賢三side
俺に羽交い締めにされている桜庭がそう叫ぶ。
間に合って良かった、なんて安堵している暇はない。
今は彼女を止めなくては。
桜庭がキッと奏音を睨みつける。
今までで1番大きな声をいきなり出されて、驚く。
奏音も相当怯えているらしく、可愛らしい顔が青くなっていた。
…桜庭の言っていることは間違っていると思う。
でも、桜庭の気持ちに気付けなかった俺にも、桜庭がこうなった責任があると思う。
だから、俺は1度冷静になり、言った。
でも、と続ける。
その言葉を放った途端、桜庭の体から力が抜け、足元から崩れ落ちた。
和葉side
ずっと忘れていた。
憎い、許せない、とそんな感情ばかりが心の中にあって。
ソロのことがあったときから、ずっと抜け落ちていたピースに気付けなかった。
奏音ちゃんのこと好きだなんて、なんでそんな大事なことを忘れていたんだろう。
森重とのことだって言う気なかったのに。
こんなに怒りの感情を、出す気なかったのに。
なんであんなに酷いことを言ってしまったんだろうと、後悔が頭を埋め尽くす。
そんなことを考えていたからだろうか。奏音ちゃんに言わなければいけない言葉は、すぐに口から出た。
賢三side
小さな声だったが、桜庭が謝罪の言葉を口にした。
真っ青な顔で謝罪の言葉を繰り返す桜庭は、まるで何かに取り憑かれているようだった。
そう言うと、桜庭は逃げるようにダッと駆け出した。
奏音が、驚いたように振り返る。
沈黙。
俺と奏音の間に、気まずい沈黙が流れる。
そういえば勢いで助けに来たけど、話さないでくださいって言われてたんだよな……
何か話さなきゃと思うけど、話題が思い浮かばない。
あーー…どうしよ。
この沈黙を先に破ったのは、奏音だった。
これはどう返すのが最適なんだろ……
まあとりあえず、素直に受け取っておくかな。
ぽつり、と奏音が呟く。
はい、と言った彼女が続けた。
…たしかに、そうだよな。
小学生のときにあの事件があって以来、桜庭が怒らないようにしていた。だから、奏音が怒った桜庭を見て驚くのも仕方ないと思う。
…まあでもこうなったからには、話しておいた方が良いか。
以前もね、と俺は言葉を紡ぐ。
奏音が不安そうな顔をしたので、安心させるように言った。
あぁ…と納得したような顔をされた。一体何を納得したのだろうか…?
焦ったように奏音が言った。
何か隠さなきゃいけないことでもあるのかな…?
まあ、良いか。
…というか今まで意識してなかったけどこれ、実は仲直りするチャンスなのでは…?あ、しかも奏音の誕生日昨日だったからプレゼント渡せるじゃん!
俺は奏音を連れて教室へと向かった。
奏音side
今、わたしは森重先輩に着いて行っている。向かってる場所は…教室かな?方向的にも。
森重先輩が、振り向きざまに私に笑いかける。
久し振りに見たこの太陽のような笑顔。まるで私の日常から抜け落ちていたピースが戻ってきたようだった。
森重先輩の教室に着いて中に入っていくと、先輩はとあるものを取り出した。何かは……あまり見えない。
改まったように言われて、何があるのかな、と少しドキドキする。
祝いの言葉と共に出されたのは……ラッピングされた袋。
そう言われて開けてみると、中から出てきたのは猫のぬいぐるみのような筆箱。
私、猫好きなんだよね。もしかして森重先輩、覚えてくれてた…?
嬉しかった。森重先輩が私に誕生日プレゼントをくれたことも、好きなものを覚えてくれていたことも。
衝撃的な言葉だった。
そんな私にはお構いなしに、本当は燈西さんも一緒に買いに行く予定だったんだけど、と彼は続ける。
先輩が頭を下げて、ごめん、と言った。
先輩に頭を下げられるのが耐えられなくなって、そう言った。
本当は、寂しかった。
森重先輩と話せなかった間、ずっと。
すると、森重先輩は予想もしなかったことを言った。
私も負けじと言い返す。
私たちの声が、誰もいない教室に響き渡った。
さっきまで言い争っていた森重先輩が、途端にふっと笑った。
やっぱり森重先輩と話している時間が1番楽しい。
だから、絶対失いたくない。
まあそれはともかくお互いに謝るとのことなので、2人で同時に頭を下げた。
2人で顔を見合わせて、また笑う。
この流れでそんなことを聞かれるとは思ってなかったけど、暫く会話がなかった私からすると、その言葉ですら嬉しい。
唐突に言われた言葉で、頬に熱が集まっていくのを感じる。
…その聞き方はずるいです、先輩…!
失いたくなかった森重先輩との会話が失われなくて良かったな、と思う自分がいる。
…和葉先輩にはやっぱり申し訳ないけど。
でも、決めた。
私は森重先輩に、告白する。









































編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!