野外学習も、いよいよ終盤
最後のイベントは肝試し
先輩 が事前に説明していた通り、真っ暗な山道を登って
鐘を鳴らすという至ってシンプルな内容
ただ …… 夜の山は、想像以上に不気味だった
1年生のみで行われる肝試し
2人1組でグループ分けされ、班ごとに出発していく中
俺だけが、ひとり取り残された
先生にそう申し出た時、何人かの視線が
刺さるようだったけど気にしないようにした
手渡された懐中電灯を握りしめ、
ゆっくりと山道に足を踏み入れる
木々の間を縫うような細い登山道
頭上を覆う枝葉に空の星さえ見えず、
暗闇が一層深まる
時おり遠くから聞こえる鐘の音
それが逆に孤独感を際立たせた
不安と焦り
それでも前へ進もうと、足を動かし続けた
でも、次第に道は細くなり草も深くなってきた
足元が崩れ、次の瞬間には視界がぐるりと回っていた
身体が斜面を滑り落ち、草と枝にぶつかりながらも
ようやく地面に倒れ込んだ
意識はある
でも右足を動かすと鋭い痛みが走った
懐中電灯を拾い上げ、辺りを照らす
木々ばかりで、もはやどこがどこかも分からない
ポケットの携帯を取り出してみたけれど …… 圏外
そして、連絡先に 先輩 の名前はない
思い浮かぶのは、あの人の声だった
その言葉が、今も胸に響いていた
声が震えて、涙が自然とこぼれた
たったひとりでいることの恐怖
誰にも助けを求められないことの無力感
暗闇の中、俺はただうずくまって泣いた
── じゃぱぱ side
集合場所に戻ってきても、
ひとり帰ってこない名前があった
様子を見に戻った先生が、
と言った瞬間、胸がざわついた
悪い予感が、冷たい汗となって背中を伝った
俺は、すぐに山へ入った
肝試しで使われているルートは1本道
けれど、少しでも道を外れれば遭難の危険だってある
ライトで辺りを照らしながら、何度も名前を呼んだ
返事はない
焦りだけが増していく
しばらく進んだ先でようやく、かすかな声が聞こえた
俺ははっとして立ち止まり、耳を澄ませる
声を辿って下を覗き込むと、
斜面の下に座り込む小さな姿があった
回り道をして、ようやく彼の元へ駆け寄る
顔は涙で濡れていて、目は真っ赤だった
俺の顔を見るなり、
ゆあんくん は力いっぱい抱きついてきた
しゃくり上げながら、声にならない言葉を繰り返す
俺も腕をまわして、
彼の震えた背中をそっと抱きしめた
何も言わなくても、
ゆあんくん がどれだけ怖かったかは伝わってきた
けれど、そのとき気づいた
彼の歩き方が少し変だったことに
俺は迷うことなく、彼の身体をそっと背負った
顔を見られないように前を向いたまま、
ゆあんくん を背負って歩く
背中から伝わる体温と小さな鼻すすりの音
そして、自分の心の奥から湧いてくる
見たことのない感情
心の奥で浮かんだ言葉を、俺は必死に飲み込んだ
先輩として、生徒会長として ……
これは抱いてはいけない気持ちだと
でも
それでも
俺は、あの時のぬくもりを忘れられなかった












編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。