昔、小さい頃、両親から聞いた不思議な街のお話。
その街は、音楽が溢れてて、音楽がエネルギーになって
たくさん栄えてる、素敵な街。
お母さんも、お父さんもそんな街で生まれ育ったから
私も、お歌が大好きだし、上手なんだって
マナっていう不思議なエネルギーが、
今もその街のどこかにあるかもしれないねって
そう教えてくれた。
大好きな音楽が、みんなの生活の支えになる、そんな街。
そんな素敵な街が実在していた。
いつしか、両親の生まれ故郷に住む、
それが自分の夢になってた。
「お母さん!いってきます!」
玄関の前で叫ぶと、返事を聞く間もなく、家を飛び出した。
いつもの裏山、自分の足音と、
小鳥のさえずりが聞こえる。
奥の方の、木の切り株に座っている少女の方へ歩いていく。
「さあ!今日こそ返事を貰いに来たよ!」
「……」
「って無視!?」
「何度来ても同じだよ、絶対に協力しないから。」
そう言って、私と同い年くらいの少女は本に目を落とす。
「ねぇ、それじゃあダメなの!」
「音楽都市の復興に協力して!あなたの力が必要なの!」
私がこの子をしつこくスカウトしてる理由、
それは数ヶ月前に遡る。
歌の練習をしようと思って、裏山に入っていった時のこと。
いつもは誰もいないのに、今日は珍しく先客がいた。
姿は見てないのに、いるって分かったのは
今まで聞いたことないような、静かで、儚くて、
そしてとってもキレイなギターの音が聞こえたから。
けど、不思議だったのは、途中途中、
不自然なところで曲が止まること。
1度気になったら止まれないもんだから、
勢いに任せて、ギターの音の主に話しかけようと
足を踏み出した瞬間、止まる。
彼女の周囲に広がるたくさんの紙の束。
風に揺られて、こちらの方へ飛んでくる。
軽くジャンプをしてその紙を1枚掴めた。
内容を確認して、驚く、その紙には大きくこう書かれていた。『マナエネルギー解析実験』
ギターの少女がすぐにこちらに気付いて駆け寄ってくる
「ちょっと、何勝手に見てるの」
「あ、ごめんね、気になっちゃって。」
彼女のあまりの剣幕に焦って紙を返す。
紙を乱暴に受け取ると、
また奥の方に入って行こうとするから、慌てて止める
「ねぇ、マナのこと、詳しいの?」
彼女はこちらの顔を見て、不信そうにしている。
「あ、えっと、ごめんね。
私、マナで昔栄えてた都市、そこをいつか復興させたいって思ってて、だからそれ、気になっちゃってさ。」
無言の時間、たったの数秒なのに、なぜか気まずい
待ち続けて、やっと彼女からの返事が帰ってくる。
「……やめた方がいいよ。無謀だから。」
「それって、どういうこと?」
そして、また無言、少し考える素振りをした後に
しっかりこちらに身体を向ける。
「いいよ、教えてあげる。」
そう言うと、切り株の上に彼女は座って語り出した
「いい?まず前提条件、
マナの発生条件は実は音楽をすることじゃない。」
「じゃあなんなの?」
「マナっていう特殊エネルギーは厳密には
あの滅んだ都市の土地、あそこで生まれた音楽が、
他の人の耳に届いて、その感情の機微でマナっていう
エネルギーが生まれる。ここまではいい?」
「……う、うん?」
「はぁ、つまり、復興するって言っても
音楽をできるだけたくさんの誰かに聞いてもらわないと意味ないってこと」
「でも、歌を作って!聞いてもらえばいいんだよね?」
「そんな簡単に言わないでよ
聞いてもらうって言ってもね?
あの土地は元々過酷な土地なの。あそこ、今は都市が滅びて砂漠になってるけど、それがあそこの本来の姿。
水もなければ植物も、動物だっていない。
その上、土地だけやたら広い。
有識者の中では『砂の惑星』なんて呼ばれてるくらいなのよ?」
「食料も水も!外から持ってくればいいじゃん!
マナの供給が安定すれば、困らないんでしょ?」
「はぁ、短絡的すぎる。
あの土地は広大すぎるが故に、物を運び出すのが困難なの。だからこそあの土地が守られてるとも言えるけど。」
「なぜあの土地が、大都市まで発展したのか、
うちのお母さんだって分かんなかったのに。
そんな奇跡みたいな芸当、できっこないよ。」
「……そんなの、そんなの、やってみないと分からない!」
「はぁ?!」
彼女の目が丸くなる。
「マナを生み出すのが難しい、その土地で、
生き残れるかすらも怪しい、でも、それでも!
私は、諦めたくない!」
「…どうして?貴女、住んでた訳でも、思い出があるわけでもないよね?なんでそこまで執着するの?」
「だって!お母さんも、お父さんも、すっごく楽しそうに話してくれたもん。きっと、たくさんの人の、
たくさんの思い出がたくさん詰まってたはずなの!
だから、諦めたくない!」
「……無鉄砲馬鹿。」
「それに!有識者とも出会えたし!」
「え?」
「手伝ってよ!復興!貴方の力が必要なの!」
「……まったく。」
これは決まったでしょ!
これからよろしくねパターン入りましたぁ!
「馬鹿なの?付き合ってらんない。」
そう言って、荷物を片付けはじめる。
「えええ!ちょっと待って?よろしくねパターンじゃないの?そういうテンプレじゃないの!?」
「はぁ、本当に疲れる。」
「じゃあね、無鉄砲なお馬鹿さん」
片付けを終えると、そのまま裏山を降りようと、
私を横切っていく。
「私、絶対!諦めないから!!」
彼女の背中に、そう叫んだ。
「もう!いい加減しつこい!
貴方が何を言ってもこの計画は無謀だし、
こんな命懸けの計画に乗るほど私は馬鹿じゃない!」
今日は、今までで、1番力強く引き離された。
……でも、私だって、今回は無策じゃない。
「いいから!これを見て!」
私が突き出したのは、1冊の計画書だった。
「……なに、これ。」
「いいから見て!」
彼女は怪訝そうな顔をしながら計画書を開いて、
そして、目を見開く。
「……どういうこと。」
「どうもこうもない、こういうことだよ」
彼女は、しばらく無言で、その計画書を眺める。
……そして、
「うん、悪くはない、ただ、詰めが甘い。」
「どういうこと?」
「……いいよ、説明してあげる。」
そして、計画の穴の全容を説明してくれた、
その全てはどこまでも論理的で、それでいて、
その通りだった。
「じゃあ、これじゃあだめってこと?」
「……ダメとは行ってない。」
「え?」
思わず聞き返す。
「それに、私はこの穴を埋める方法を既に思いついている。」
1呼吸置いて、私を真っ直ぐ見つめる
「解決方法、自分で見つけられたら、協力してあげる。」
そこからは、トライアンドエラーだった。
「……こういうのは?」
「ダメ、こんな辺境の地に、誰が音楽を聞きにくるわけ?」
「じゃあ!こうするとか!」
「それじゃあ食料尽きるでしょーが!」
彼女は、口調は強いし、厳しかったけど
ずっとずっと、私の案出しを手伝ってくれた。
夜、机の上。これまでの話を整理する。
あの都市を復興させるには、
その土地で作った曲を、色んな人に聞いてもらって、
心を動かすことは絶対条件、そして、最大の壁。
作るまではこの土地で、他の土地で聞かせてもいいが、
その場合、マナの放出量は半減する。
出来れば土地に出向いて聞いてもらいたい…。
そして、土地の最深部に行けば行くほど、
マナの排出量は増えていく。
でも、奥に行き過ぎると、食料運搬の時点で詰む。
マナは科学的に不明点が多すぎて、
復興にどれだけ必要なのかの目安すら分からない。
最悪、食料不足で死ぬ……。
だー!もう!どうすればいいってのよ!!
……落ち着け、あの子はやり方は思い付いてるって言ってた、きっと方法があるんだ、考えろ、考えろ。
心を落ち着かせるために、音楽カセットを再生する。
小さい頃から聞いてた、大好きな曲。
この曲は、聞くのも好きだけど、
歌っていると、もっと心が落ち着く。
……歌っていると、心が落ち着く…
……それだ!!
翌朝、すぐさま、彼女のところに向かった
「ねぇ!思い付いたよ!マナ!出す方法!」
「へぇ、聞かせてよ。」
大きく深呼吸をする、大丈夫、きっと、当たってる。
「マナは、音楽によって生まれる心の機微で生まれる
エネルギー、つまり、音楽で人の心が動けば、
エネルギー自体は生まれる。生まれたエネルギーは万能で、食料、建物、色んな物質を生み出せる!
だから、私達が、あの土地で音楽をして、
自分の心を動かせれば、少なくとも、拠点の問題、食料問題は解決する!
そこからどんどん私達の力で復興できれば、
この都市の元々の知名度でまた注目を浴びる!
そしたら、私達の音楽を聞いてくれる人が増える!」
「……及第点、かな。」
「ほんとに!?やったぁ!」
「調子に乗らない!貴方が言った計画は粗が多すぎることに変わりはない」
「えぇ……」
「例えば、自分たちで最初はやっていくって、
それができてたら最初からこの都市は滅びてない。」
「そんなこと言ったら計画自体ダメじゃん!
及第点なんでしょ!?」
思わず大きな声を出してしまう。
「発想自体には賛成だけど、
じゃあ重要なはじまりの拠点はどこに建てるの?
どのくらいのマナで、どれくらいの物資が生まれるかわかってる?非常事態は?どうするの?あの土地、
マナが生まれること以外何も無いんだよ?」
うっ、それはその通りだ、発想に浮かれすぎて、考えてなかった。
「……そういう細かいことを決めてこその計画だよ?」
「……だから、作ってきた。」
「え?」
「その発想をベースにした計画書。」
「……夢なんでしょ?本気でやらないと。」
そして、彼女から、手を差し出される
「ん、早くしてよ。」
「……うん!!よろしくね!」
そう言って、彼女の手を取る。
「ん、よろしく。」
「……ところでさ」
「なに?」
「……名前、なに?」
それから数年後、遂に、ようやく、この時がきたんだ。
隣には、ずっと計画を共にした友人がいる。
それだけで、ただ心強い。
「ミク」
隣から、名前を呼ばれる。
「まさか、ここまで来て、ビビってないでしょうね?」
「……まさか、すっごくわくわくしてるよ」
「……そうでなくちゃ」
そうして、かつて大都市だったその場所に、足を1歩踏み入れた。
第1到達地点、到着。
ここは国境の境目に当たる場所、
マナが生まれる、ちょうどギリギリの場所だ。
「さて、早速、はじめようか。」
そういうと、隣でギターの準備をしはじめる。
手前付近ではじめる理由は単純、
マナの発生を失敗してもリカバリが簡単にできる場所で確かめること、マナをここでたくさん生成して、
あわよくば、外と繋がる電子機器を作ること。
というのも、この土地は、電波が通じない。
マナで遮断されるからだ。
だから、外と通信するには、
マナで専用の機器を作らないといけない。
「……準備できたよ、そっちは?」
「準備バッチリ!いつでもこいだよ!」
「よし、はじめようか、スリーカウント!」
ギターを手で叩く音、2人でたくさん練習したけど、
すごく長く感じるスリーカウント。
緊張とわくわくが、全身を支配する。
……さぁ、いこう!
曲がはじまる。記念すべき1曲目は、
この都市で、はじめて生まれたと言われてる曲。
静かな曲調で、人の心をがっちり掴んでくるようなそんな曲、はじめてにも、マナ生成にも相応しい、そんな曲。
不思議と身体がポカポカしてきて、
自然とギターの音と、息が合う。
こんなに楽しく歌えたのは、はじめてかもしれない。
この土地で歌うこと、それだけのことだったのに、
想像以上に、心を奮わされた。
……そして、曲の全てが終わって、辺りを見渡す。
私達にとって、マナの発生という現象その物がはじめてだ。
「……知ってたことだけど、やっぱ目に見えた変化はないね。」
「……うん、そうみたいだね。」
「さて、ミクはちゃんと覚えてるかな?マナの活用方法。」
記憶力テスト、いつものやつだ。
「その場にマナが溢れてるのを想像しながら、
自分が欲しいものを望む、だよね」
「……ご名答、さ、やってごらん。」
さぁ、集中だ。
最初に出すべき物は2つ、外の世界に繋がる電子機器、
マナ測定器、この2つだけは、今ここで作らなければいけない。
その上、2つ目のマナ測定器、その名の通り、
その土地のマナの量を数値化してくれる代物だが
この機械に関しては、友人のアイディアであって
この世に存在しない、現状、マナというエネルギーは
万物を創造できると言われてるエネルギーだから、事実上作ることは可能だが、確証はない。
そして、マナを使って創造するには、物の構造をできるだけ詳しく理解していないといけない。
ここ数年間で、世の中の物質がどうやってできているのかも、ずっと勉強してきた。
あとは強くイメージするだけ、少しでもイメージを違えたら、違う物ができる。だから、集中するんだ。
強く、強く念じると、強い光がその場を満たす。
そして、光の中から、出てくる。
2台1セットの小さな鉄の箱と、
青い塗装のされた手のひらサイズの箱。
「……よし、試してみよう。」
そういうと、鉄製の小さな箱を手に取る。
「……多分、これが通信機かな。」
「ミク、片方持って、そこの国境越えてみて。」
国境は数メートル先、出ても、すぐに戻ってこれる場所。
「りょーかいしましたぁ!」
片割れの通信機を手に持って、砂を踏みしめ、走り出す。
「到着したよー!!」
国境を越えると、小さくなった友人に見えるように、
大きく両手を振る。
しばらく待つ、心臓がバクバクする。
遠くで、俯いてる友人の姿、
恐らく、通信機をいじってる。
お願い、通じて……!
祈りを込めて、手の中に通信機を握り込む、
……数秒後、手の中が震える
1回、2回、ドキッと、胸が跳ねて、
通信機を落としかけそうになりながら、通話ボタンを押す。
「……もしもし?聞こえてる?」
いつもの、友人の声。
「……うん、うん!聞こえる、聞こえてるよ!!」
胸が高鳴る、圧倒的な高揚感
「……成功、だね。」
「……やったぁ!!!」
「……さて、次は測定器。」
友人が今度は手のひらサイズの小さい機械を手に取る
「よし、試しになんか歌ってみてよ」
「おっけー!任せてよ!」
深く、深く深呼吸する。
実験のための歌だけど、
それでも胸が緊張しているって激しく主張してくる。
よし、きっと上手くできてる、はず!
1つ、2つと、音を紡いでいく。
大丈夫、今日はなんだか調子がいい
気付いたら、あっという間にラストスパート
…………歌いきった。
「……ねぇ、どうだった、?」
「…………大成功だよ!!」
彼女の、今まで聞いた事がない、気持ちが高ぶった声。
どうしよう、まだまだこれからなはずなのに、
胸がキュッとなる。
どうしてだろう、なんでなんだろう。
目が、すごく、すごくあついんだ。
きっとそれは、成功したからなんだ
この『計画』の内容を思い出して、
呼吸が浅くなっちゃってるんじゃ、きっとない。
「……さて、これで最低限のアイテムは揃った。」
「……うん」
「……なぁに暗い声してんのさ、柄にもない。」
俯いてると、私の顔を覗き込んで、両手で頬をわしずかみにされる。
「しゃんとしなよ!
そんな暗い声じゃ、世界に音楽届かないよ!」
「……だって、だって…」
言おうとして、言葉に詰まる。
「これで、しばらくお別れなんだよ」
「……そんなんじゃない!」
突然、大きな声を出されて、身体が跳ねる。
「離れるのは、身体の距離だけじゃん!
目標と、この通信機と、そして音楽が、
私達を繋いでくれてる!だからお別れなんかじゃない!」
そう、そうだよ、私達は、離れてても、繋がってるんだ。
「きっと、成功させようね、2人で。」
「……当たり前じゃん。」
夕暮れの下、砂が光を反射して、友人の姿が影になる。
私は現地で都市の復興、彼女は、世界で音楽活動。
この日、私達は、別々の道を歩むことになった。












編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。