午前3時15分。
太原万の自宅前、警視庁のパトカーが一代、沈黙を守るように止まっていた。
真白は、眠気も忘れたまま監視記録を確認していた。
蓮翔の通夜が終わった翌夜、太原の周辺に不穏な影がちらついているとの報告が入った。
その時から、彼の自宅は一時的に警護対象となっている。
一度、巡回班から連絡が入ったが、それ以上の異変はない。
警視庁情報分析班が太原の家の周囲に設置したカメラの映像は、今のところ目立った異常を示していない。
静かな胸騒ぎが真白の中でじわじわと広がっていく。
深夜の空気は冷え込み、ふと見た窓の外に広がる誰もいない路地の裏の闇がひどく濃く感じられた。
太原は、寝室で休んでいるはずだ。
数時間前、「M事件」の過去の記録を真白とともに確認した後、疲れ切った様子で布団に入った。
寝る直前の、彼の言葉が耳に残っている。
冗談のような口ぶりだったが、その眼だけは笑っていなかった。
その時、真白のスマートフォンが短く震えた。
情報班からの連絡だった。
真白は立ち上がり、拳銃をホルスターから引き抜いた。
室内の明かりは消えたまま。
足音を忍ばせながら、寝室の前に立つ。
ドアノブを回し、中に入る。
ーーその瞬間、胸が凍り付いた。
部屋の中は、ひどく静かだった。
窓は内側からカギがかかっており、侵入の痕跡はない。
だが、床には赤黒い血だまりが広がり、そこに太原が顔を伏せるように倒れていた。
喉元には、深く切り込まれたような傷。
即死だった。
思わず駆け寄ると、その背後の壁に、見覚えのある文字が浮かび上がっていた。
ーー「M」ーー
真白はその文字を見つめたまま、言葉を失った。
再び、あの事件は始まったのだ。
蓮翔の死は偶然ではなかった。
連続殺人だ。
ーー十年前に終わったはずの「M事件」がまた、動き始めた。
絶望でその場に膝をついた瞬間、真白の頭の中にあの声が響いた。
意識の奥底で、自分さえ認知していなかったような深い場所で何かが蠢く。
冷たい、もう一人の自分が。
手が震える。
視界がにじむ。
太原の地の中に、自分の影が落ちているように思えた。
後ろから駆け込んできた月神が、言葉を失った表情で固まる。
そういった真白のポケットから、手帳が滑り落ちる。
月神が何気なく拾い、手渡そうとしたとき、その端に書き込まれたメモが目に入る。
月神の声には、微かな困惑が混じっていた。
手帳の片隅に、血で書いたような真っ赤なインクでこう記されていた。
「三人目は、もうすぐだ」
真白は視線をそらした。
それが自分の筆跡なのかどうか。
本当に自分が書いたのかどうか。
確かめる勇気が、今の真白にはなかった。











編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。