午後二時前
鏡を見ながら着物の襟を正していると
りうくんとオクラさんが、ひょっこりと顔を覗いてくる
まただ
二人は時々、俺の知らない二人になる
まるで、俺を通して、別の人物を見ているかのような顔をする
...まぁ、前に仕えてたところの人でも思い出してるのかな
二人がいつも通り、仲良く喋るのを聞きながら目を閉じる
なんとなくざわつく胸の奥を落ち着かせるために
ひとつ、深呼吸をする
ふと、脳内に響く声に驚いて腰を上げる
なんだ、これ...
どこかで聞いたことがあるような声なのに
まるで脳にノイズがかかったかのような感覚に陥る
あとちょっとで、思い出せそうなのに
俺は、一体_____
ぱち、と小さな、何かが弾けるような音で、意識が返ってくる
二人の心配そうな瞳が、俺を映す
胸のもやもやが晴れないまま、柱時計の長針がⅡに近づいていく
" コンコン、コンコン "
さっきまで俺の肩に手を乗せていたりうくんが、スッと離れていく
肩にはほんのりとぬくもりが残っている
確かに、玄関までの距離はそう長くない
もしかしてオクラさんになにかあった...?
" コツ...コツ... "
そんな心配は、遠くから聞こえてきた二つの足音によってかき消された
後ろから小さく、りうくんが息を呑む音が聞こえた
知り合い...?
なぜだろう
この人にも、りうくんやオクラさんと似たものを感じる
初めて会うはずなのに…
考えていても仕方がないので、椅子に腰掛けるよう勧める
正直に言うと、俺は父との思い出というものが全くない
家を空けることが殆どで、最後に共に食事をしたのなんて数年前のことだ
唯一、うっすらと覚えていることがあるけれど、あまりいい記憶ではないことは確かだ
まぁ、確かに
りうくんやオクラさんが、その武術に長けた使用人だけれども
基本、彼らはこの家から出ない
外にいるときに事故や事件に巻き込まれる可能性はあるだろう
それなら父が直接連れてくればよかったのではないか
なぜ己の知人に人選と説明を頼むのか
護衛をつける理由からも、父の、俺への関心の薄さが垣間見えた気がした
使用人が扉を開けて、トドさんの後ろをついて行く
トドさんの背中を、どこか掴めない表情で見つめるオクラさん
自分の口からでた声は、驚くほど冷静だった
オクラさんの戸惑ったような、悲しそうな瞳が俺を見つめる
りうくんも、何も言わずに床を見つめている
そんな二人の間には、言葉にし難いなにかが漂っていた
二人が部屋を出ていって、代わりの使用人が入ってくる
静寂が続く中、複数の足音が徐々に近づいてきた
どこかふわふわとした柔らかい声と
この静寂を貫くような凛とした声が部屋に響いた












編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。