「ちょっと、ちょっとあなたくん。表情が固いよー!もっと自然な笑顔を出さなきゃ。」
僕の撮影は難航していた。
なにせ初めての撮影に加えて、真っ白な部屋と沢山の機械と人に囲まれている異質感に僕の想像以上に緊張してしまって上手く表情管理が出来ない。
僕は何度も謝り、試行錯誤しながらなんとかソロ撮影は終わった。
次の撮影にギリギリ間に合ったけれど当初の予定とは大幅に撮影時間が伸びてしまった。
「お疲れ様、あなたくん。今日はなんとかなったけれど次の撮影は瀬名くんもいるからね。
次は上手くいくように期待しているよ。」
「はい…頑張ります。」
僕はカメラマンさんとそう言葉を交わしたあと、逃げるようにその場から去った。
僕の頭の中は仕事中にしてしまった失敗についての後悔と反省で頭がいっぱいだった。
「なんでもっと上手くできなかったのかなぁ…!期待されてたのに!大きなお仕事貰えたのに!」
そんな中僕は帰路に向かって歩いていると途中何やら話し声が聞こえた。
「〜〜ってさ!ほん〜にやばかったんだから!」
「うわ〜〜!!こりゃ〜〜りも大変だね〜!」
意外とはしゃいでるな、プライベートなこと知られたら嫌だろうし早く帰ろう、と早足でその場から立ち去ろうとした時
「企業の人も変だよね、モデルさんが来れなくなったからって無名の新人アイドル使うなんてさ。」
…これって、もしかして僕の話?
何、モデルさんが来れなくなったからって…
どうなっているのかわからなくて頭が真っ白になっていく僕とは対照的に女性二人は話がヒートアップしていった
「本当なら瀬名泉とモデルさんで広告作る予定だったんでしょ?なんでそうなったの?」
「実はさ、企画段階ではそうなってたけど起用するために瀬名泉の事務所に連絡したんだって。そしたら『今のKnightsは知名度はあれどまだまだ若手アイドルです。女性との活動はファンのみんなにあらぬ誤解を招くので。』って断られたらしいの!」
「アイドル事務所って大変だね、ファンにも遠慮して仕事選ばないとなんて。」
「絶対大変だったよ。でも企業側は何としても売れっ子アイドルの瀬名泉を使いたいからこう条件を言ったんだって。『男性アイドルとの広告なら大丈夫か』って。」
「同じ性別のアイドルだったらもちろん大丈夫だもんね、それで見た目が女の子らしい…」
「そう、あの子になったみたいだよ。でも正直私あの子苦手。だって男なのにスカート履いたりとか女の子みたいなんだよ。
それ実質女と撮影してるようなもんじゃん。私瀬名泉のファンだからマジで許せない!」
「わかるー!替え玉のくせに一丁前にミスいっぱいするし足引っ張るし、あれならモデルさんのほうがよかっ〜」
…もう聞きたくない。
僕は思わず駆け出してしまった。
…僕だから、僕が必要だから仕事をくれたんだと思ってた。
けれど違った。
僕は売れっ子アイドルを使うための駒。僕自身じゃなくても良かったんだ。
僕は泣いた。人目も気にせずに。
歩きながら泣いていると、もちろん色々な人から見られる。けれど誰1人大丈夫?、なにかあったの?と聞いてくることはない。
結局僕はそんな存在なんだ、ユニットに入れて、ALKALOIDのみんなに仲間って言われて、少しは変われたと思ったけれどそんなことはなかった。
これから先もこうして生きてくんだな、そう思って会社の扉を開いた。
「ちょっとぉ〜?遅いんだけど…って」
少し前に聞いた、馴染みのある声がした。
「瀬名、さん…うぅ…。」
「なんで泣いてんの!何かあった訳ぇ!?」
「瀬名さんが、わるいん…うわああぁん!」
僕は声を掛けてくれた嬉しさとこの人のせいで僕はとても傷ついているんだ、という恨めしさでごっちゃごちゃになって思わず瀬名さんに抱きついてしまった。
「ぎゃああ!?俺の体に抱きついていいのはゆーくんだけなんだからねぇ!?あと泣き止んで!このままだと俺が泣かせたみたいになるでしょぉ!」
そこまで言われても僕は全然泣き止めなかったので瀬名さんは観念したのか、とりあえず寮に帰ろう、と僕を連れて帰ってくれた。











編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。