第7話

Ep.6 ... 2017.09 Stray Kids 途中から🐺視点
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2026/02/10 10:50 更新


ーストレイキッズのみなさんは、過酷なサバイバルを勝ち抜いて、デビューされたんですよね?

ーええ、あのときのことはあまり思い出したくはありませんが、俺たちの絆をなによりも強めてくれた日々だったと思います。




「へぇ。この子たちってサバイバルでできたグループなんだぁ」


音楽番組の曲紹介の合間、司会者にそう尋ねられ、リーダーの男の子が照れ笑いを浮かべながら、穏やかな声で答えている。


「あっ、ーーちゃん、待って!まだパジャマのズボン履いてないよ!もー!なんでいつもズボン履くの嫌がるのー!」


お風呂上り、オムツと上の服だけを着た下の子が部屋を走り回り、私から逃げるのを追いかけながら、テレビの声を耳だけで追いかける。




ーそんなストレイキッズももうデビュー8年目になりますね。大活躍の今からすると信じられないんですが、そのとき脱落されたメンバーの方もいた、とか?

ーそうですね。そのときにはパク・ジニョンさんに実力が足りないと判断され、落とされたメンバーもいました。



「え!!こんなに有名なグループでもそういうことがあったんだって、あーーーーー!ーーちゃんもなにやってるのー!」


リーダーの言葉を訳す通訳の声に、一瞬目線がテレビに行きかける。
ようやく捕まえた下の子に、四苦八苦しながらズボンを履かせているときだった。
上の子が、冷蔵庫の前で椅子を2段重ねた上に乗り、なにかを取り出そうとしている後ろ姿が目に入った。
今にも倒れそうな椅子に、慌てて立ち上がった俺には、もうテレビの音は聞こえなくて。走って向かった先に、ゆっくりと椅子から落ちる上の子の姿が、スローモーションのように見える。


ドスンッ!


危機一髪、腕の中に受け止めた重みに、ぎゅうっとその体を抱きしめる。
抱きしめた小さな体の温かさと、「ママ?」と何が起きたかわからないようなきょとんとし声で見上げてくるその顔に、一瞬で恐怖が安心に変わる。


「「よかった…」」


思わず口から零れ落ちた言葉は、彼女と俺、2人の声を重ねて2重になって響いた。



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「っ…」


バッと見開いた目に映ったのは、見慣れた宿舎の天井ではなかった。


「あなた?」


真横から聞こえた聞きなれた声に、ビクッと体が震える。


「Is everything okay?」



俺に肩を貸していたクリスが、乗せている頭が落ちないように支えながらも、眉をしかめてこちらを覗き込んでくる。


「ヒョン?」


俺の足元に腰を下ろしていたらしいリクスも、心配そうに俺を見上げている。


「…わり、大丈夫」


ふぅっと息をつきながら、ゆっくりと重たい頭をあげる。
軽く振ってから周りを見回せば、そこはいつも全体練習で使っている練習室で、あちらこちらでメンバーたちが練習をしたり話し合ったり休憩したりしている。


「練習再開まであと5分くらいあるから、もう少し寝る?」
「いや、目は覚めた」
「そう?」


意識ははっきりしているけれど、酷く重たい頭を後ろの壁に預け、目を閉じる。


久しぶりに…見たな。


目を閉じれば、あの夢は変わらずに鮮明に瞼の裏に蘇る。
夢であるはずなのに、彼女の視界に入るものであれば、その瞳を乗っ取ったかのように、細部まで思い出すことができた。


ケガしなくて、よかったな。


抱きとめた子どもの重みが、今でも腕に残っている。柔らかい感触も、子ども特有のにおいも、きょとんと俺を見上げた、こちらを信頼しきっているその目も、ああ、なにも傷つくことがなくてよかった。心の底からそう思う。


やっぱり、あれは俺に間違いないんだな。


彼女の焦りも、恐怖も、安堵も、慈しみも、すべての感情が、あのとき共有され、俺の感情として残っている。


どうして、今日だったんだろう。


彼女が目にしたインタビュー。

「サバイバルで、メンバーが脱落した」

彼女の世界のクリスは確かに、はっきりと、そういった。



「さ、練習再開しよう!」


パンッ!と手を叩く音とともに、クリスが声を張り上げる。
その声に合わせて、瞼に映る映像をぶった切るように目を開き、俺もまたゆっくりと立ち上がる。

遂にサバイバルのファーストミッションの評価日は明日に迫っていて、俺らには時間がなかった。



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「みんな、ちょっと集まってくれる?」

最後の全体練習を終えた夜21時。疲労困憊のメンバーをクリスが呼ぶ。
練習室の真ん中に座るクリスを囲むように集まったメンバーに、クリスが照れくさそうに言った。


「俺たちのグループ名、考えてきたんだ」
「ええええ!ヒョン、まじっすか」
「めっちゃ気になる!なににしたんですか」


一気に疲れが吹き飛んで、大興奮で声をあげるメンバーたちを横目に、そういえばそんなものを決めなきゃいけないと、数日前クリスが頭を抱えていたのを思い出す。
緻密なクリスのことだから、意味のある、名前を選ぶのだろうということは確信できた。
照れくさそうに頬をかくクリスを急かすメンバーたちの熱気に、俺の気持ちもわくわくと高鳴ってくる。


「英語で、『Stray Kids』っていうんだけど、どうかな」


クリスの言葉を聞いたその瞬間、高鳴っていた心臓は、逆の意味でドクンッと大きく跳ね上がり、そのまま止まるかと思うほどの衝撃が、一気に体を駆け抜けた。


『Stray Kids』



やっぱりあれはただの夢ではないんだ…。



ドクドクと激しく脈打つ心臓に思わず胸元に手を当ててしまう。 
浅くなる息を周りに悟られないようにゆっくりと深く変えながら、呼吸を整える。



2025年の未来に俺がクリスの隣に存在しないのは、確定した…未来なのだろうか。



英語の意味を説明するクリスと、それを聞いてさらに盛り上がる他のメンバーたちの声が、だんだんと小さく遠ざかっていく気がした。


『サバイバルで、脱落したメンバーもいました』


夢で聞いたあのセリフは、俺のことだったのではないだろうか…。


冷や水を浴びされたような俺の気持ちはすっかりと冷え込んで、ひやり、と冷たい汗が背中を伝い落ちた。




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🐺視点


「あーーー!明日の評価、マジで緊張する!」
「俺も、手が今から震えてとまんない」
「ジソン、俺の手、握る?」
「わ、ミノヒョンの手もだいぶ震えてるね!」
「俺なんか、さっきから汗やばくてシャツびしょ濡れなんだけど」
「ヒョンジナのそれはダンス練のせいじゃないの?」
「お前だって震えているくせに!」


最後の全体練習を終えたあと、すっかり日が暮れた道をメンバーたち全員で並んで歩きながら、宿舎に戻る。

一番前で固まりながら歩いているのはビニ、ジソン、ミノ、ヒョンジン、スンミンの5人で、お互いの緊張をほぐすかのように本音が混じった軽口を叩きあっている。

その後ろでは、不安に襲われ、真っ青になっているジョンインとリクスの肩を、ウジニヒョンがゆっくりと支えながら歩いている。ぼそぼそと小さい声で会話を交わしているけれど、内容までは俺には届かない。

そしてそんなメンバーたちの最後尾を、俺とあなたが並んで歩いていた。
あなたは俺の隣をゆっくりとした歩調で、ただぼーっと歩き続けている。
その目はなにを見るでもなく虚ろで、いつものあなたらしくなかった。
そもそも、いつもだったら、リクスやジョンインがこんな状態のときは、俺なんかほっぽって、すぐにフォローに動いているはずだ。
でも、隣を歩くあなたは、リクスやジョンインの今の状態が全く目に入っていないようだった。


「あなた」


静かに名前を呼べば、あなたの足が止まる。


「あなた」


もう一度呼べば、顔がこちらを向く。
視線はあっているのに、目が合っている気がしない。
あなたの様子が変になったのは、俺がグループ名を発表した時だったと思う。
酷く喜んでくれた他のメンバーと違って、ただその場に無表情で固まっていたあなたの姿が忘れられない。


「俺が考えた名前、気に入らなかった?」


俺がそう聞けば、数秒の間をあけたあと、あなたの瞳に色がもどり、今度ははっきりと俺を見つめ返す。


「わり。気に入らなかった、とかじゃねぇよ。お前が考えた意味も含めて、めちゃくちゃいい名前だと思ったよ」


じゃぁ、なんで。
そんな風にいうのに、どうして。
あなたは苦しそうに笑うんだろう。

俺が無言でジッと見つめ続ければ、あなたは一瞬気まずそうに視線を横にずらし、ふっと息を漏らす。


「マジで悪かった。お前が考えた名前、間違いなく気に入っている。俺がこんな状態になってるのは、お前のせいじゃない。俺が、乗り越えなきゃいけない、俺の問題なんだ。あからさまにして悪かった。隠し通すべきだったな」


再び視線を戻したあなたは、真剣に俺を見つめて言った。
はっきりと核心をつかないあなたの言葉はもどかしかったけれど、話したくない、それは本心なんだとわかった。


「隠し通す必要はないでしょ。あなたが何に悩んでいるかは俺にはわからないけど、頼れるときは頼ってよ」


他のメンバーに対しては、「リーダーとしてふるまわなければいけない」、そう思うのに、あなたに対しては、「対等でいたい」、その気持ちが強く出る。
拗ねるように言った俺に対し、あなたの顔に苦笑が浮かぶ。
伸びてきた手がくしゃっと俺の髪をかきまぜて、そのまま腕が肩にまわり、グイッと引き寄せられる。


「I know, Chris. You’re the only person I can rely on. I thought you already knew that.」


そういったあなたの声はひどく優しく響いて、ざあっと後ろから吹き抜けた生暖かい風に乗って消えていった。
真横に近づいたあなたのほうに顔を向ければ、約7年前に出会ったときは同じだったはずの背は、あなたのほうが5㎝ほど高くなり、少し見上げなければ、表情はわからなかった。


「よぉ、クリス」
「なに?」
「明日、とにかく全員そろって突破しようぜ」
「うん。あなた、コケないでよ」
「PDニムの前で、んなボケかますわけねぇだろ。さすがの俺でも怖すぎてできねぇよ」


ははっと笑っていうあなたは、いつものあなたに戻っていて、再び俺たちの間に距離が開かないように、俺もまたあなたの背中に腕をまわしてぎゅっと力を込めた。

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