奏音の誤解を解こうと決心してから数日が過ぎた。
あれからも、結局話しかけられていない状況にある。
話しかけようとしても無視されちゃうんだよね…。
心が痛むけど、今日は気にしてる場合じゃない。
地域本番があるのだ。しかも、俺はソロを吹く。
これこそは絶対成功させないと。ソロすらしっかり吹けなかったら、この部活に俺の居場所はなくなってしまうかもしれない。それだけは絶対嫌だった。だから…集中しなきゃ。
会場への移動中、俺は桜庭に小声で話しかけられた。
…あぁ、今日だけでも忘れるつもりだったのに。
桜庭は残念そうな顔をした。
それだけでも、本当にありがたかった。
同じタイミングで会場に着いたので、俺と桜庭は話すのをやめた。
前の団体の発表が終わり、俺たちの番が来た。
最近音を外しまくっているせいなのか、ソロがあるからなのか、いつもの倍以上緊張している。
1曲目、2曲目を吹き、ついにソロのある3曲目。
最初に他楽器にもソロがあるが、今回はいつもソロを吹いてる桜庭ではなく、奏音が吹くそうだ。桜庭によると、
だそう。
練習でも聴いてるからわかるけど、まあ、正直桜庭の方が上手いと思っている。でも、奏音も十分上手い。
若葉先生の指揮で、奏音のソロが入った…けど、音裏返ってる…?
…緊張したのかな。わかんないけど。
後でお疲れ様って言葉でも掛けられると良いな。
桜庭の表情は見えないけど、きっと同じことを考えているだろう。まあ、俺が言えなくても桜庭が言ってくれれば良いか。
そんなことを考えていると、俺が吹き始める少し前となった。
楽器を構えて、音を奏でる。
…少し、音色が荒れているようにも思える。
…まあ、奏音と話せなくなった直後よりはマシか。
一応音当てられるようになるまでは戻ったし。音量は…まだあまり出せないけど。
…もう少しでソロが来る。
ここまでは順調だから、ワンチャンいつも通り吹けるかもしれない。
大丈夫。行くぞ。
そう思って1音目を出した。
思わず楽器を口から離しかける。
しかし、もちろんソロが1音で終わるわけじゃないので、吹き続けるために構え直した。
それでも1音目で音を外してしまったショックが大きいのか、いつも通り吹くことはできなかった。
……そう。俺は、1音目を盛大に外してしまったのだ。
恐れていたことが、起きてしまった。
なんで外したんだろ。いつも通り吹けるかも、とか思ってたから?
終わったことは考えても仕方がない、といつもなら割り切れるはずなのに、頭の中をぐるぐると駆け回る。
その後の記憶はなく、気付いたら本番は終わって舞台裏にいた。
俺の声は震えていて、きっと大丈夫には聞こえないと思う。
ソロを外したショックと、若葉先生に呼び出されてしまったという恐怖で、決して大丈夫とは思えなかった。





















編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!