする胸を押さえているうちに、次の曲が始まる。新曲だ。
「うわー、すごい!スンミナの声、めっちゃきれい!笑顔もやっぱりめっちゃ可愛い!」
さっきまであなたに心を掴まれていたはずなのに、今はスンミナの可愛い笑顔と声に夢中になる。そうだよ、私スンミンペンだもん。
スンミナに夢中になっていたら、前半はラップで参加していたあなたが、チャニが歌った同じパートの2回目で入り込んできた。
え?あなたってボーカルもやるんだっけ?
一瞬混乱しているうちに、激しいラップとはまた違う落ち着いた穏やかな声で、あなたが2フレーズを歌い上げる。そして最後にカメラが近づきアップになったところで、あなたはさっきまでのカリスマ光る顔とは全く違う、蕩けるような笑顔を浮かべた。
なにもかも許してくれるような、受け入れるような、優しい、顔だった。
それ以降は生放送が終わるまで、ずっとあなたから目が離せなかった。
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🦢視点
「パクジニョンPDニム、どう思われましたか」
「このパフォーマンスを終えて、特によかった子が3人います。まずは意外にもスンミン」
8人でのパフォーマンスを無事に2曲終えた。
その時点で、PDニムに呼ばれたスンミナの顔に、嬉しそうな笑顔が浮かぶ。
前回、俺と似たように、特別な感じがしなかったことを指摘されたスンミナ。自分のパートを自分が主人公のように歌い上げたと褒められ、照れている姿が、同性の俺から見ても酷く可愛い。
「次に、あなた」
「っ…네.」
思ってもよらないタイミングで自分の名前を呼ばれ、ほほえましくスンミナを見ていた顔を、慌てて正面に戻す。
そこには一目見てわかるほど興奮したPDニムの顔があって、え?と、目が点になる。
「あなた、お前にも、スンミンと同じく、自分は特別だということを見せてほしいと前回言ったよね」
「네.」
「最初のパフォーマンスのとき、お前の目線に捕まった気がしたんだ。そこから『幼い翼』でのパート、歌も安定していたけど、表情がとてつもなくよかった。「絶対に離さねぇよ」って、最初のパフォーマンスでお前が言った言葉の通りに、心を鷲掴みにされたよ」
「っ…감사합니다!」
PDニムの声や表情の端々に、本当に俺のパフォーマンスに興奮して言ってくれているのが伝わって、嬉しさに胸がぎゅっと詰まる。
最後にヒョンジンが、ずっと指摘され続けてきたヒョンジンが、ラップで褒められた。
こんなに嬉しい評価の時間が今まであっただろうか。
信じられないような顔をして評価を聞いているヒョンジンを、ジソンがきらきらとした顔で自分のことのように喜んでいる。
そんなジソンの姿を横目に見て、つい俺までふっと笑いが零れてしまった。
その瞬間、「きゃー!!」と会場から上がった歓声に、なにがあったのかとビクッと肩を揺らしてしまう。
周りをきょろきょろ見回しても、特に異変はなく、首を傾げながら不審に思っていれば、MCの進行が進んで、映像をみる場面になっていた。
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「안녕하세요. 스트레이 키즈입니다!」
8人でのパフォーマンスは終わり、遂に10人で舞台に立つ。
10人揃って挨拶できることが、こんなに嬉しいことだったなんてな。
ミノとリクスも加わって、改めて一列に並びながら、お互いににやにやしてしまう俺たちを、今日だけは許してほしい。
10人で久しぶりに踊るHellevatorはただただ最高だった。
パフォーマンス中は不安も期待も全ての感情が消え、ただ研ぎ澄まされた感覚だけが残って、自分の動き、声、メンバーたちとの一体感、その一つ一つに集中することができた。
その結果だろうか、パフォーマンスを終えての、フィリックスとミノへのPDニムの言葉が最高だったのもたまらなかった。
そうだ!うちのリクスとミノはすげぇんだぞ!!そう叫びたいくらいだった。
それに加えて、視聴者の投票の結果は、8人でのデビューより、10人でのデビューに96%の投票が入っていて、思わずお互いを見た俺とクリスは、同時にくしゃっと顔を歪めて笑っていた。
すべてがいい方向に動いていた。
俺は、生き残れるんじゃないか。
そんな希望がどんどんどんどん胸に湧いてきた。
その勢いのまま、さらに2曲のパフォーマンスを10人で終えて、
「特にチャニ、本当によくやった」
そういったPDニムの言葉に、俺は震える手のひらを必死に握りしめ、気を抜けば情けない声が漏れそうな唇を噛みしめた。
クリス、俺はお前が、本当に誇らしいよ。
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「おめでとうございます、Stray Kidsは10人組です」
丁寧に、噛みしめるようにそういってくれたPDニム。
その言葉がじんわりと胸に広がり、その瞬間、肩にのしかかっていた重圧が一気に消え、背中がひどく軽くなった。
その軽さが、俺の気持ちまで弱くした。
慌てて両手で顔を覆ったけれど、ぼろぼろと零れ落ちる涙はその隙間から床に落ちて、きつく唇を噛みしめたはずなのに、情けない嗚咽が次から次へと漏れ出てくる。
指と指の間からぼやけた視界で、信じられないという顔をして驚きを隠せないミノとリクスが、お互いに見つめ合い、弾けるように抱きしめあった。
2人だけが立たされていた壇上から飛び降り、メンバーたちに駆け寄ってくる。
俺は、動けなかった。
信じてはいたけれど、
信じようと固く心を決めていたけれど、
所詮夢は夢で、
確証などどこにもなく、
いつ、だれが、どの瞬間で、
またこの手からすり抜けていくのなんてわからなかった。
その恐怖が、PDニムの言葉で、遂に俺の背中から下ろされた。
気づいたらクリスに抱きしめられていて、弾丸のように俺とクリスのもとへ飛んできたリクスにも押しつぶされるように抱きしめられた。
俺もクリスも、
ミノもリクスも、
そしてウジニヒョンも
みんな、10人が、生き残った。
次から次にメンバーたちが飛びついてきて全員でもみくちゃになりながら抱きしめ合う。その窮屈さがたまらなく嬉しかった。
「あなた, 俺たち、同じグループでデビューだッ!」
俺を抱きしめる手を緩めないクリスが耳元で呟く。
未だに止められない涙に、言葉が出てこない俺だったけど、しっかりとクリスを見つめ返しながらブンブンと首を縦に振れば、ははっと嬉しそうに笑うクリスの声が響いた。
「Love you bro.」
「I know.」
顔を覆っていた俺の両手をベリッと剥がしたクリスが、まっすぐに目を見つめて、満面の笑みで言う。
まだ涙が残る目尻をぐいっと乱暴に拭いながら、はっと笑って返せば、またクリスの明るい笑い声が響いた。
夢は正解でもあって不正解でもあった。
10人でのデビュー、その現実を俺らは掴んだんだ。
高く高く手を挙げて、「High five!」と叫びながら、拳を打ち合わせた俺とクリスの腕には、ところどころ傷が入ったシルバーのバングルが依然として光り輝いていた。
Chapter1 The End.











編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!