第7話

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2024/11/15 08:36 更新
地獄が始まった。
あの暴力が地獄だと思っていた。
あれが地獄なんだと思い込んでいた。
でも、あの程度地獄なんかじゃなかったんだ。
毎日毎日毎日、「検査」という名目でいろんなことをされる。
息が長く続くかの検査のために、熱湯に沈められる。
耐久度チェックだと言って、気絶するまで痛みを与えられる。
感度チェックだと言って、気持ち悪いことをされる。
初めては、ないくんがよかったのに。
全部全部、気持ち悪かった。
何時間も何時間も、「お前は奴隷だ」と聞かされる。
「俺は奴隷です」と言わされる。
日に日に、自分が汚れていく。
日に日に、俺が俺じゃなくなっていく。
数日間はまだよかった、ちゃんと覚えていた。
次の数日間、知り合いの声が思い出せなくなった。
次の数日間では、親しい友人以外の顔が思い出せなくなった。
だんだん、記憶が消されていく。
俺は奴隷だという言葉が、体に刷り込まされていく。
でも、きっと大丈夫。

ないくんならきっと、助けに来てくれる。

「もう大丈夫だよ」って、言ってくれるはずだから。
親しい友人の声が思い出せなくなった。友人の名前が思い出せなくなった。
ついには親の顔までこぼれ落ちてしまって、最後にないくんが残った。
俺は、りうら。
ないくんが大好きなだけの人間なんだ。
奴隷じゃない。
おれ、は、りうら。
あれ、ないくんとはじめてあったのはいつだったっけ。
おれは、りうら?
りうらとしてのきおくをなくした。
からだがけがれていった。
ついにないくんのこえまで、わかんなくなっちゃったみたい。
りうらとしてのきおくがないおれは、ほんとうにりうらだといえるのだろうか。
おれは、    。
ないくんのかおだけおぼえてる。
じぶんのことはあんまわかんない。
けど、ないくんのこいびとだった。それだけはおぼえてる。
……あれ、ないくんってだれだっけ?
おれは、   。
ごしゅじんさまをしあわせにするためのものなの。
ごしゅじんさまのしあわせが、おれのしあわせ。
俺は、どれい。
ご主人様のいうことは、ぜったい。
ご主人様、おこらせたらだめ。
俺は、どれい。
ご主人様に殴られても何されても、ご主人様は絶対。
俺は消耗品だから、壊れても問題ない。
むしろ、壊れるまで頑張らないと。
ご主人様のために働かないと。
俺は、売られるために生まれてきた。
俺を育ててくれた「おとうさん」のためにも、高く売れるような物にならなきゃ。
使いやすい道具にならなきゃ、高く売れない。
そしたら、おとうさんに御恩を返せない。
だから、もっと頑張らなきゃ。
おとうさんの言うことは、絶対。
俺は、奴隷。
ご主人様の幸せのために働くように作られた。
ご主人様を幸せにできないなら、壊さなきゃなんだって。
いつか、壊される日が来るのかな。
俺は、俺は、俺は、俺は、俺は、俺は、俺は俺は、俺は、俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は
俺は、おれは、
だれなんだっけ?わかんなくなっちゃったな。
誰かに助けて欲しかった気がする。
忘れては行けない何かを忘れている気がする。
ぽっかりと穴が空いてしまった気がする。
この穴を埋めていたのは、なんだったっけ。

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