黄金の装飾がされた宙に浮いた額縁、どれも大きい物が不規則に並べられて、ダリみたいな変な芸術家の博物館にでも来たみたいに感じる。何が映っているのか、そろそろご拝見。
タッチが何かで削り描いた壁画のソレ、長い髪をした何者かが大きな八足歩行の生き物にすがっている、なんだか気味悪い画。
多分そう。
というか一本の物語になっているからこそ、似ている画で並んでいるんだろうな。
それに…間違ってさえなかったら、彼の史実。
はじめに何かに縋り付いて、病の寝床に倒れこみ、怪しげな煙を浴びている画が一枚づつ。
最後の画に関して言うなら、大柄の男が持っている煙を浴びせられている。見た感じ、家庭環境の悪化でもあったのかな。
家の話って友達と話すにしても空気が悪くなるような話になるし、もしかしたらたった一人で悩みこんでいたのかもしれない。でも、一番身近にいた妹にも話せもせずにほんとにできるの…?
もうそのまま動く足が止まってしまった。
まだ吊り橋は半分しか歩いてない。いや、でも橋のゴールにあんな気味悪いものばらまかれてたらそりゃ足も止まるよ。
ホントになんだ…?大きいものから小さいものまであって、オレンジだか黄色だかに光っている。大きさが多種多様ないくらみたい、あぁこんなこと言っちゃったらもうそれにしか見えなくなってきた。
というか待ってよ…?さっきの目ん玉は…?十中八九橋は渡り切ったよな…?
不思議なことばかり起きそうな場所だとは思っていたけど、不思議で済まされる状況じゃない。
これってあれか…?現世?で起こったのが影響受けて浸食されていいるのか…?
それでもなんでこんな形相で?人によっては神々しい光にも見えるものが?ダメだ不可解な点が多すぎて整理ができやしない。
オレンジ…オレンジ…。
そういえば、赤河さん言ってたな、ずっと精神的に参ってるみたいなこと。
曖昧な記憶ではあるけど、彼女が言いていたことの原因がこの世界だとしたら、ここに入り浸っ掲る彼を引っ張り出せば落ちつきなりなんなりを取り戻せるかもしれない。
それにこの惨状、無理くりつかまってると見た。
不安と、未知なる畏怖と、混在し始めた記憶で、おおっきくため息が出る。足はもう動かす以外の選択肢がない、助けるにも出るにも逃げるにも。
いざ吊り橋を渡り切ったら、ここにて異変発生。なにか大きな物音がしたかと後ろに振り返ったら、吊り橋がガラガラガラと崩れ去っていってしまった。もう正直今更だ、元より引く手なんてなかったんだろうし。
僕は構えた、彼女からもらったナイフを力強く握りしめて。そう握りしめて走っていった。
ぐっちょぐっちょなってる謎物体が飛んだり落ちたり、木々に乗ったり破裂したり。生き物みたいではあるけど、はたから見たらなんだかなりきれてないように見える。
気持ち悪いったらありゃしない。
あ、いた、さっきの目ん玉ちゃん。もう次の吊り橋にまで来ている。こいつらと違って、ぴょんぴょん跳ねて愛嬌があるな。
涙目になった目玉ちゃんが何か言ってる、どーもまずいらしい。だってもうこの孤島、このぐちょぐちょだらけになってるもんね。まだまだ壁画も沢山あるけど、見てられる時間なんてないどころか、オレンジの光で見えやしない。
全体を見渡してみても、大きな大きな巨大樹まで遠い。まだまだ孤島を渡ることになりそうだけど、ちょっとずつ橋の長さが短くなっているのは見て分かったからそう時間がかかることにはならなさそう。
もうここは猛ダッシュで駆け抜けた。さっきみたいにいつ落ちてもおかしくないわけだし、もし落ちることになれば…考えたくないな。もう物音がしても振り返らない、その一瞬で飲まれてしまいそうな引力を感じるから。
息が荒くなってきて、肺の奥から痛みがわかるくらいになったやっとで、ゴールまでたどり着いた。もうすでにどこに何があったか忘れてる。
彼の陸上の功績の秘密とか、音楽をすることになったきっかけとか、注目を浴びている人の分からない裏面が壁画になっていたんだろうけど。正直、何が分かろうとも、やらなきゃならないことは変わらないことだけはわかってる。
大きく息を吸って空を見上げてみた。幹がしわよって力強く神々しいけど、妙に畏怖も感じる巨大樹だ、僕の息は枯れているけど。
落ち着いてから改めて見てみみたら、この巨大樹、まだあのぐちょぐちょがどこにもない。そして、幹のちょうど真ん中に何か丸いものが埋め込まれている。今度はなんだろあれ。
真後ろから聞こえた。少々ペザンテ。それでも、どこか安心したかにも聞こえた。誰だなんて、振り返る必要もない。どう考えても寝床主しかいない。
振り返らないまま、僕はただ巨大樹を眺めてそう聞いた。返事は足音と共に返ってきた。
彼もこの巨大樹を眺めに僕の隣まで歩み寄ってきた。
彼は僕に背を向けた。左手側、中が何も見えない真っ暗な門がある。あれが彼の言う出口らしい。
「現実ってのはほんっと真っ黒だぜ。期待からの煽りプレッシャーも、家系で決められた特技も不得意も、人がいちゃ絶対走りきれっこねぇ世界だからよ。オマエならまだ生きれる世界だろ?オマエはオマエを待ってる人たチニ早く帰っテヤれヨな。オマエの曲はまだまだ序章ナンダよ」
彼はそのまま門へ、アッチェランド。
今の流れ、もうタネは分かった。それでも、僕はそれを了承出来る奴じゃない。いくらクラスメイトだろうが、赤の他人だろうが、止められるのがまともなやつだ。自分が送った人生を、僕の送った人生を叙情的に語ろうが、絶対に納得できない。
この世界、夢だって言ってたっけ。自分に、あるいは他人に理想を求め求められすぎたのか。いや、彼の言動、史実だと思われる壁画を見てれば恐らく後者か。
「同じ旋律を永遠と繰り返されてちゃ、それはもはや曲じゃねぇ。どんな曲だろうとアウトロが必要だ。そうすりゃ、あとは何にも考えなくっていいからよ」
もう楽になりたいから、全部切り落としたいと。彼は患者だ。そしてまだ子供だ、僕と同じで。家系とか、できることとか、全然違うけど、元は同じ価値で生まれた子。病を患っているから治せる、治せるから生きられる。希望は持ってないかもしれないけど、この道のりには少なくとも終着点なんてものは無い。
「オマエはただのミカエの側近じゃない、演者ってワケか」
気の所為じゃない。さっきからガサガサワサワサ、物音がしている。
彼の艶やかな長い黒髪、どこから吹いた風に踊らされたまま振り返ったその時。
場所は変わり、火災報知器がジリリリリリリリと、病院全体を不安に陥れた。
火の海が波を立て押し寄せてくる中、逃げゆく者たちに対し逆走かましているのは白髪の少女。
真夏に現れる大きな雲のような髪色の彼女、名は言うまでもなく北雪。
しかし、いつも少々雄々しい姉貴肌の彼女とは違った。目は暗闇と言っていいほどの真っ黒で虚ろな目で、眉をひそめては、火の熱さを感じられないと言わんばかりに冷や汗を流していた。どうやら、後ろ髪を引かれている様だ。
彼女は、執拗に芸術家のたまごたちを欲している。今彼女が抱いているのは、彼女の過去がフラッシュバックしたことで起きた、精神的生命力に対する焦燥感。この光景と似たものを、一度目にしているのだ。
突如この病院に現れた人型の傀儡のような怪物たちは、人を喰っては骨を丁寧に安置所に並べるという特性を持つ。彼らとの激戦を繰り広げていた者の一人である彼女も、このことは十分に理解していた。
いや、戦っている者たち以上かもしれない。彼女の生みの親は既にあの安置所へ葬られているのを、彼女はとうの昔に見ている。あの白髪は、そんな二人の亡骸の色、死を象徴する白。
彼女の眼には、まだ虚ろながらも真珠のような涙が浮かぶが、それでも迷うことなく歩みを進める。
もう2度と、大切な人をあの場に葬らせないように。









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編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。