そう不機嫌そうに言うと、太宰さんは
私の耳を思いっ切り引っ張り出した。
太宰さんが耳を力強くつまんで引っ張ったせいで、
私の耳の何処かでピリッと言う音がした。
その途端激痛が走る。
私が必死で懇願するも、
太宰さんは私の意見を軽く受け流し、
さっきよりも強い力で耳を引っ張り、
ズカズカと早歩きで訓練場へ向かって行った。
それも耳を引っ張るだけで、
全身が引っ張られるくらいの強さで。
下手したらもげる。
私がふと疑問に思った事を言うと、
太宰さんは一旦立ち止まった。
太宰さんは物凄く低い声で返答し、
どす黒い雰囲気を纏い、今にも顔面に
拳が降りかかって来そうな勢いで私を睨んだ。
先程の不機嫌顔とは比べ物にならないくらい怖い。
私は流石に此処まで怒るとは思っていなかったもので、
想像以上に怖い反応に冷や汗をかきながら、
目を合わせない様に、出来るだけ下を向いて謝った。
だが此処で太宰さんを怒らせた儘にしておくと、
体術訓練の時に更に酷い仕打ちを受ける羽目になると
考えた私は、
今は出来るだけ太宰さんの機嫌を直そうと
めげずに勇気を出して話しかけた。
なんと今からの体術訓練の相手は
太宰さんでは無いらしい。
その意外な返答に
私はご機嫌取りの事をすっかり忘れ、
素っ頓狂な声を出してしまった。
どうやら私が汗水垂らして
ボッコボコにされている間、
太宰さんは優雅に朝ご飯を食べる予定らしい。
しかも訓練相手を聞いても、
『行ったら分かる。』等とはぐらかされた。
私は意味が分からなくて、
もう一度素っ頓狂な声を出してしまった。
私はその後も暫く太宰さんの話を聞いていたが、
色々と訳が分からな過ぎて、
私が太宰さんと話し終えた時には
もうすっかり耳の痛みは消え去っていた。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。