第22話

第20話
506
2023/11/08 12:48
"嗜好が危険な人"というのが気になりはするものの、気にしても仕方がないというような気がするので、放っておくことにした。
sn
ちょっとだけ待っててね、シャオロンに連絡するから
そう言うと左耳に手を当てて喋り出した。これはエーミール先生に聞いた話だが、左耳に着けているのはインカムと言うらしく、これで手軽に連絡ができるそう。
着けているのは幹部様13名と総統様の計14名。小隊を持っている人でも幹部で無ければもらえないらしい。

厳しいね。
sn
シャオロン〜え?いや何を怖がってるの?…今日はそんなことしないよ!…え?No.1309ちゃんお風呂に入れてあげてほしいんだよ
"そんなこと"…?例の"掘る"というものだろうか。…お願い事されて1番初めに聞くのがそれってどれだけ恐れられているんだろう?
sn
おん、はよ来い…はよ来ないと掘るで?
"そんなこと"はなんと例の"掘る"でした。幹部様への脅迫に使えるとかどれだけ怖いんですか?今度、幹部様方に聞いてみようかな。誰か一人くらいはきっと教えてくれるはず。
sn
よし、もうしばらく待ってたらシャオロン来るよ。
あなた
わかりました。ありがとうこざいます…
途中の脅迫(?)を完全に無視して会話していると廊下をバタバタと足音を立てて走ってくる音が聞こえた。シャオロン様かな?
足音は医務室の扉の一歩手前で止まり、一拍おいてから扉がノックされた。
sn
シャオロンやろ?入ってきてええで〜
sha
お邪魔しまーす
入ってきたのは予測通りシャオロン様で、かなり急な呼び出しだったにも関わらず、息が切れていなかった。流石は幹部様。
sn
邪魔するんやったら帰って〜
sha
はーいってなんでやねん!
んなことより着替えは患者服でええやんな?
sn
せやで、これ着せたって
sha
うーいじゃNo.1309ちゃん着いてきてな?
sn
あ、一応・・骨折れてるから抱き上げて連れてってあげて
sha
あ、せやったわ…ちょっと失礼します〜
しんぺい神さんの指示に従って私の体をヒョイっと抱き上げたシャオロン様は、そのまま医務室を出てスタスタとどこかへ歩いていく。おそらくはお風呂場へ向かっているのだろう。
しかし、移動中の話題がなく、なんとなく気まずさを感じていると、シャオロン様が唐突に話しかけてきた。
sha
No.1309ちゃん軽すぎひん?ちゃんと食っとる?
どうやら私の食事について疑問を抱いたようだ。そんなに軽いかな?
あなた
食べてますよ、1日3食ちゃんと
sha
にしては軽すぎると思うんやけど…
そんなに?今度しんぺい神さんに訊いてみようかな?
sha
っとここがお風呂場やで。普段は一般兵が使っとるけど今日は貸し切るって言うのも変やけど、一般兵は来れへんようにしとるから誰もおらん
あなた
そうなんですね
ギイィと音を立てて開けられた扉の向こうは、いったい何人の人が入れるんだろうかと思うほどに広かった。
sha
んで、体洗わせてもらうんやけど、その…服、自分で脱げる?
あなた
はい
sha
あ、わかったわ
じゃあ俺向こう向いとるから、脱げたら教えてや
あなた
わかりました
そう伝えると言葉通り私に背を向けてくれたのでパパッと服を脱ぐ。
患者服だったから、すごく脱ぎやすい。
え?あんたに危機感はないのかって?私の身体に興奮する人いないので大丈夫です。古傷とかの傷痕に興奮するみたいな、相当な特殊性癖をお持ちの方が現れない限りは。
あなた
脱げました
sha
ん、じゃ風呂入んで〜
sha
この子No.1309ちゃん危機感あるんか⁈)
sha side

俺は今、No.1309ちゃんの骨が折れているため、代わりと言ってはなんだが体を洗っている。

頭を洗ってやると、今までぺ神が洗っていた分もあってすんなり指が通ったが、ところどころに傷んでいる部分が見えた。
おそらく、我々国に来るまではあまり手入れができなかったんやろうな。
なにせ生物兵器アニマンティア・アールマだったし、その前はお姫様の付き人やったけど、α国は王族以外の扱いが酷いで有名やからな。それがいくら王族に近い家系や立場の人間であったとしても、や。せやから、大して風呂とか入れてもらえへんかったんやろ。
体に関しては、今まで見てきた中で1番酷い。そりゃペ神ほど見た訳とちゃうけど、でもやっぱ酷いと思う。
背中の至る所に鞭で打たれた跡があり、刃物か何かでつけられたであろうものや熱湯でもかけられたんかとでも言いたくなるやけどの痕。それだけではなく、やけど繋がりで言えば根性焼きの痕もあるし、化学やけど?とかの痕もある。

…………もちろん、注射の痕も。多分生物実験の一環でやられたんやろうな。
見ているだけで痛々しいその傷の数々に心を痛ませながら、声をかける。
少なくとも、α国との戦争が始まるまでは痛いと感じることができるかぎり少ないように。
sha
No.1309ちゃん、ここの傷が痛むとかある?
あなた
ないですよ。全部痕が残っているだけで傷口は塞がっていますから
鏡越しにNo.1309ちゃんの顔を見れば、オスマンじゃないから詳しくはわからんけど、嘘は吐いてへんように見えた。
"傷口は塞がっている"と答えた彼女の顔を鏡越しに見れば、どこか悲しそうに笑っているのが目に映った。
sha
そうか、一瞬でも痛かったら遠慮なく言うんやで?
もうこんな顔をしなくていい様に、悲しい時には泣ける様に。嬉しい時には思いっきり笑える様に。そうなって欲しいと願うばかりだ。
あなた
はい
敬語の抜けない、硬い口調で返すNo.1309ちゃんをどこかショッピに似てるな、なんて考えながら、自身のふと思ったことを口にする。
sha
なーなー、ところで俺のことなんて呼んどるん?
α国に関する俺の記憶が間違っていなければ、きっとこの子は________
あなた
え?シャオロン様、と呼ばせていただいていますが…
ああ、やっぱり。厳しく主従関係を叩きこまれたからか、様、とつけている。
sha
それ硬ない?
あなた
そうですか?普通だと思っているのですが
α国は、相当歪んだ教育を施すようだ。主従関係は絶対に守り、境界線が曖昧にならぬよう、普段の生活から線引きを徹底させとる。
α国からしたら我々国の方が歪んでるかもしれへんけど。
sha
硬いで。せやなぁ…俺のことシャオちゃんって呼んでみてや
あなた
いや、幹部様をあだ名で呼ぶなんて恐れ多い…
幹部だから、という理由であだ名呼びを控えるなんてな。…どうせこっち側に来る幹部になることになるのにな。
sha
ん〜じゃあ、せめてシャオロンさんか、シャオさんのどっちかにしてや
部下に"シャオロン様"と呼ばれることには何の違和感もないが、この子に呼ばれるのは何か違う気がする。

どうしても"様"を取って欲しくて、代替案を出してみる。多分この子は、厳しく教育されている分、俺の思いを読み取れるはず。だから、選べる答えは2つあるようで、本当は1つしかない。
あなた
では…シャオロンさん、で
"様"と付けなくなっただけで、距離がグンと近づいたような気がして嬉しかった。
けれどきっと、他の幹部を呼ぶ時に"様"を外すのは時間の問題だから、他の奴らが距離を近付けり前に少しでも仲良くしていたい。
たとえそれが、水泡に帰したとしても。
sha
wwww慣れてへんの?
からかうように笑えば、顔を赤らめる姿が見えた。
あなた
まあ…はい…
sha
ま、今はそれでええよ。そのうちシャオさんかシャオちゃんって呼んでもらうけどな?
あなた
ええ…
sha
あと大先生も言うとったゆうとったけど、敬語も抜いてや
あなた
それは…善処します…
sha
期待して待っとるわ
あなた
期待しないで待っていてください、お願いします
そう遠くはない未来の話をしていると、もうNo.1309ちゃんの体を洗い終えていた。

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