第78話

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2026/02/27 11:59 更新


omr side





あなた
ねぇ元貴?



ソファに座ってる僕の腕を、
ツンっとつついてくる。




最近その “ツン” が増えた。
お腹が大きくなってきてるから移動が大変らしい。




大森元貴
んー?




テレビを見たまま、返事をする。






振り向いたら、あなたの下の名前は真面目な顔をしてた。



あなた
もしね、




あなた
私と赤ちゃんに、
もしものことがあったら



あなた
迷わず、赤ちゃんを選んでね




は、?



一瞬、意味が頭に入ってこなかった。




大森元貴
……なんで、そんなこと言うの?


声が少し低くなるのが、
自分でもわかった。




あなたの下の名前は困ったみたいにして笑う。





あなた
だってさ、可能性はゼロじゃないんだよ?

大森元貴
そういうのは、ゼロにすればいいの



医者でもないのに、
こんなことを即答してしまう。





でも、言うしかなかった。






あなたの下の名前が僕の手を取って、
お腹に当てる。



中で、小さく動く。


そのたびに、僕の心臓まで小さく揺れる。




あなた
この子ね、たぶん強いよ

大森元貴
母親似だね

あなた
え、私そんなたくましい?

大森元貴
図太い

あなた
ひどっ!




そう言って軽く叩かれる。



いつも通りの会話。



でも、さっきの言葉が頭から離れない。




大森元貴
僕はどっちも選ぶ

あなた
それは、無理だよ

大森元貴
無理じゃない




子供みたいな言い方になってしまう。



あなたの下の名前は少し黙り込んで……





あなた
大丈夫



そう言って小さく笑う。



その笑い方、ほんとにずるい。
ほんとに大丈夫な気がするのに、不安。




あなた
生まれ変わったら、真っ先にら
元貴のとこに飛んでいってあげる!

大森元貴
ストーカーじゃん笑

あなた
運命だよ?

大森元貴
重い

あなた
愛が?

大森元貴
圧が




こうやって冗談を言って、笑い合う。




でも僕は、笑いながら思ってた。

なんで、そんな “もしもの話” なんかするの……
未来は、楽しいことしかない予定なのに。









お腹の子の名前は2人で何日も悩んだ。


女の子だってわかったから、

「もね」

っていう名前をつけた。





あなたの下の名前が好きなお花の、
アネモネから取った名前。






あなた
もねが産まれたらさ
あなた
元貴絶対甘やかすでしょ

大森元貴
そんなことない







大森元貴
…ちょっとだけ?

あなた
ほら!




そう言って、お腹を撫でながら笑う。




あなた
パパちょろいね~笑


お腹に向かってそんなことを言ってる。




僕はこんな光景を、
もねが生まれてからも見続けたい。














その日のお昼。


病院に行ってその帰り道。
夕焼けがやけに赤かった。





あなたの下の名前がまた言った。



あなた
ねぇ元貴?

大森元貴
ん?

あなた
さっきの話、怒ってる?

大森元貴
めちゃめちゃ怒ってる


即答。

だって、ほんとに怒ってるもん。




あなた
ごめん

大森元貴
謝らないでいいよ、



それから少しの間。






大森元貴
怖いの、?



僕がそう聞くと、
あなたの下の名前は少し目を伏せた。



あなた
…ちょっとだけ



強いふりをしている。

一瞬でわかった。



ほんとは、胸が引き裂けそうなぐらいに怖いはずだ。
それでも、昔から強がる癖がある。





あなた
でもね



あなた
元貴がいるから大丈夫って思えるの

大森元貴
当たり前じゃん



僕はそっとあなたの下の名前の手を握る。






大森元貴
何があってもあなたの下の名前も、もねも守る

あなた
なにそれ、惚れ直しちゃうじゃん





そう言ってまた笑う。



この時間が、
永遠に続けばいいのに。
















その日の夜。

あなたの下の名前は先に寝た。

穏やかな寝顔。
手はそっとお腹に置いてある。

守ってるみたいに……



僕は、いつもみたいに隣で寝ることができなかった。






“迷わず、赤ちゃんを選んでね”

そんな、選択させないでよ……、


どっちかなんて、、僕には選べない。





小さく動くお腹に、
あなたの下の名前の手と重ねるようにして手を置く。







大森元貴
もね




小さい声で、もねの名前を呼ぶ。






大森元貴
無事に生まれてきてね、

大森元貴
ママと、無事に帰ってきてね




そんなことを一人で言って笑う。



もしもなんて、二度と来なくていい。






来るな。

絶対。






でも、


もし、あなたの下の名前が生まれ変わって
僕のところに飛んでくるなら……



一目でわかると思う。





その時もきっと、
僕の隣で今みたいに笑ってくれる。





大森元貴
どっちも守るからね、


寝てるから、聞こえてないと思うけど。




それでも、僕はあなたの下の名前ともねと約束する。








3人で笑い合える未来を、守る。
だから、もしもなんて僕が追い払ってやる。
 


















それから数日後。

予定日を少し過ぎてから、
ついに出産日が来た。





分娩室の空気は、ぴんと張り詰めていた。



それでも、あなたの下の名前は笑っていた。


額に汗を滲ませながら、
僕の手をぎゅっと握って。





あなた
元貴、顔やばいよ?

大森元貴
そんなことない

あなた
パパになる人の顔じゃない

大森元貴
ちゃんとなるし





自分の声が震えているのは、
よく分かってる。


でも、あなたの下の名前が笑うから。
僕も笑顔を作る。




あなた
もねさ、



あなたの下の名前が息を整えながら言う。



あなた
絶対、元貴に似て泣き虫だよ

大森元貴
それ悪口?

あなた
感受性豊かっていう褒め言葉



痛みの波が来る度に、
あなたの下の名前の指の力が強くなる。




それでも、合間には僕の顔を見てくれる。
微笑みながら。





あなた
ねぇ元貴?

大森元貴
ん?

あなた
もねが生まれたらさ、
3人で海行こうね

あなた
アネモネが咲いてる海

大森元貴
うん、行こ

あなた
もねに先に見せたいの。
キレイで色鮮やかなアネモネ

大森元貴
いいね、みんなで見に行こ

あなた
元貴は日焼け止め担当ね
 
大森元貴
もう役割決まってるの?

あなた
当たり前じゃん


また小さく笑う。


その笑顔が、いつも通りで……



怖さなんて、どこにもないみたいで。








こんな話をしてたら、急に。



医者の声のトーンが変わった。















“血圧下がってます”


“このままじゃ____”












空気が一瞬で変わる。


さっきまで僕たちの会話に、
微笑んでいた看護師さんや助産師さん、医者まで。

一気に表情が固くなる。





あなたの下の名前の手が少し冷たくなった気がした。



あなた
もとき、



名前を呼ばれる。





大森元貴
いるよ、

大森元貴
ここにいるよ







医者がこちらを見る。
真剣な目。






まるで、どちらを助けるか選べ。
とでも言うように。







選べるはずがない。


そんなの、、、







そのとき、あなたの下の名前が僕の手をグイッと引く。


力は弱いはずなのに、しっかりと。






あなた
もとき、






その声は、驚くほどに落ち着いていた。




あなた
もねを、選んで

大森元貴
むり、そんなことできない……

あなた
約束したでしょ





なんで、笑うの。


こんな時でも、
弱々しいけどいつも通りの笑顔を浮かべる。







あなた
生まれ変わったら、
飛んでいくって言ったじゃん

大森元貴
そんな約束、いらない…



喉が詰まる感覚を覚える。




大森元貴
僕は、どっちも____

あなた
もね、生きたいって言ってる。
さっきからお腹の中でずっと動いてるの




あなたの下の名前が、お腹に手を当てる。





あなた
この子、私と元貴の子だよ?

あなた
強くてたくましくて、
優しくて泣き虫で……



あなた
私は、生まれてきてほしい




涙がこぼれる。

なんで、あなたの下の名前が
こんな思いしないといけないんだよ…





あなた
もとき、

大森元貴
……

あなた
パパになって?

あなた
私を、ママにして、?





その言葉で、心が崩れる。



目の前では看護師さんがバタバタしていて、
助産師さんと医者はできる限りの事をしてくれてる。






僕はあなたの下の名前を見る。



汗で濡れた髪。

青白い唇。




それでも目と口は優しく微笑んで、
僕のことをまっすぐに見つめる。







大森元貴
…赤ちゃんを、お願いします……っ、




言った瞬間、
何かが崩れ落ちた。




医者たちが一斉に動く。





あなたの下の名前の手が、少しづつ力を合わせて失う。





あなた
もとき、



掠れた声で、
1回だけ深呼吸をする。



あなた
あいしてるよ




呼吸が、心臓が止まりそうになる。




大森元貴
僕も、



大森元貴
あいしてるよ、




やっとのことで、それだけ言えた。






その直後、産声が部屋中に響きわたる。






小さくて、でも強くて。




その泣き声と同時に、
機械の音が乱れていく。









ピッ、ピッ、ピッ____














“血圧が上がりません”


“心拍が低下____”











大森元貴
あなたの下の名前…あなたの下の名前!




僕は叫ぶ。



手をぎゅっと握って。






あなたの下の名前はほんの少しだけ微笑んだ。




もねの産声を聞いて、
安心したみたいに。











ピーーーーーー……




まっすぐな音。


医者の声が遠くなる。






心臓マッサージをされて、
あなたの下の名前の身体が揺れる。


























“……時刻、”











聞こえない。

聞きたくない。





僕はあなたの下の名前の額に触れる。

まだ温かい。






大森元貴
海、行くんでしょ?



声が震える。




大森元貴
ほら、もねも呼んでるよ?





部屋中に響くもねの泣き声。



強くて、生きてる音。
あなたの下の名前が守った音。




崩れ落ちそうになっても、
あなたの下の名前の手をぎゅっと握る。


少し、冷たくなった手。


さっきまであんなに温かかったのに……





大森元貴
もねは、ぼくが絶対守るから

大森元貴
見守っててね、、





静まり返った分娩室に、
小さな命の泣き声だけが響いていた。
































もね
パパー!




小さな手が、
僕の裾を引っ張る。




大森元貴
んー?





キッチンで夕飯を作ってると、後ろから声。






振り向くと、そこに立ってるのは
今年で5歳になるもね。





あなたの下の名前に似た大きな目。
あなたの下の名前に似た笑顔。













もね
もねのママって、どんな人?



包丁を持つ手が止まる。



いつかは、この質問をされる日が来ると思ってた。




でも、こんな早くにくるとは……








大森元貴
急にどうしたの?

もね
今日ね、保育園でママの絵を描いたの




胸がぎゅっと締め付けられるように痛い。



もね
もね、ママのこと全然知らないなぁって





そうだよね。




写真とかは見せてる。
でも、当たり前に生で見たことはない。

話したことも、抱っこされたこともない。






僕は包丁を置いてしゃがみ、
もねと視線を合わせる。







大森元貴
ママはねぇ、、






大森元貴
うるさかった



少し笑ってそう言う。




もね
そうなの?!


もねも一緒に笑う。




もね
パパよりうるさいの?

大森元貴
パパよりうるさい

もね
すごーい!



大森元貴
よく喋るし、よく笑うし、よく怒る

もね
怒るの?

大森元貴
怒る。何回も怒られたよ




人生で、あなたの下の名前に何回怒られたことか……
数え切れない。






もね
怒るのやだー

大森元貴
でもね






大森元貴
めちゃくちゃ優しいよ




大森元貴
もねがお腹にいた時も、
ずっと “もね~” って話しかけてた

もね
もね、返事出来ないのに?

大森元貴
そう

もね
変なのー笑







大森元貴
ママ、もねのこと大好き~って!



もねのことを抱きしめながらそう言う。




もねは、キャハキャハ笑う。




もね
もねも、ママこと大好き!!

大森元貴
うん



もね
パパは?ママのこと好き?


不意打ちな質問。




それでもすぐに答えられる。




大森元貴
うん、大好き!











もね
もう、ママに会えないの?




喉がひりつく。




大森元貴
会えない、わけじゃないよ?



もねは首を傾げる。





大森元貴
ママはね、生まれ変わって、もねと
パパのとこに飛んでくるんだって!

もね
飛んでくるのー?!



大森元貴
いつになったら
飛んでくるのかなぁって、

大森元貴
ずっと待ってるよ

もね
じゃあもねも、パパと一緒に待ってる!




この話し方と笑顔。



本当に重なる。





ぎゅっともねを抱きしめる。
まだ小さくて、温かくて……







もね
パパ、泣いてるの?

大森元貴
泣きてないよ

もね
うそだー!
 


そう言って笑いながら、
小さな手で僕の頬を拭う。





その仕草。
その優しさ。





あなたの下の名前そのままだ。




心臓が止まりそうになる。




そんな時に、ふと窓の方に目をやる。






ベランダには、3本の赤いアネモネの花。

1本のアネモネに、
黄色い蝶々が止まってこっちを見ていた。





大森元貴
あ、もねみて!

もね
なに?

大森元貴
お外に、蝶々いるよ

もね
え、ほんとだー!




もねは、ベランダの方まで走って
赤色のアネモネに止まってる蝶々を眺めてる。






もね
きれーなちょーちょだね

大森元貴
そうだね




もね
このちょうちょママじゃない?

大森元貴
え、?



もねが蝶々を見つめたまま、
淡々と話す。





もね
ママ、飛んできてくれたね!!




そのもねの無邪気な笑顔を見て、
再び胸がきゅっと苦しくなる。





大森元貴
もね、写真撮ろっか

もね
うん、撮りたい!


スマホを構えて、
画面にもねと僕と、アネモネと蝶々も映す。






大森元貴
はい、チーズ!






シャッターを切って、
撮った写真を眺める。
























あなた
元貴ー!!


大森元貴
…え、あなたの下の名前、、?





振り向いた矢先に、
懐かしい人が…あなたの下の名前が立っていた。






あなた
ねぇ、アネモネの花言葉って知ってる?



急にそんなことを言い出す。





でも、こんな会話は
あなたの下の名前が生きてた頃に1度だけしたことがある。



大森元貴
……なに、?




あの時、教えてくれなかったアネモネの花言葉。






あなた
全体的の花言葉はね、
恋の苦しみとか儚い恋とか……


あなた
切なめなんだけど……




あなた
この花壇の赤いアネモネはね、
“あなたを愛してます” って意味なんだよ













あなた
元貴、あの時もねを
選んでくれてありがとう

あなた
おかげでママって
呼んでもらえるようになったよ!





あなた
それと、、、







あなた
これからもずっと、
元貴のこと愛してるよ











そう言って、ふっと姿が消えた。






もね
パパ、、?





もねが心配そうな目で、
僕を見つめている。



顔を触ると、
目からは大量の涙が溢れていた。





大森元貴
もねの言う通りだね

もね
なにが?



大森元貴
このちょうちょ、
ママが飛んできてくれたんだよ

もね
でしょ!!




僕は、もう一度写真を見つめる。








僕ともねの真ん中に、
赤色のアネモネに止まってるキレイな蝶々。




これは、僕たち家族の
最初で最後の家族写真なのかもしれない。

















ひより
ひより
今日も見てくれてありがとーう!♡



ひより
ひより
後半、意味不すぎて
みんな涙引っ込んだかも、、

ひより
ひより
すまん (






ひより
ひより
結論。
まぁ、あなたの下の名前は飛んで帰ってきて
くれたよ~っていう話でした!! (( 雑


プリ小説オーディオドラマ