窓から陽射しが差し込み、室内に降り注ぐ。壁に掛かった時計の秒針が、カチカチと音を刻んでいる。部屋の中央のテーブルには、スポーツドリンクと水の入った器がある。
静かな部屋に、少年の荒い呼吸が響く。ベッドに横たわり、額に濡れタオルを乗せた少年─綱吉だ。熱で頬が赤らみ、瞳は潤んでいる。吐息は熱く、短い。だが、懸命に呼吸を繰り返している。
そんな綱吉の様子を見つめながら、ツナは彼の首筋に手を添える。平常よりも高いその体温は、まるでカイロだ。熱で体が汗ばんでいて、彼の着ている部屋着に染み込んでいる。
出来るなら、自分が変わってやりたい。見てるだけでも辛いものだから、そう思う。まあ、言えば絶対に怒るだろうけど。思いながら、優しく火照った首筋を撫でる。はぁはぁと、綱吉が苦しげに呼吸する。
「しんどいね…」
ツナは呟きながら、首筋から頬へと手を滑らせ、優しく指先で撫でる。綱吉が頬を擦り寄せてくる。自分とツナの体温を比べると、平熱であるツナの手がヒンヤリと感じるのだろう。
そう思うと、本当に辛いんだなとツナは眉を下げた。すると、ギュッと綱吉の汗ばんだ手が、ツナの手を握り締めた。
ツナが綱吉の顔を覗き込むと、彼の瞳が切なげな色をしていた。熱を持った体が震えている。その事に気付き、ツナは心配そうに声を掛けた。
「寒い?布団、もう一枚持ってこようか?」
優しく尋ねると、綱吉はゆるゆると首を横に振る。ツナの手を離さず、強く繋いだままだ。意図が分からず、ツナはただ困ったように首を傾げた。
「ツナ……」
突然、綱吉がふらりと起き上がった。濡れタオルが額から滑り落ちる。慌ててツナが抱き留めると、そのまま綱吉はツナの腕の中に身を委ねた。ツナの背中に腕を回し、肩に顔を埋める。
「………?」
ツナは戸惑いながらも、綱吉を抱きかかえ、優しく頭を撫でてやる。その温もりを求めるように、綱吉は強くツナを抱き締めた。力強さとは裏腹に、綱吉の声は弱々しいものだった。
「ツナ…離れないで……オレの側にいて…」
囁やくように呟いたそれは、だが切実な懇願のようだった。普段は見せないその弱さに珍しさを感じつつ、ツナは彼を抱き締め返し、ポンポンと背中を優しく叩いた。
「…大丈夫、大丈夫だよ。」
宥めるように優しく耳元で囁き、一定のリズムを刻んで、背中をそっと叩いてやる。綱吉は瞳を切なげに潤ませ、ただ身を預けていた。彼の唇から、熱く震えた吐息が漏れる。
体が怠く、視界が霞んでぼやける。熱に浮かされて、頭が重い。そんな状態で、綱吉は強い不安に駆られていた。熱の所為か、彼は正常な判断すらままならなかった。
優しく自分を抱きながら、背中を撫でるツナの温もりが伝わる。だが、同時に夢のようにも思えた。いつか、この温かみを感じられなくなるんじゃないか。そんな不安が頭を過り、綱吉は体を震わせた。
「ツナ……オレを、一人にしないよね…?ずっと、一緒にいてくれるよね…?」
不安げに瞳を揺らしながら、綱吉は顔を上げた。その柔らかな頬を両の手で包み込み、ツナを見つめる。いつになく弱々しい友人の姿に、ツナは思わず目を瞬かせた。だが直ぐに優しい笑みを浮かべ、隙間を埋めるように彼の華奢な腰を抱き寄せた。
優しく微笑みながら、そっと彼の後頭部を撫で、薄茶の髪を梳いてやる。自分の額を彼のとくっつけて、ツナは口を開いた。
「大丈夫。ずっと、傍にいてあげるよ。」
「ほんと…?」
「うん、約束する。ずっと一緒だよ。」
その宥めるような優しい声のトーンに、綱吉は瞳を潤ませた。水の膜が張り、ホロホロと小さな雫が頬を伝って、流れていく。嗚咽を漏らしながら、彼はツナの胸元に顔を埋めた。
ツナは咎める事なく、優しく綱吉を包み込んだ。彼の雫が自身の服を湿らせていくが、気にせずそのままにしている。大丈夫、大丈夫と背中を撫でながら、ツナは綱吉の心を溶かしていく。
愛しい人の温もりを感じ、綱吉はツナの腕の中で身を縮こませた。その人肌の温かさが、心にまで染み込んでくる。それが、どんなに防寒性の高い毛布よりも、ずっと寒さを凌げると思わせた。
「ごめん…オレ、弱くて……」
「謝らないで。弱くて良いんだよ。綱吉が誰よりも頑張ってるの、オレ知ってるから。」
疲れたら休んで良いんだよ、その優しい言葉に、綱吉は瞳を揺らした。見え始めた視界が、再びぼやけていき、嗚咽を漏らす。
本来なら、自分がこの子を守らなければいけないのに。風邪くらいで弱って、甘えてちゃダメなのに。大切な人を守れず、ただ縋りつく事しか出来ない自分が、惨めに思えて悔しい。
ただただ泣くだけの友人を、少年は泣き止むまで、背中を擦っていた。その姿は、まるで我が子をあやす母親のようにも思えた。
まだ、部屋には泣き声が響いたまま。二人の少年が、互いに寄り添っていた。
** END **












編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。