第14話

狡い
94
2026/04/29 06:08 更新


「えっと…この辺りだと思うんだけど……」




「あ、あれだ」と紀章さんが指差した方を見ると。



『すご…』



何かいかにも高級そうなお店……。



「1回だけ行ったことあるんだけど、
超美味しかったよ。俺が奢るから、行こ行こ」

『え、奢りだなんて…そんな』

「良いの良いの。かっこつけたいだけだから」



優しく背中を押されて、いよいよ店内へ。

……うん。やっぱ絶対高い。めっちゃお洒落だし



あまり目立たない1番端の席に座って一息つく。


「ん、これメニュー」

『ありがとうございます』




私はローストビーフ、紀章さんはお店おすすめのステーキを注文。




「……もうすぐ年末かぁ…」

『紀章さんは今年も実家帰るんですか?』

「んー、悩み中ってとこ。できればあなたと過ごしたいから」

『…ぅ……』


さらっとそういうこと言うのずるい……


「また今度ちゃんと考えよっか」

『はい』


なんて話していると、注文していたローストビーフとステーキが届いた。


『すごい…!』

「食べよ♪」


ルンルンなの可愛い……


「『いただきます』」


「…ん、美味しい…!」

『おいひい…!』


噛みごたえあって、でも柔らかくて

本当最高……!


「俺のも食べる?」

『良いんですか?』

「ん、どうぞ。……それとも」


ちらっとこっちを見て


「あーんする?」


『なっ……!?』


「冗談冗談笑
……ほら」


『…いただきます』


「……どう?」

『これも美味しい…!』

「でしょ」






『紀章さん』

「ん?」

『本当に、ありがとうございます』

「……うん」


心なしか紀章さんの顔が赤くなっている気がしたけど

暗めの照明のせいでよく見えない。



「………こちらこそ」

『え?』

「何でもないっ」




・
・
・




「……よし。そろそろ帰るか」



食べ終わってお店を出ると


思ったよりも寒い……




「……手、繋ぐ?」

『!?!?!?』


え?????


「…冗談だって」

『あ、う…あ……』

「落ち着いて笑」


うんそうだよね冗談だよね??


「…じゃあせめてこれ着て」

『え、あ、ちょ』


半ば無理矢理紀章さんの上着を着せられる。


「こうしないと遠慮するっしょ」

『……やっぱりずるい』

「聞こえないな~」

『え~…』


「……遠慮とかしなくて良いからね」

『…善処します』

「あと敬語も外して良いよ」

『それは無理です。絶対に。』

「圧が……」

『あはは笑』




・
・
・




「じゃ、また次のアフレコで」

『はい。
送ってくれてありがとうございました』

「そんなかしこまらなくても良いのに」

『じゃあ……』


バチが当たりませんように、と心の中で祈って。


『………ありがと、う…?』

「っ…!」

『あ、すみませ……』

「可愛い…」

『!?』

「じゃあ、また」

『……』




紀章さんの姿が見えなくなった後も、動けないまま。



『いやいやいや、本当にずるいって……?』



しばらく家の前で立ち止まっていた。

プリ小説オーディオドラマ