「えっと…この辺りだと思うんだけど……」
「あ、あれだ」と紀章さんが指差した方を見ると。
『すご…』
何かいかにも高級そうなお店……。
「1回だけ行ったことあるんだけど、
超美味しかったよ。俺が奢るから、行こ行こ」
『え、奢りだなんて…そんな』
「良いの良いの。かっこつけたいだけだから」
優しく背中を押されて、いよいよ店内へ。
……うん。やっぱ絶対高い。めっちゃお洒落だし
あまり目立たない1番端の席に座って一息つく。
「ん、これメニュー」
『ありがとうございます』
私はローストビーフ、紀章さんはお店おすすめのステーキを注文。
「……もうすぐ年末かぁ…」
『紀章さんは今年も実家帰るんですか?』
「んー、悩み中ってとこ。できればあなたと過ごしたいから」
『…ぅ……』
さらっとそういうこと言うのずるい……
「また今度ちゃんと考えよっか」
『はい』
なんて話していると、注文していたローストビーフとステーキが届いた。
『すごい…!』
「食べよ♪」
ルンルンなの可愛い……
「『いただきます』」
「…ん、美味しい…!」
『おいひい…!』
噛みごたえあって、でも柔らかくて
本当最高……!
「俺のも食べる?」
『良いんですか?』
「ん、どうぞ。……それとも」
ちらっとこっちを見て
「あーんする?」
『なっ……!?』
「冗談冗談笑
……ほら」
『…いただきます』
「……どう?」
『これも美味しい…!』
「でしょ」
『紀章さん』
「ん?」
『本当に、ありがとうございます』
「……うん」
心なしか紀章さんの顔が赤くなっている気がしたけど
暗めの照明のせいでよく見えない。
「………こちらこそ」
『え?』
「何でもないっ」
・
・
・
「……よし。そろそろ帰るか」
食べ終わってお店を出ると
思ったよりも寒い……
「……手、繋ぐ?」
『!?!?!?』
え?????
「…冗談だって」
『あ、う…あ……』
「落ち着いて笑」
うんそうだよね冗談だよね??
「…じゃあせめてこれ着て」
『え、あ、ちょ』
半ば無理矢理紀章さんの上着を着せられる。
「こうしないと遠慮するっしょ」
『……やっぱりずるい』
「聞こえないな~」
『え~…』
「……遠慮とかしなくて良いからね」
『…善処します』
「あと敬語も外して良いよ」
『それは無理です。絶対に。』
「圧が……」
『あはは笑』
・
・
・
「じゃ、また次のアフレコで」
『はい。
送ってくれてありがとうございました』
「そんなかしこまらなくても良いのに」
『じゃあ……』
バチが当たりませんように、と心の中で祈って。
『………ありがと、う…?』
「っ…!」
『あ、すみませ……』
「可愛い…」
『!?』
「じゃあ、また」
『……』
紀章さんの姿が見えなくなった後も、動けないまま。
『いやいやいや、本当にずるいって……?』
しばらく家の前で立ち止まっていた。











編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。