「林間学校」――その言葉を聞いた瞬間、
クラス中が一気にざわついた。
「え、まじで!?」「楽しみすぎ!」
って声が飛び交って、
さっきまでの静けさなんて一瞬で消える。
みんなが浮かれて騒いでいる中で、
私だけ気持ちがまったく逆方向に沈んでいく。
楽しみよりも先に浮かぶのは、不安と恐怖ばかり。
泊まり、着替え、長い時間一緒に過ごすこと――
考えるほど胸が重くなる。
笑っているクラスメイトを横目に、
私はただ静かに手を握りしめていた。
この行事が、どうか何事もなく終わりますようにと
心の中で何度も願っていた。
不安でいっぱいになっていると、
突然、肩をとんとんと軽く叩かれた。
"行きたくない"
みんなが楽しみにしている中で、
私の頭の中にあるのはその一言だけ。
泊まり、着替え、お風呂、寝る場所――
どこを切り取っても不安しかなくて、
「絶対にバレる」って考えてしまう。
胸がぎゅっと締めつけられて、
楽しみなんて少しも浮かばない。
寮の皆が同じ班でも
バレた時の表情を想像すると更に恐怖
あの3人は受け入れてくれたけど
皆受け入れてくれる訳ではないと思うし。
その不安を抱えながら帰る準備をしていた
頭の中にはさっきの不安がまだ残ったまま、
約束の時間になって玄関へ向かう。
自分の下駄箱の列に目を向けた瞬間、
その奥に、彼の姿があった。
壁に軽く背を預けて、片手はポケット。
どこか余裕のある立ち方なのに、
視線だけは人の流れの中でちゃんと私を探している。
夕方の光が横から差して、
その横顔を少しだけやわらかく照らしていた。
目が合った瞬間、
彼は少しだけ首をかしげて、やわらかく微笑んだ。
その言葉に彼の優しさが詰まっていた
少し焦りながら靴を履いて、
彼のほうへ小走りで向かうと、
その足音に気づいて、また小さく笑った。
そこから二人で並んで歩き出す。
夕焼けに伸びる影が重なって、
昼間より少しだけ静かな時間が流れていた。
NICHOLAS先輩の言葉は1つ1つ優しい。
初めは怖かったけど今は印象が変わった
しかも、意外と話が合う。
最初はぎこちなかったのに、
気づけば同じことで笑っていて、
「え、それわかる」なんて声が重なる。
こんなに自然に盛り上がるなんて
思っていなかったから、
余計に楽しくて、少しだけ嬉しくなる。
その声を聞いた瞬間、
胸の奥がぎゅっと縮こまった。
頭より先に体が反応して、
指先が小さく震え出す。
近づきたくない。
本能みたいに、そう思う。
息が浅くなって、
心臓が早くて、
足が少しすくむ。
笑っている空気の中にいるのに、
自分だけが冷たい水の中に落ちたみたいだった。
怖い。
その一言が、体中に広がっていた。
お願い。もうやめて
胸がぎゅっと締めつけられて、
喉の奥が熱くなる。視界がじわっと滲んで、
今にも涙がこぼれそうになる。
このままここにいたら、
全部崩れてしまいそう、
もう限界だ。
胸のざわめきが大きくなって、
そこに立っていることさえ苦しくなる。
私は何も言わずに背を向けた。
視線も声も振り切るように、
その場から逃げる。
笑い声の中にNICHOLASくんの呼び止める声
でもその声を無視して私は走り続ける
どれくらい走ったのか、自分でもわからない。
気づけば、人の気配がほとんどない場所まで来ていた。
胸が上下して、足ももう動かない。
体力が一気に抜けて、その場で力なくしゃがみ込む。
静かな空気の中で、
押し込めていた記憶がゆっくり浮かび上がってくる。
胸の奥がざわざわして、
胃のあたりがきゅっと縮む。
気持ち悪くなって、
私はそのまま地面に座り込んだ。
ーーーそのとき、耳の奥でキーンと音が鳴った。
頭がずきっと痛んだ瞬間、
閉じていたはずの記憶が一気に押し寄せてくる。
〇
〇
〇
〇
あぁ、そうだった。
家族からも愛されてなかったんだった。
今まで見てきたのは妄想、夢。
作った幸せだったんだ。
この高校に行く時の電車の時も
本当は誰もいなかった、
あの時の優しさも笑顔も私の頭の中で作った家族
現実はただ暴言と暴力を奮う家族
全部を思い出した瞬間、
頭の中が真っ白になった。
視界も白くかすんで、
ぐらりと強い目眩がする。
座っているはずなのに、
体がふらついて、
このまま倒れてしまいそうになる。
なんでこんな人生なんだろう
体がぐらりと傾いた、その瞬間。
後ろから誰かの腕がそっと伸びて、
倒れそうになった私の体を支えた。
背中に人の気配とぬくもりを感じる。















編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。