第8話

5.5
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2024/11/16 12:05 更新
#桃
げほ、こほっ
咳が出る。
だからなんだ、早くりうらを探さなきゃ。
走り過ぎて体のあちこちが痛い。
普段あんまり運動をしていなかった俺への罰だ。
飲まず食わずのまま何時間走り続けたのだろう。
喉がヒリヒリと焼けるように痛みを訴える。
空気を吸い込むたびに乾燥して、体の内側が針で蝕まれる。
それがどうした?
早く見つけてあげないと。迎えに行ってあげないと。
りうらが自分から家出をするとは考えられない。
それに、自殺をするような理由も特にはない。
つまりりうらは、誘拐された、または事件に巻き込まれた可能性がある。
りうらは明るいように見えて実は寂しがり屋なところがある。
りうらは怖いことがあるとそれが夢に出てきて、なかなか眠れない癖がある。
一目惚れの、初恋だったんだ。
初めて会ったのはバイト先。昼だけ無駄に客が多い飲食店だった。
俺とりうらはカウンターに座っていろんな雑務をしていた。
夜には客足が遠のくから、自分たちの話をしていた。
初めて顔を見た時、なにか大きな感情の波が一気に押し寄せてきて。
その感情の名前は知らなかったけど、この人と仲良くなりたいんだってことだけ感じた。
俺たちは相性が良かったのか、話しているうちにどんどん打ち解けていった。
二人で休みの日に遊びに行ったりもした。
最初はきっと男友達としか思われていなかったけど、
どうしても振り向いてもらいたくていろんなことをした。
普段はしないネイルをしてみたり、今までよりも美容に気を使ってみたり。
何をしてでも、俺のことをただの男友達以上だと認識してほしかった。
告白は俺から。
今でも思い出せるくらい、鮮明に刻まれている。
クリスマスの日で、二人とも一緒に行く人がいなかったから自然に一緒に行くことになった……みたいな流れだった。
ほんとは、たくさんの誘いが来てたのを全部断ったんだけど。
イルミネーションを見て、クリスマスマーケット?って言うのかな、市場を見て、適当なカフェで一休みして。
プランなんてなかったし、決めなくてよかった。二人で自由に過ごしたかった。
何にも縛られずに、自由に。
その日初めて、俺の気持ちを伝えた。
返事は待って欲しいと言われて、連絡先を教えてくれた。
家に帰った後も、たまに携帯を開いてはそわそわしていて。
自分がそんなふうになるなんてびっくりだった。
OKをもらえたときは夢かと思った。
#桃
ここらへん一帯は探した……もっと、遠く?だったら、電車を……
ぞわり、と。
「電車」という言葉を発した瞬間に背中を襲う寒気。
ああ、ダメだ。
またあの記憶だ。
もう思い出したくないとすら思えるが、忘れてはいけない呪い。
今まで、電車や車は誰かと一緒でないと無理だった。
通勤の時、わざと電車が混むピーク時を狙っていくほど。
でも、今はなりふり構っていられない。
この時間は、人が少ないけど乗っていないことはないだろう。
だから、きっと大丈夫。平気だ。
#桃
……すぐ、見つけてあげるから……
りうらを探すことに夢中で、
体に近づいてきた限界は無視していた。

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