「あなた、ウジン、残念だけれど、今回君たちは一緒にデビューはできない」
厳しい顔で俺たちを見つめ、静かに告げるPDニム。
なにかを言おうとした俺の口からは、わずかな息しかこぼれなかった。
真っ白になった頭で、評価を受け取る間、ずっと俺の手を握りしめていたクリスの方を向けば、同じように固まりきった唖然とした顔で、こちらを見返してくる。
その目に悲しみと悔しさが広がっていくのがわかって、
ああ、俺は本当に脱落したんだ。
クリスの目を通して、俺は現実を認識した。
それでも、信じたくない気持ちのまま、否定するかのように反対側に顔を向ければ、うつむいたまま涙を零すウジニヒョンがいて、
あの夢は、やっぱり現実だったんだ。
そう思った瞬間、足元がガラガラと音をたてて崩れ始めた。
その先に広がる暗闇に、身体がストンと落ちる。
ぐるぐる回る視界に、目を見開いてこちらに手を伸ばすクリスの姿が見えて、その手を掴もうと必死に手を伸ばしたけど、俺らの指は掠りすらせずに、俺は1人、悲鳴とともに真っ暗闇の中に落ちていった。
「ひっ!」
自分の小さな悲鳴で目が覚めた。
「ッハ.....」
ドクドクとした心臓の音が耳元で鳴り響いている。
「ゆめ........」
ファーストミッションの評価日、俺は最悪な気分で朝を迎えた。
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「はー、すっっごい緊張する」
「落ち着けよ、スンミナ。もうやれることをやるしかないよ」
あれは夢なのか、それとも今日の結果を示した未来だったのか。
考えるのさえ億劫な悪夢を振り払うかのように、重い頭を振って部屋を出れば、リビングには緊張で震える手を必死に振るスンミンと、そんなスンミンの肩をぽんぽんと叩くウジニヒョンがいた。
「お、あなた、起きたな。......顔色悪いけど、大丈夫か?」
部屋から出てきた俺に気づいて、ウジニヒョンが近寄ってくる。それに答えられないまま、俺はただ黙って床を見つめた。
「どうした?具合でも悪いのか?」
「............わりぃ。頭痛いだけ。なんか食べて薬飲むわ」
「そうか?無理すんなよ」
不思議そうに俺の顔を見返すウジニヒョンに慌てて手を振り、キッチンに向かう。
ウジニヒョンの顔が、見れなかった。
優しい夢が指す2025年のように。
今日の悪夢が指す結果のように。
俺達2人は、Stray Kidsというクリスが率いるグループに
存在しないものになるのだろうか。
ズキズキと本当に痛みだした頭を擦りながら、水と薬を手に取った。
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🐺視点
あなたの様子がおかしい。
そう思ったのは朝起きたときだった。
いつもは誰よりも早起きなあなたが、俺が起きたときにもまだベッドに横になっていた。
寝ぼけた頭でベッドを覗けば、すーすーと穏やかな寝息が聞こえてきたから、時間ギリギリまで寝かせておこうと部屋を出る。
リビングにはメンバーたちが不安そうな顔を隠さず集まっていて、俺に気づいたウジニヒョンが顔をあげた。
「お、チャニ。あなた、大丈夫か?」
「まだ寝てたけど、なにかあった?」
「朝、起きてきたんだけど顔色かなり悪かったから。薬飲んで寝に戻ってたよ」
「そう…。あと、10分くらいは寝かせておこうかなと思うんだけど」
「大丈夫じゃないか」
リビングの時計を確認して俺が言えば、ウジニヒョンも頷く。
PDニムからの評価の前にも全体で最後に練習しておきたい。
そのためにも、宿舎を出るまではあと30分、20分もあれば、準備はできるだろう。
「あなた…?」
自分の準備を済ませてちょうど10分後、まだ目覚めないあなたの肩をゆする。
いつもは寝起きのいいあなたが、俺の声に目を開くも、しばらくぼうっと宙を見つめている。
「あなた、起きれる?あと20分で出ないと」
「……おう。わりぃな。すぐ準備する」
まだ頭が痛むのか、軽く振りながら体を起こしたあなたが、俺と目を合わせる。
その瞬間、あなたの目が左右に大きく揺れた。
「あなた…?」
「着替えてすぐ行く。お前も準備続けろよ」
問い詰める間も与えず、あなたは俺の体を軽く押してベッドから出る。
そしてそのまま、俺のほうは振り返らず、クローゼットに向き合う。
「Hey, is everything okay?」
「……Yep, everything is okay.」
ざわっと騒ぎ出す心を落ち着かせるようにあなたに問いかければ、一拍おいて振り返ったあなたは苦笑を浮かべていた。
「クリス、今日は頑張ろうな」
「うん。俺たち、やれるだけのことはやったよね」
「そうだな、やれるだけのことは、やったはずだ」
そう静かに答えたあなたは、目の前の俺ではなく、またどこか遠くを見つめている気がした。
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朝のあなたの様子がどうしても気になって、全体練習のときも、パフォーマンスを行う間も、できるだけあなたに注意を向けておこうと思ったけれど、現実はそんなに甘くはなかった。
自分の緊張と、責任感からの不安。
それに加え、メンバー全員の不安、緊張、強張りが渦巻くように部屋には満ちていて、そのフォローに回っているうちに、あっという間にパフォーマンスの時間になり、気づいたらHellevatorの披露は終わっていた。
ホッとする間もなく、PDニムからの評価が始まる。
1列に並んで評価を待つ間、俺は心持ちあなたに寄り添って身体をくっつけた。
いきなりくっついた俺に、あなたがこちらを向く。
このとき改めて見たあなたの顔は、想像していたよりも遥かに青白く、目は不安に揺れ、縋るようにこちらを見つめていた。
いつもは強気なあなたのそんな顔に、俺の背筋にもゾクッと悪寒が走る。
「ジョンイニ、ヒョンジニ、ミノ、お前たち3人は、まだデビューするには難しい実力だよ」
結果として、グループから、3人の脱落候補者が出てしまった。
むしろ、3人で済んだのは少なかったのかもしれないと思うくらい、PDニムの評価は酷評に近かった。
確実に褒められたのはビニのみ。残りは各自課題を与えられて、それを次のミッションまでにブラッシュアップしなければならない。
PDニムが出て行ったあと、隣に立っていたあなたの体がガクッと傾いた。
慌ててその肩を掴んで引き寄せれば、ハッとした顔のあなたが俺の服を掴む。
「わりぃ。安心して、力抜けた」
そう言うわりに全然顔色が戻らないあなたを支えながら、床に座らせる。
あなたの肩を掴んだまま、メンバーたちに目を向ければ、脱落候補にあがった3人の顔色もかなり悪かった。
ミノの両脇にはジソンとビニが、ヒョンジンの横にはスンミナとリクスが、ジョンインの横にはウジニヒョンが、それぞれ離れずに付き添っている。
「クリス、脱落じゃねぇ。3人とも、まだ、候補だ」
「うん、わかってる。誰一人として絶対に脱落になんか、させないよ」
ふぅっと深い息を吐きだしたあなたが、そのまま床に横になる。
目を覆うように置かれた腕で、顔は隠されてしまったけれど、
「誰も、誰一人も、脱落になんかさせてたまるか……」
振り絞るように吐き出されたその一言に、あなたの悔しさと怒りが十分に込められていた。











編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。