今日も変わらず快晴。
暑くも寒くもない、ちょうど良い気温。
風がそよそよと吹き、
花が笑っているようだった。
バレないように、姿を変えた。
お気に入りだった長い髪を短く切って、
カラコンで目の色を変え、
化粧も自分で書き直した。
鏡を何度も確認して、性格も全てを別人のようにした。
それから兵士にも一度も見つからず城を出ることができた。
初めての町、人、建物。
城の窓から覗いて憧れ続けていた景色が目の前にあった。
老若男女関係なく笑顔の絶えない光景を目にした。
自由が全てではなく、ある程度のルールがありつつ、
そのルールの中で自由に生きている。
これは片方が偏ったら存在しない。
私はうっすらと涙を流した。
トコトコと、軽い足取りでどんどん歩いて行く。
服装もこっそり一般人と変わりない物に着替えた。
そして、町を出てまた歩く。
城壁に辿り着くのに1日もかからなかった。
辿り着いたのは夕方の、
太陽がもうすぐ沈みそうな時だった。
窓の外から遠目で見ていたからか、
城壁は立派で大きく、とても頑丈だった。
私は町の商人にこっそり教えてもらった扉を探す。
『あの城壁には、一つだけ、扉が存在するんだよ。』
町を出て真っ直ぐ進み、そのまま左に沿って歩いて行くと、その扉はあった。
それは木組みのドアで、鉄の金具が付いていた。
ギィィ……
私は固唾を飲み込む。
中は真っ暗で何も見えなかった。
私は勇気を出して扉の奥に進んで行った。
……その時だった。
『でも、扉の奥には何があるか分からない。
だって、誰も帰って来たことがないからね。』
商人の言葉を思い出す。
本当に、自由は存在するのだろうか?
ルールばかりに縛られない世界が、存在するのだろうか?
私はふと、立ち止まった。
今の王女は私だ。
もし、このまま進み続けて行くとすると、
あの町は一瞬で滅びるだろう。
もしかしたら、私の求めている自由もないかもしれない。
私は後ろを振り返る。
だが、もう遅かった。
扉は固く閉ざされ、
もう二度と開けるような状態ではなかった。
……私はもう、後戻りができなくなった。
だから。
奥にある、小さな輝きに向かって走った。
意識がなかったようだ。
見慣れない白い天井に、少し困惑する。
この時初めて、私はこの名前を口にした。
“ヒナタ”
本当はマリンだなんて言えない。
王女の名前なんて言いたくない。
だから咄嗟に思いついた仮名を言った。
そうして私達は仲良くなった。
数日後、彼女は私がどこから来たのか教えてくれた。
詳細を聞くと、飛び出し絵本から現れ、
意識を失った状態で倒れていたようだ。
その絵本はボロボロで、色褪せていた。
優しくページをめくると、そこには…
大きく飛び出す城と、
可愛らしいイラストで描かれた私が立っていた。
その両側に、父と母がいる。
驚きで上手く言葉を発せない。
急いで次のページをめくると、
城壁を登る姫のイラスト。
更にめくると先が真っ暗な扉を進んでいく姫。
更にめくると謎の部屋で目覚める姫とアルゴットに似た女の子のイラスト。
そして。
次のページは。
アルゴットが。
村人に囲まれ火炙りにされているイラストだった。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。