第26話

変 わ ら な い も の (短 編)
3,081
2023/12/18 12:00
 
 
⚠︎attention⚠︎
昨今の事務所の件を交えたお話になります。
報道の内容等、直接的な表現は避けておりますが
感受性が豊かな方は心が苦しくなるかもしれません。
上記ご理解頂けましたらスクロールしてお読み下さい。



お久しぶりです;;
長いこと更新止めてしまってすみません💧
書きたい案はたくさん浮かんでいるのですが私生活が忙しくて...
必ず更新頑張りますので温かい気持ちで待っていて下さると幸いです🌷💭







和也side


スマホを手に取れば、開くのはSNS。




わざわざ検索しなくても出てくる色んな言葉。




ここ最近は、もっぱら画面とにらめっこ状態。




和也「…っ、」




昔から、アイドルだというだけで偏見を持たれてきつく当たられることはあった。




そんな人達が一定数いることも分かってた。




けどここ最近の言われようは、ぐっと堪えて一人で処理できるほど小さなものではなくて。




所属している事務所が、




お世話になっている先輩方が、




可愛がっている後輩が、




大好きなメンバーが、




大切なファンの人達が、




指摘や批判を超えた誹謗中傷を浴びせ続けられてる日々にもはや心は壊れる寸前。




俺の宝物がどんどんどんどん奪われていってるようで、息が苦しくなる。




丈一郎「……………おい」



丈一郎「………撮影始まるまでちょっと寝とけ、」




丈くんと2人で呼んで頂いた雑誌の撮影前、いつもより早く着きすぎた俺に丈くんがそう声を掛けてきた。




和也「……なんでぇ、大丈夫やて、」



丈一郎「大丈夫そうに見えへんから言ってんねん。ええからさっさと寝ろ」




半ば強制的にソファに寝転ばされ上から毛布を掛けられる。




ここ最近…軽く1ヶ月くらい、身体は疲れきってるはずやのに脳が動きすぎてて全然寝られへんくて。




そのお陰か隈は酷いし、顔はやつれてるし。




毎日鏡見てるから分かってるんやけど、周りから見ても相当酷い顔してるんやなぁ…なんて少し落ち込む。





和也「っ、」



丈一郎「はぁ……ほれ、おやすみ」




丈くんやってメンバーやって同じ環境にいるのに、こんなにも身体に不調をきたしてるのは俺だけで。




そんな心が弱すぎる自分が、情けなくて悔しくて堪らない。




マイナスな思考に囚われて息が浅くなると、近くでスマホを弄ってた丈くんが俺が寝転ぶソファの前に座った。




そして手のひらを目の上に置かれる。




和也「……じょお、く…」



丈一郎「寝れんくても、目閉じて頭空っぽにしてみ。」



和也「…ん……」



丈一郎「しんどいの、全部ちゃんと聞いたるから。一人であんま抱え込むな。…俺も一緒におるから。」




片手はアイマスクのように目の上に置かれて、もう片手でお腹をぽんぽんと一定のリズムで叩かれて。




段々ふわふわとしてくる身体に抗うことなく、ゆっくりと意識を手放した。









丈一郎「………し、…おーはし、」



和也「んぅ…」



丈一郎「そろそろ撮影やから起きとこか、」



和也「ん……あぇ、おれ寝てたん…」




夢も見ないほど深く眠れたなんていつぶりやろう。




まだ少しぼんやりする頭を覚ますために身体を起こしながらそんなことを考える。




丈一郎「ほら目薬さしとき」



和也「ぁ、ありがと…」



丈くんに貸してもらった目薬をさして鏡の前に立った。




和也「……えがお、笑顔…」




衣装やセット的にも、今日は明るい可愛らしさが求められるテーマっぽい。




思い切り口角を上げて、どうにかアイドルらしい顔を作る。




和也「…っ、」



丈一郎「……ちゃんと笑えとるよ。」




どう見たって可愛くない顔に唇を噛むと、ふと丈くんのそんな声が聞こえた。




和也「………でも、」



丈一郎「いけるって。アイドルの顔してる。…笑った顔可愛ええんやからちょっとは自信持てよ」




いつの日か丈くんに言われた、「笑ってる顔が一番可愛い」という言葉。




その時と同じで胸がきゅっとして、温かくなって。




今すぐにでも泣き出してしまいそうな心が、少しだけ和らいだような気がして。




丈一郎「…撮影頑張れそうやな、」



和也「……うん、がんばる、」




面と向かっては照れくさくて言えないけれど、「ありがとう」と小さく呟いた。










「…はい、本日の撮影以上になります!」



丈一郎「ありがとうございました!」



和也「ありがとうございました!ほんまに楽しかったです!」



「こちらこそ楽しかったです、ありがとうございます!」



和也「また、…いっぱい頑張るので、またお願いします!」




いつものように「またお願いします」と言おうとした声が震える。




…“また”なんて、あるんやろうか。




じわじわ目に溜まる涙をどうにか零さないようにぎゅっと目を瞑ると、ぽんぽんと優しく肩を叩かれた。




丈一郎「…僕ら7人今まで以上に頑張っていきます。もっともっと精進していきます。なにわ男子と一緒に仕事がしたいと思ってもらえるように頑張りますのでどうか、…どうか、これからもよろしくお願いします」




真剣な顔で、真っ直ぐな声でそう言う丈くんはめちゃくちゃかっこよくて。




深々と頭を下げる丈くんの隣で俺も頭を下げる。





「……今日の撮影本当にとても楽しかったです。…またいつか、ご一緒出来る日を我々も楽しみにしております。」



和也「…っ、ありがとうございました……ッ」




“またいつか”




YesともNoともとれない曖昧な言葉に、上手く息が出来なくなる。




和也「っ、は…ひゅ、…ひゅ……ッ」



丈一郎「…大橋。楽屋戻ろ、な?」




「ありがとうございました」ともう一度頭を下げた丈くんが俺の肩を抱いてくれて。




息が出来ないせいで足元がおぼつかなくなるのを支えてもらいながら、2人楽屋へ戻った。




マネ「…いつでも出られるように準備しとくから。落ち着いたら降りておいで?」



丈一郎「うん、ありがとう」




マネージャーさんのそんな言葉を頭の片隅で聞きながら、丈くんに促されてソファに座る。




和也「っひ、ひゅ……ッ」



丈一郎「大丈夫やからゆっくり呼吸しよな。大丈夫大丈夫…」



和也「は、はふっ、は、っ……じょ、く、ッ」



丈一郎「うん、丈くんここおるからな。…一人で全部背負おうとすんな。大丈夫やから。」





隣に座った丈くんの肩に顔を埋めて必死に呼吸しようとして。





名前を呼べば優しい声でそう言ってくれるから、縋るようにぎゅっと抱きついた腕の力を強めてしまう。




丈一郎「……落ち着いたか?」



和也「っん…ごめ、」



丈一郎「そんなんええから。……あ、せや大橋」



和也「ん、…?」



丈一郎「おでん食おか、おでん」



和也「…おでん、」



丈一郎「うん、おでん」



和也「…………ん、たべる、」




突拍子もない「おでん」という言葉に、頭が回らないまま頷いた。




よく分からんけど、丈くんなりに色々考えてくれとるんやろう。




マネ「…ん、お疲れ様。どこ送ればいい?」



丈一郎「んー……俺ん家の近くのコンビニで降ろしてくれへん?」



マネ「了解」




もう薄暗い、すっかり秋らしくなった景色を車の中からぼーっと眺める。




一昨年の今頃は、デビュー曲を色んな場所で歌わせてもらってたな




去年の今頃は、年末の歌番組が決まって7人で大喜びしたな




ここ数年で経験させてもらったキラキラとした世界は、スーパーアイドルをずっと目指してきた俺にとって夢みたいな場所で。




和也「…たのしかった、なぁ……」



丈一郎「ん?」



和也「………ぁ………」




あのイルミネーション、去年は仕事が早く終わったメンバーと見に行ったな。




今はもう、あんな人が多い場所になんて行く勇気がない。




ネット上で書かれてる言葉の刃が、実際に俺に向けられそうで怖いから。




アイドルになろうと決めてこの事務所で努力し続けなければ、キラキラとした世界は絶対に経験出来なかったし今ある宝物は絶対に持つことが出来なかった。




けどこの事務所でアイドルになったから、俺だけじゃなくて大好きなメンバーや大切なファンのみんなまで辛くて苦しい思いをしてる訳で。




訳が分からない。




どうすれば良かったのか。




どこから間違ったのか。
















…アイドルになんて、ならなきゃよかったのか。




和也「っ……」




ぽろぽろと頬を伝う涙を俯きながら必死で拭う。




必死に楽しいことを考えようとするけど、涙は全然止まってくれへん。




あぁ、今日はとことんダメだ。




マネ「……藤原、」



丈一郎「ん、ありがとう」



丈一郎「…大橋。着いたから車降りよ」




丈くんの言葉に頷くけど、こんなぐちゃぐちゃな顔で外に出る勇気なんて無くて。




そんな時、少し近付いた丈くんが頭に何かを被せてきた。




和也「じょ、おく...?」



丈一郎「それ被ってたらあんま顔見えへんから。今日だけやで」



和也「っ、ありがとぉ...ッ」




丈くんが昔から使ってる少し大きめのキャップを被り、小さく深呼吸してから外に出る。




まだ震えが止まらへん手は、上着のポケットに押し込んだ。







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