第4話

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2020/02/21 13:15
声が漏れてしまったのだろうか。

ドアの外から声が聞こえる。

返事をしなきゃ。

でも今しゃべれば、声で泣いていることに気づかれてしまう。

……どうしよう。

そのとき、ガチャと音がしてドアが開いた。

僕はとっさにドアに背を向ける。

鍵は閉めたはずなのに…。

「ごめん、心配で10円玉で開けちまった。…って、三郎?」

後ろに二郎がいる。

どうしよう、泣くのをやめないと、気づかれないようにしなきゃいけないのに。

僕は体育座りをして顔を膝の間にうずめる。

二郎は僕の隣に座ると、

「三郎の部屋って、なんか広くね?」

と言った。

は?と言いたくなるほど話のつながりがない。

「俺の部屋もっと狭い気がしたんだけどな。兄ちゃん三郎へのひいきかぁ〜」

お前の部屋が散らかっているからだろと言ってやりたい。

言ってやりたいが、しゃべれない。

「三郎?なぁ、どうした?体調悪いのか」

「………ち、が」

質問を投げかけてばかりの二郎に意を決して僕は口を開いた。

思ったより声が出なくて、いつもよりかすれて上ずった声になってしまった。

「………三郎、ちょっとこっち向けるか」

向けるわけがない。

顔を見られたら泣いていたとすぐにバレてしまう。

そのままでいると二郎の手が頭に当たった。

何をされるのかと思っていると、頭を撫でられる。

予想をしていなかった。

こんなことをされるなんて思っていなかった。

されるとしても、無理やり顔を膝から引き剥がされるといったことだと思っていた。

「……どうした?お前元気ないだろ。
………俺は、頼りないし馬鹿だからさ、もしお前に悩みがあっても、難しすぎて相談に乗れないかもしれない。
だけど…三郎がこのままじゃきっと兄ちゃんも心配するから…帰ってきたら相談しろよ、ちゃんと。
………兄ちゃんなら、聞いてくれるよ」

二郎の口から出た言葉ひとつひとつが、心の中に染み込んでいくような感覚になる。

……こんなに優しくて、いいやつだと思っていなかった。

昔は、

施設にいたから、

一兄がいないことが多かったから、

だから僕に優しくしてくれているんだと思っていた。

でも、違かった。

二郎は何も変わっていない。

昔も今も、環境が変わっても、僕の傍にいてくれていた。



ずっと、そうだったんだ。



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