「繧ョ繝」繧。繧。繧。___!!」
…そう叫び声を上げて、人魂だった化物はボロボロと崩れていく。
…何回目だろうな、これを聞くのは。
最初こそ、この化物が黒く崩れていく光景はおぞましいような、何とも言えない感覚で見ていた。
私には理解できない言語で話し、雄叫びを上げ、気付けば未亜ちゃんの手によって崩れ去っていくのが何とも…何だろう、とにかく変な感じだ。
でも、今は(少し)慣れてきたように感じる。
多分、何回何回と同じ光景を見続けてきたからなのか、未亜ちゃんが守ってくれる、と頼り切っているのからそう思うのかも知れない。
私はちらり、と未亜ちゃんを見る。
「ふー…」
未亜ちゃんは先程化物との戦闘で落ちてしまった斧を拾っていた。
…凄いなぁ、未亜ちゃんは。
私はこうやって、ただただ傍観することしか出来ないのに。何もできないのに。…いや、何もしない。怖いんだ、きっと。
未亜ちゃんは、私と大して年齢は変わらない。
身長も大体同じだし、この呪われた世界での時間感覚はわからないけど、今日この世界に辿り着いた私と違って、未亜ちゃんは多分、かなり前からここに居る。
だって、妙にこの世界の事に詳しい。
化物の倒し方だって、慣れているように見えた。
それに、鏡がある場所に心当たりがあると言っていた。
私より、ずっと不安を抱えている筈なのに。悩みとか、苦痛とか、感じてる筈なのに。
どうして、見ず知らずの私を。
未亜ちゃんが、私の方を振り向き、ニコッと笑う。
「…花音ちゃん、もう大丈夫だよ!」
「…うん、ありがとう」
なんで、助けてくれるんだろう…?なんで、案内してくれるの?なんで、倒してくれたの…?
ただの優しさなのか、それとも…。
一瞬、頭に何か考えが浮かんだ。
でも、直ぐ忘れた。…多分、そんなに大事な事じゃ無いよね。忘れるぐらいなんだから…。
私が立ち上がると、「じゃあ、行こうか」と言い、未亜ちゃんは歩き始めた。
未亜ちゃんが心当たりがある、と言っていた場所に向かい始めて、数十分経った。
…何か、随分と遠いな。
何m何㎞歩いたのは知らないが、この森、終わりが全く見えない。遠くに目を凝らしても、延々と続く木の群れ。周りは木、木、木。時々化け物。
え?何で?え、あとどれくらいなの?足も大分痛くなってきたんだけど…?
…未亜ちゃんも未亜ちゃんで、息切れも足痛そうな仕草もしてないし…。
あとどれくらいで着くんだろう…?
「…あの、未亜、ちゃん…」
「どうしたの?花音ちゃん?」
1度、私達は足を止めた。
未亜ちゃんは目を瞬かせてそう言う。
私は言った。
「…えと、あの…まだ、着かないの?」
「…あれ、言ってなかったけ…」
聞いてないです、と言った次の未亜ちゃんが発した言葉が、それだった。
「ごめん、その場所結構遠いんだ。それと、まだ半分近くしか歩いてない」
…えっ。
この、歩いてきた道のりの…長さを、もう…1回…?
その時、私のお腹から「グー」と音がした。
…そういえば、朝ご飯食べてない。お腹空いたな…。昨日食べた夜ご飯も、結構少なかったし…。喉もからからだった。何か食べたい。
あと、眠い。ちょっと寒い。
呪われた世界なのに、ちゃんとこういう概念はあるんだな…と思った。
未亜ちゃんが笑う。
「はは、お腹空いた?」
「…ちょっとね」
「嘘つかなくても良いよ」
「ついてない…」
そんなやり取りを交わす。
「大丈夫だよ。どのみち、ほら」
未亜ちゃんは、断崖になっている壁に手を向けた。
一見何も無いように見えた。
…でも、よく見ると上の方から垂れた蔓に隠れて、大きな穴が開いていた。
洞窟なのだろうか?
…てか、大丈夫とは?
「花音ちゃんも疲れたでしょ。今日はこの洞窟で野営するよ」
「…え?」
野営…。
や…野営?野営!?
…野営って何だ?キャンプ的なもの…?
私がそうこうしている内に、「ほら、花音ちゃん。行くよ?」と未亜ちゃんが声を掛けてくる。
それに、私の足は自然と動く。
気付けば、私は未亜ちゃんと一緒に洞窟に入っていた。
…意外と中は想像していたより広くはない。
学校の教室の、2分の1ぐらいかな…?そのぐらいの広さだ。
「花音ちゃん、そこ座ってて。食料調達してくるから」
未亜ちゃんが斧を持ち直してそう言う。
私は、そこらの地面に体育座りをした。
「…食料とか、この世界にあるんだね」
「まあね。化物は私達ほど知能は無いから、ここに花音ちゃんが居ることはバレないよ。大丈夫。じゃあ、行ってくるね。一応そこに、スペアの斧置いてあるから」
「え?ちょ、待って…」
そう言うなり、未亜ちゃんは何処かに行ってしまった。私は、1人になった。
…怖い。
未亜ちゃんが、2度と戻ってこなかったらどうしよう。死んじゃったら、どうしよう…。
そんな不安を胸に抱えながら。
私は、暗い洞窟でぼんやりと周囲を見渡した。
次第に、眠くなってきた。
…寝たら、駄目。次生きてるか、分からない。…でも…。眠い…。寝よう、かな…?ど、うしよ…う…。
私の目が、段々と細められていく。
そして。
私の耳には、何の音も聞こえなくなった。
1時間程経ったその時。
パチ、と私は目を開ける。
…寝ちゃってたんだ。…でも、生きてて良かった。私は、ゆっくりと顔を上げる。
目の前には、渦巻き。
「…。…ッ!?」
思わず飛び退く。
…人魂!どうして、こんな所に…。
人魂が、距離を少しづつ詰めてくる。
…どうしよう。どうしよう。どうしよう…!化物になったら、どうしよう…!
頭に、あの化物の姿が浮かんでくる。
…死ぬ?死ぬの?私。…嫌だよ。嫌。まだ死にたくない。死ねない。
記憶の断片が、頭に次々と浮かぶ。
お父さんとお母さんの笑った顔。お父さんのお葬式。お父さんが、借金を持っていた事を知ったお母さんの顔。それからの生活。向けられる暴力。
…未亜ちゃん。
私が死んだら。未亜ちゃんは1人に戻ってしまう。
孤独ってことが、どれだけ苦しいのか。
だから_。
私は、地面に置かれている斧を取る。
それを、人魂に向けた。
「…こっち、来ないで。近付いたら…。…申し訳ないけど、斬るよ。…私は、まだ死ねない。未亜ちゃんと、一緒に脱出するの。だから!私達に危害を_」
(…チガウ)
え、と一瞬、息を吞んだ。
…今、喋った?人間の言葉で…。
人魂は、ゆらりと小さく揺れた。
(ワタシタチハ、キミニ、キガイヲクワエヨウトシテイルワケデハナイ)
…じゃあ、なんで、と言いかけたその時。
「花音ちゃん!?」
「未亜ちゃっ…」
未亜ちゃんが、帰ってきた。
未亜ちゃんは、持っていた物資を地面に置くと、斧を持ってこちらに走り出した。
(…キミハ、キミダケハ、逃ゲテク…)
その瞬間、人魂に斧の刃が刺さった。
でも、それと同時に、人魂の姿が消えた。
気が抜けたのか、私は目を見開きながら座り込む。
未亜ちゃんが駆け寄ってきた。
「大丈夫!?ごめんね、私のせいで…!」
「いや、ううん、寝てた私が悪い、ごめん」
未亜ちゃんに傷は無いかと何回も確認をされて、何回も謝られてから、私達は落ち着いた。
じゃあ、ご飯の準備をしようかと未亜ちゃんが言って、おそらく薪だと思われるものを用意していた。
「まず、火を興すからね」
そう言いながら、未亜ちゃんは薪に木の枝を勢いよく擦り始めた。
摩擦発火…だっけ?木と木を摩擦させて、火が付く…みたいな。
でも、そんなの漫画でしか見たこと無い…。
そう思っていると、洞窟の中が一気に明るくなった。…火、付いた。
くすんだ黄褐色の器が目の前に置かれる。
…土器?まさか土器ですか?
現代でこんな…もの、見るとは思わなかったよ。
そして、未亜ちゃんは洞窟の端に行った。
着いていくと、そこには少し水が噴き出していて、土器でその水を汲んでいた。
そして、その水が入った土器を置くと、魚を取り出した。
「…え、ちょ、魚…?」
「この辺川あるから、意外と泳いでるよ」
…何でもありですか。
最早呆れかけている時に、未亜ちゃんは紙包を取り出した。
それを開けると、中には白い粉が入っている。
そして、水が入った土器に、色々な葉っぱをぶち込んでいた。得体の知れない何かを。
「え、ちょちょ、あの」
私の声も虚しく、土器に水と葉っぱと白い粉を入れると、火に掛けて熱し始めた。
そして、魚に棒を突き刺すと、白い粉をまぶしてあぶり始めたのだ。
「…じゃ、少し待っててね」
「…うん…」
その間、未亜ちゃんは尖った何かで、木の枝の皮を削っていた。
そして、10分後。
「はい」
私の手に、お茶碗ほどの大きさの土器が渡された。その中には、先程熱していた…スープ?(もどき)が入っている。それと、焼き魚を手渡された。
「こっちが、食べられる野草で作った塩スープで、こっちが焼き魚。塩で味付けしてあるよ」
「…塩とかあるんだ!?」
「何かあった。食べて良いよ」
塩とか、食べられる野草とか入ってるのはアツい。普通に良い香りがする。
削られた木の枝を箸代わりとして使い、私はスープを飲んでみる。
野草の出汁が効いてる…?塩が入ってるし、何か…良い感じ。そんなにしょっぱく感じないし、出来たてだからか温かくて、優しい味がする。
「…美味しい…!」
焼き魚も食べてみた。
…骨は多い。ちょっと苦いけど…。でも、皮がパリパリしてて、それに塩が振りかけてあるものだから、文句なしに美味しい。調味料が万能すぎる。
何となく、未亜ちゃんを見ると、ニコッと笑いかけてくれた。
「…おかわり?」
その光景が、昔の我が家と重なった。
…お母さん。
ポロ、と涙がこぼれた。未亜ちゃんが目を見開かせる。私は顔を両手で覆った。
「え、花音ちゃん…美味しくなかった…?」
「…ちがう…ちがうの。…昔を、思い出した、だけで…」
…何で。
人に心配される事って、こんなにも安心する?
人から貰う情が、温かいものだって知るの、遅すぎた?
未亜ちゃんは…凄く良い人だ。
見ず知らずの私を助けてくれて、気遣ってくれて、優しくしてくれて、ご飯を振る舞ってくれて。
…私は…何が、したいんだろう…?
「…ねぇ、未亜、ちゃん…」
「…どうしたの…?」
「…あのね、私…未亜、ちゃんと…」
私は、涙を手の甲で乱暴に拭いて、未亜ちゃんを見上げた。
「友達に、なっていい?」
そう言うと、驚いた表情で、若干の間を開けてから言われた。
「…なん…で?」
精一杯、振り絞ったような声だった。
「…だって、未亜ちゃんは…優しいじゃん。自分も、不安とか、あるはずなのに。私のこと気遣って、助けてくれて、ご飯とか、作ってくれるじゃん。見ず知らずの私なのに。良い人って言わない方がおかしいよ」
そこまで言うと、未亜ちゃんは顔を背けた。
そして、しばらく考え込む仕草を見せた後、私の目を見つめた。
「…良い、よ。友達…。…花音って呼んで良い?」
嬉しかった。
「良いよ!じゃあ、私も…未亜って、呼んで良い?」
「…うん」
「ありがとう!」
「…取り合えず、もう、寝よう…」
…あ、そうだった。
そこで私達は区切りをつけ、火をつけたままにして寝た。
何故か未亜ちゃ…未亜は、布を持っていて。
前、植物の繊維を編んで作った、と言っていた。
それに私が凄い、と言うと、何処か浮かない顔をしていた。
…暗い。けど、火の明かりと、未亜が居るから怖くない。
少なくとも、この世界で友達が出来て、安心した。というか、ただ嬉しかったから、気持ちが高ぶって、そんな気持ちになったのかもしれない。
…明日は、どうなるだろうか。
…あの時の人魂は、何を伝えたかったんだろう…。
それを少し疑問に思いながら、私は眠りについた。
花音が、寝た。
それを確認すると、私は立ち上がる。
そして斧を持ち、寝ている花音の前に立った。
初めて出会った時の不安げな表情とは打って変わり、幸せそうな寝顔をしている。
花音が寝言を口にした。
「…ともだち…やったぁ…」
「…」
…私は、騙されない。
そんな事は、虚言でしか無いのだと。
…信じたい。…信じたくない。
その2つが混合する。
でも私は、あの方の命通りに行動しなければいけないのだ。
だから、花音を信じるわけにはいかない。
私は斧を花音に向ける。
その刃先を、花音の首に近付ける。
「…ッ…」
何で、動かないのか。
何故、手が震えているのか。
その理由はとうに分かり切っている。
『未亜ちゃんと一緒に脱出するの』
『友達に、なっていい?』
『未亜ちゃんは…優しいじゃん。良い人って言わない方がおかしいよ』
『ありがとう!』
『…ともだち…やったぁ…』
『見ず知らずの私なのに』
ガラン…と音を立てて、斧が地面に落ちる。
見ず知らずの君を助けたのは…優しいからじゃ無い…。私には、「良い人」なんて呼ばれる資格は無いのに。何で、「友達」になんてしてくれるのか。
優しく、良い人なのは君の方だ、花音。
笑顔も礼も絶やさない花音の方が、よっぽどだ。
そんな花音を、私は、殺すのか。
…何故自分の頬に雫が伝うのか、私は分からない。
許されてはいけないことだと、分かっている。
でも、初めてなんだ。
こんな風に感謝され、信頼されたのは。
…ああ、私は…どうすればいいのかな。
視界が滲む。
私は、布団代わりの布に頭を埋めた。
~いくつかの謝罪~
1 投稿期間の遅れ
2 今回の話が5000文字超え
3 何か飯テロっぽくなってしまったこと
4 最後の未亜視点が女なのに男っぽく書いてしまったこと
5 勝手に呼び捨て同士にさせてしまったこと
でした。変えて欲しい点があれば教えて下さい。












編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。