「雨かぁ……今日は母さん来れないか」
昨日の晴天とは裏腹に、空は大泣きのようだ
こちらの気分も下がる
外にあるクッキー用のショーケースに雨の当たる音が店内まで響いてきた
「うるさ……ビニールでも貼ろうかな」
その音と混じり、扉のベルが鳴った
「また来たゾ」
「あ……!!お客様」
入ってきたのは昨日のお客様
「今日はフルーツタルトのホールで頼む」
「……今日もここで?」
「ああ」
規格外の腹をしてるな
よく見てみると、少しやつれている
それに、あの輝かしい金髪が雨に濡れている
傘を忘れたのだろうか
あれ
「金髪……?」
昨日はワンホールで驚いて気づかなかったけど
ここで金髪なんて珍しい
我々国は暗い色が多かったはずだ
明るくても茶髪とか
この国で金髪なんて幹部様や総統様だけ
ん?
いやいや、多分他の国の観光客だろう
余計な考えをして結局違ったら……
心ではそう思っても、探究心を抑えられない
調理場の甘い匂いが、赤信号を隠した。
さて、そうと決まれば早く作ろう
サクサクホロホロとほどけるタルトを焼いたら
そこにバニラが香るカスタードクリームを下に塗る
甘いキウイを仕切りのようにし
酸味が強いオレンジは砂糖漬けに
ぶどうは透き通った断面を見せ
明るい色が多いフルーツの中にブルーベリーを乗せる
そして主役
真っ赤ないちごを魅せるように乗せ
粉糖をまぶす
塗ったナパージュが店内の明かりでキラキラと輝き、雨で暗い空間に彩りを加えてくれる
当店自慢のフルーツタルトだ
***
「……お待たせ致しました、フルーツタルトです」
「おお……!!」
「原価が高いので、お値段も少々お高めですが」
「む、どのぐらいだ?」
ここで勝負に出る
「24ユーロです」
「……まぁ、払えるゾ」
「余裕ですか? 」
「ああ、金はいくらでもある」
「出身はどちらで? 」
「何故言わなければ? 」
「当店ではそれに合わせてご紅茶のサービスを……」
もちろんそんなサービスは無い
あくまで確認の為、今回限定だな
「なるほど、いい店だな」
「ありがとうございます」
「あいつがあなたさんに恋してる理由がわかった気がするよ」
what 恋?
Love?
私に惚れられるような要素はないと思うが
「それは物好きな方が居るんですね」
「いや、貴方ならなんの不思議でもない」
「お世辞がお上手で」
「そう謙遜するな、私の正体にも気づいているのだろう?」
サングラスからギラっと輝く目が身体を突き刺してくる
隠された左目からは楽しそうな目が見えた気がした
「……何のことでしょうか」
「とぼけるな、金髪なんてこの国では総統の俺か、コネシマか、まぁそのくらいだろう」
まさかの総統様
「それに紅茶のサービスなんてあれば、昨日もそれをしている筈だしな」
「……数々の無礼、お許しを」
「大丈夫だ、気にしてはいない」
良かった
総統様は威厳強すぎて怖いんだよなぁ
私はケーキホールで食べちゃうぐらいの甘党なんだな、と思っていたので
案外怖くはなかった
「この俺に嘘を、首でも飛ばして差し上げようか?」
「申し訳ございませんそれはほんとにおやめください」
(めっちゃ怒ってたぁぁ!! )
ケーキ何ホールか持たせるか
いや金が足りん……!!
「ふむ、そうだな……では」
自身の生唾を呑む音が大きく鳴った
「軍で働いてはくれないだろうか?」
総統閣下は何を仰られているのだろうか
いやいや、きっとあれだ
私の耳には綿でも詰まってるんだ
でも心地良いから外したくないな
「失礼ですが総統様、私に筋力はありません。戦争に繰り出すには」
「んなこたぁしない、城内でケーキ焼く仕事をしてもらうだけだ」
なんで?
無意味すぎる仕事
てか『ドキッ!男だらけのお城』に入りたくない
「……私はここが」
「軍のお墨付きをやろう、実質美味しいからな」
「行きま」
「よし!!じゃあ明日移動するゾ」
すぐOKと答えた私も私だが
いや食い気味
割と重要なところじゃない今の
てか待って
「……明日ぁ!? 」
準備はどうすれば
「実はもう準備は出来てるんだ、抜け殻状態の店もな」
あれ初めて来たの昨日じゃなかったっけ
一日で済ませたのか
「私が行かなかったらどうするんですか!? 」
「ん? 行くからいいじゃないか」
なんて思い切りのいい総統閣下なのだろう
部下は大変だな







![[参加型?]空の上で最後の遺言を、](https://novel-img-gcs.prepics-cdn.com/prcmnovel-tokyo-prod-converted-images/p/fLidrLhRSUUik4ZkTr7M83BhU0V2/cover/01KCTXMWS5RZ2WT40YN9XJ0C3Y_resized_240x340.jpg)




編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。