第3話

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2025/12/04 10:00 更新









昼休みのチャイムが鳴ると、
教室の中は一気に騒がしくなった。


午前中は好奇心旺盛なクラスメイト達に
質問攻めされまくって、嬉しいけど疲労感がすごい。


辺りを見渡すと、当たり前だけど
既にグループができている人たちばかりだ。


でも、こちらの様子を伺って
俺のことを誘おうとしてくれている人もいそうだった。


...それは彼も例外ではなく。


夏彦
あなたくん、お昼一緒にどう?



声の主は、隣の席の男___日向夏彦。


へらりとしたその笑顔は、
言ってしまえば若干胡散臭い。


けど、彼...夏彦とは、話していても
どこか楽な気がしていたから素直に嬉しかった。


あなた
いいの?
夏彦
当たり前じゃん!ほら行こ!
あなた
行こって...どこに?
夏彦
ん〜、ナイショ♡
あなた
ええ...?



どこか悪戯な笑みに流されるように、
俺は弁当を持って軽い足取りの夏彦に着いていった。


辿り着いたのは、春の陽気が感じられる裏庭。


その一角にあるベンチに座った夏彦は、
自分の隣をポンポンと叩いた。


夏彦
あなたくん、ここ
あなた
あ、うん



言われるがままにベンチに腰を下ろすと、
爽やかな風が肌を撫でた。


あなた
なんかここいいね、全然人いないし
夏彦
穴場なんだよねぇ
夏彦
気に入った?
あなた
うん、めっちゃ気に入った



夏彦は背もたれに体を預けながら、
パンを片手に得意げに笑っていた。


夏彦
こんな微妙な時期に転校って大変でしょ?
転勤族だったりすんの?
あなた
そうそう。だから慣れてはいるんだけど、
友達できるか毎度不安でさ
夏彦
そっか、じゃあ今回は
もうできたから安心じゃん?
あなた
え?
夏彦
俺!もう友達でしょ?



自信満々な言い方に、思わず小さく笑ってしまう。


彼の言葉は、
どこか心を和らげる不思議な響きを持っていた。


春風が髪を揺らし、桜の花びらがひとひら頬に触れる。


___その瞬間、視界がふっと霞んだ。


雨に濡れた土の香り。


肌に伝わるのは、奪われていく誰かの体温。


暗闇の中で俺は...誰を抱きかかえてた?


夏彦
あなたくん?



名前を呼ばれてはっと我に返る。


目の前には、心配そうにこちらを覗き込む
夏彦の顔があった。


あなた
...あ、ごめん。ちょっとぼーっとしてた
夏彦
え〜大丈夫?
夏彦
無理すんなよ〜?
転校初日って疲れるだろうしさ



軽く笑って、夏彦はどこかから
袋に包まれた小さなチョコを出して
俺に差し出してきた。


夏彦
ん、甘いの苦手?
あなた
ううん、好き。ありがと



手を出すと、
そこにチョコレートがころんと転がされる。


俺はそっと目を伏せて、
包みを開けてチョコレートを口に含んだ。


その控えめな甘さが、
心の奥をくすぐるみたいにいつまでも居残っている。


それから、夏彦は自然に俺の隣にいるようになった。


俺は他のクラスメイトともかなり早く打ち解けたし、
夏彦だって他にもたくさん友達がいる。


だけどなぜか俺たちは
2人でいることが圧倒的に多かった。


気づけば、彼の声や笑顔が当たり前になっていた。


でも、ふとした瞬間。


その明るい声の奥に、
説明のつかない懐かしさを見つけてしまう。


そうして夜、眠りにつくたびに見る。


夢の中で、血の匂いに包まれながら
その名を呼んでいる自分を。


あの夢の中の”夏彦”と
隣で笑う“日向夏彦”が
同じ人間なわけがない。


そう信じていたのは、いつまでだっただろう。














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