前の話
一覧へ
次の話

第30話

- 永遠の終焉 -
538
2025/09/06 15:00 更新





静寂の中、時だけが腐っていく。










俺は今も、この部屋で彼女を見つめている。





ガラスの向こうで眠る彼女は





微笑んだまま、もう呼吸をしない。





標本として閉じ込められた彼女の姿は





あまりにも完璧で










美しかった。










本物の永遠は、動かないことだ。





変わらないこと。





壊れないこと。










だから俺は、彼女をこの形にした。





感情の最果てで、選び取るように。










この部屋の空気はもう光を含まない。





草の種さえ発芽しないような





冷たい闇に満たされている。





それでも、ここには確かに俺たちの夢がある。










そう信じた。










彼女が檻の中で見せた最後の涙も





何度目かの拒絶も





俺の中では





「大丈夫だよ」





という合図にすり替わっていった。










優しさのつもりだった。





でもその実、ただの独白だった。





独りよがりな正しさで、すべてを包んでいた。










けれど、それでも。





この世界だけは、本物だったんだ。










誰のものでもない





俺と彼女だけの時間。





夜も昼も失った地下室で





彼女と蝶と、俺の鼓動だけがゆっくりと響いている。










時折、耳の奥でざらついた音がする。





脳が何かを拒絶するような





もしくはとろけていくような音。





それは罪悪感ではなく





快楽でもなく





もっと形容しがたい溶解だ。





自分という存在が、輪郭を失っていく音。










けれど、それでいい。










感情というものは、あまりにも重たくて





いつもいつも





余計な荷物のようにぶら下がってきた。










激しすぎて、まともに抱えられなかった。





だから俺は、こうして固定したんだ。





標本という名の





完璧な静止にすがることで。










彼女がここにいる。





もうどこにも行かない。





誰かに奪われることもない。





明日を迎えることもない。










ただこの空間で










永遠に










俺と共にある。










それで、いいじゃないか。










生きるには不向きな場所でも





夢だけは生かせると思っていた。










たとえそれが歪んでいたとしても。





たとえ誰かがそれを「狂気」と呼んだとしても。





この感情は、本物だった。










もう、誰もいない世界。





俺だけが残って、静かな夜に耳を澄ます。










聞こえてくるのは、脳が軋むような沈黙。





感情の重みに耐えかねた俺の内側が





ゆっくりと崩れていく音。










でも、そのすべてが





彼女と繋がっている気がした。




アサヒ
アサヒ
ねえ、あなたちゃん。














アサヒ
アサヒ
俺は、君のために、ここまで来たんだよ。















この草すら生えない夢の中で










俺たちはまたきっと会える。















光も










痛みも










なにもない場所で。















永遠に




















ここで









END




プリ小説オーディオドラマ