昼休みのチャイムが鳴ると、
教室の中は一気に騒がしくなった。
午前中は好奇心旺盛なクラスメイト達に
質問攻めされまくって、嬉しいけど疲労感がすごい。
辺りを見渡すと、当たり前だけど
既にグループができている人たちばかりだ。
でも、こちらの様子を伺って
俺のことを誘おうとしてくれている人もいそうだった。
...それは彼も例外ではなく。
声の主は、隣の席の男___日向夏彦。
へらりとしたその笑顔は、
言ってしまえば若干胡散臭い。
けど、彼...夏彦とは、話していても
どこか楽な気がしていたから素直に嬉しかった。
どこか悪戯な笑みに流されるように、
俺は弁当を持って軽い足取りの夏彦に着いていった。
辿り着いたのは、春の陽気が感じられる裏庭。
その一角にあるベンチに座った夏彦は、
自分の隣をポンポンと叩いた。
言われるがままにベンチに腰を下ろすと、
爽やかな風が肌を撫でた。
夏彦は背もたれに体を預けながら、
パンを片手に得意げに笑っていた。
自信満々な言い方に、思わず小さく笑ってしまう。
彼の言葉は、
どこか心を和らげる不思議な響きを持っていた。
春風が髪を揺らし、桜の花びらがひとひら頬に触れる。
___その瞬間、視界がふっと霞んだ。
雨に濡れた土の香り。
肌に伝わるのは、奪われていく誰かの体温。
暗闇の中で俺は...誰を抱きかかえてた?
名前を呼ばれてはっと我に返る。
目の前には、心配そうにこちらを覗き込む
夏彦の顔があった。
軽く笑って、夏彦はどこかから
袋に包まれた小さなチョコを出して
俺に差し出してきた。
手を出すと、
そこにチョコレートがころんと転がされる。
俺はそっと目を伏せて、
包みを開けてチョコレートを口に含んだ。
その控えめな甘さが、
心の奥をくすぐるみたいにいつまでも居残っている。
それから、夏彦は自然に俺の隣にいるようになった。
俺は他のクラスメイトともかなり早く打ち解けたし、
夏彦だって他にもたくさん友達がいる。
だけどなぜか俺たちは
2人でいることが圧倒的に多かった。
気づけば、彼の声や笑顔が当たり前になっていた。
でも、ふとした瞬間。
その明るい声の奥に、
説明のつかない懐かしさを見つけてしまう。
そうして夜、眠りにつくたびに見る。
夢の中で、血の匂いに包まれながら
その名を呼んでいる自分を。
あの夢の中の”夏彦”と
隣で笑う“日向夏彦”が
同じ人間なわけがない。
そう信じていたのは、いつまでだっただろう。












編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!