"嗜好が危険な人"というのが気になりはするものの、気にしても仕方がないというような気がするので、放っておくことにした。
そう言うと左耳に手を当てて喋り出した。これはエーミール先生に聞いた話だが、左耳に着けているのはインカムと言うらしく、これで手軽に連絡ができるそう。
着けているのは幹部様13名と総統様の計14名。小隊を持っている人でも幹部で無ければもらえないらしい。
厳しいね。
"そんなこと"…?例の"掘る"というものだろうか。…お願い事されて1番初めに聞くのがそれってどれだけ恐れられているんだろう?
"そんなこと"はなんと例の"掘る"でした。幹部様への脅迫に使えるとかどれだけ怖いんですか?今度、幹部様方に聞いてみようかな。誰か一人くらいはきっと教えてくれるはず。
途中の脅迫(?)を完全に無視して会話していると廊下をバタバタと足音を立てて走ってくる音が聞こえた。シャオロン様かな?
足音は医務室の扉の一歩手前で止まり、一拍おいてから扉がノックされた。
入ってきたのは予測通りシャオロン様で、かなり急な呼び出しだったにも関わらず、息が切れていなかった。流石は幹部様。
しんぺい神さんの指示に従って私の体をヒョイっと抱き上げたシャオロン様は、そのまま医務室を出てスタスタとどこかへ歩いていく。おそらくはお風呂場へ向かっているのだろう。
しかし、移動中の話題がなく、なんとなく気まずさを感じていると、シャオロン様が唐突に話しかけてきた。
どうやら私の食事について疑問を抱いたようだ。そんなに軽いかな?
そんなに?今度しんぺい神さんに訊いてみようかな?
ギイィと音を立てて開けられた扉の向こうは、いったい何人の人が入れるんだろうかと思うほどに広かった。
そう伝えると言葉通り私に背を向けてくれたのでパパッと服を脱ぐ。
患者服だったから、すごく脱ぎやすい。
え?あんたに危機感はないのかって?私の身体に興奮する人いないので大丈夫です。古傷とかの傷痕に興奮するみたいな、相当な特殊性癖をお持ちの方が現れない限りは。
sha side
俺は今、No.1309ちゃんの骨が折れているため、代わりと言ってはなんだが体を洗っている。
頭を洗ってやると、今までぺ神が洗っていた分もあってすんなり指が通ったが、ところどころに傷んでいる部分が見えた。
おそらく、我々国に来るまではあまり手入れができなかったんやろうな。
なにせ生物兵器だったし、その前はお姫様の付き人やったけど、α国は王族以外の扱いが酷いで有名やからな。それがいくら王族に近い家系や立場の人間であったとしても、や。せやから、大して風呂とか入れてもらえへんかったんやろ。
体に関しては、今まで見てきた中で1番酷い。そりゃペ神ほど見た訳とちゃうけど、でもやっぱ酷いと思う。
背中の至る所に鞭で打たれた跡があり、刃物か何かでつけられたであろうものや熱湯でもかけられたんかとでも言いたくなるやけどの痕。それだけではなく、やけど繋がりで言えば根性焼きの痕もあるし、化学やけど?とかの痕もある。
…………もちろん、注射の痕も。多分生物実験の一環でやられたんやろうな。
見ているだけで痛々しいその傷の数々に心を痛ませながら、声をかける。
少なくとも、α国との戦争が始まるまでは痛いと感じることができるかぎり少ないように。
鏡越しにNo.1309ちゃんの顔を見れば、オスマンじゃないから詳しくはわからんけど、嘘は吐いてへんように見えた。
"傷口は塞がっている"と答えた彼女の顔を鏡越しに見れば、どこか悲しそうに笑っているのが目に映った。
もうこんな顔をしなくていい様に、悲しい時には泣ける様に。嬉しい時には思いっきり笑える様に。そうなって欲しいと願うばかりだ。
敬語の抜けない、硬い口調で返すNo.1309ちゃんをどこかショッピに似てるな、なんて考えながら、自身のふと思ったことを口にする。
α国に関する俺の記憶が間違っていなければ、きっとこの子は________
ああ、やっぱり。厳しく主従関係を叩きこまれたからか、様、とつけている。
α国は、相当歪んだ教育を施すようだ。主従関係は絶対に守り、境界線が曖昧にならぬよう、普段の生活から線引きを徹底させとる。
α国からしたら我々国の方が歪んでるかもしれへんけど。
幹部だから、という理由であだ名呼びを控えるなんてな。…どうせこっち側に来るのにな。
部下に"シャオロン様"と呼ばれることには何の違和感もないが、この子に呼ばれるのは何か違う気がする。
どうしても"様"を取って欲しくて、代替案を出してみる。多分この子は、厳しく教育されている分、俺の思いを読み取れるはず。だから、選べる答えは2つあるようで、本当は1つしかない。
"様"と付けなくなっただけで、距離がグンと近づいたような気がして嬉しかった。
けれどきっと、他の幹部を呼ぶ時に"様"を外すのは時間の問題だから、他の奴らが距離を近付けり前に少しでも仲良くしていたい。
たとえそれが、水泡に帰したとしても。
からかうように笑えば、顔を赤らめる姿が見えた。
そう遠くはない未来の話をしていると、もうNo.1309ちゃんの体を洗い終えていた。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。