…それから何日かは、意外にも平穏な時間が流れた。
こころ達が来てから敵の襲撃が急激に増えていたが、突然に鳴りを潜めたのだ。
いつ来るかわからないため、警戒はしている。しかし、一向に来る気配がない。
かがみは「嵐の前の静けさ」だと言って、恵みの練習に力を入れた。
そのおかげで、多くの人が恵みをある程度使いこなせるようになった。
人間関係も変化した。
話す時間が増えたため、仲がぐんと深まり、自然と名前を呼び捨てするまでになった。…謎の多いかがみに対しては、いまだに敬語が抜けない人もいるが。
そんなある日の、全員がリビングに集まっているとき。
朔羅がそう言い出した。
実々が少し寂しそうに呟いた。さゆなは「じゃあ」と尋ねる。
朔羅はきょとんとした後、「あぁ違う違う」と手をひらひらと振った。
そう言って、朔羅は笑顔で実々を見た。
実々も目を細める。
あの家は温かくて、まさに理想のものだった。
かがみは微笑んで頷く。しかしやはり、できれば朔羅にいて欲しいという思いは感じ取れた。
みなかが寂しそうに訊いた。朔羅は斜め上を見上げる。
ななかはじっと宙を見つめている。
と、ぱちんと手を打った。
その言葉に全員が大きく頷いたのは、言うまでもないことだろう。
午後2時頃。
こころの言葉に、朔羅は嬉しそうに笑みを浮かべる。
そう言って、さゆな達の寝室へ歩いていった。
朔羅の姿が完全に見えなくなったところで、かがみが楽しげな声で問いかける。
と、さゆなが勢いよく手を挙げた。
そこで皆の視線がななかに集まり、ななかは動きを止める。
ななかは声を上げて、さゆなを恨めしそうに見た。
いつになく自信なさげだ。
さゆなの揶揄うような言葉に、ななかは頬を膨らませた。あまり見ない光景だ。この逆パターンなら最近よく見るが。
ななかが拗ねたように言って、何人かが笑った。
この2人には、場を明るくする能力が備わっているのだろう。
話題を元に戻すために、かがみが両手を軽く叩いた。
そう尋ねると、こころが「はい」と手を挙げる。
_____そして、お別れ会ですることが決まった。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!