さゆな達の寝室にて。
朔羅はベッドに腰掛けていた。
ここはリビングルームから1番遠く、物音は聞こえない。
静かな空間で、朔羅は過去のことを考えていた。
___あの時、もしも“あのひと”が助けてくれなかったら。
なんの感情もないような声で「危ない」と言われなかったら。きっと朔羅は、今頃この世にいなかった。
朔羅は微笑む。助けてくれた“あのひと”に向けて。
と、ドアが開いた。
見れば、実々が笑顔で顔を出している。
話し合いが終わるのが思っていたよりもはやくて、朔羅は実々に尋ねた。
そう言って実々が笑う。そしてドアを先程よりも大きく開け、リビングの方を見やった。
朔羅はベッドから立ち上がる。リビングに戻ろうとする実々を呼び止めた。
不思議そうに首を傾げる実々。朔羅は問いかける。
実々はしばらく朔羅を見つめていた。
やがて実々は、少しだけ表情を和らげる。
その戯けたような口調に、朔羅は笑った。
それと同時に、実々がかがみの事を“知っている”ことに安堵する。
……かがみちゃんはたくさんのことを隠しているから、こちらが混乱しちゃう。
そう思って、朔羅はもう一度笑った。
実々が少し小さな声で言った。
朔羅が頷くと、ほっとしたように笑みを浮かべる。
そして、2人は揃ってリビングへと向かった。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!