第2話

2.月と玉
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2026/02/22 05:37 更新
「柔月様と玉葉后の関係について、教えてくださりませんか。」
突然すぎやしないか。妃同士はまだしも、皇后と上級妃だ。その2人の間には、大きな溝がある。
それなのに、柔月と玉葉の関係など、なぜ聞いてくるのか。
「私と玉葉后の関係?」
「はい。以前、玉葉様のもとへ往診に伺った際、嬉しそうな顔をして、柔月様のことについてお話していらっしゃいましたので。」
「そうなの。わかったわ。だけど、この話は他言無用でお願いね。」
「はい、口は堅い方です。」
 
玉葉と柔月は、ほぼ同時期に後宮に入った中級妃であった。生まれも西方で近く、好敵手ライバルの多い後宮では、唯一気の許せる相手だった。柔月は、玉葉のことを本当の友達だと思っていた。共にお茶会をしたり、夜にこっそり散歩をしたり。きっと玉葉も、柔月のことを本当の友達だと思っていた。
だが、運命とは残酷なもので、玉葉は先に上級妃となり、手の届かない存在となってしまった。散歩のときに出くわすことは何度かあったが、もうあの頃のような仲ではない。身分の違いが、二人にとっての溝となったのだ。
時々、お茶会に呼んでくれることはあったが、以前のように対等ではない。侍女を引き連れ、美しい衣を纏って、煌びやかな簪をつけて。中級妃止まりの柔月とは、格が違った。
ほどなくして、玉葉は公主と東宮を出産した。そして、そのまま皇后になってしまった。また身分の差が広がった。一握りの期待を胸に、上級妃になることを望む自分が、嫌で嫌で仕方なかった。
もともとは、親の指示で入った後宮。私を、他の女と恋させないために入れた後宮。この檻のような場所で、玉の緒が絶えてしまうのを待つだけなのに。上を目指してしまう。
玉葉に会いたい。また遊びたい。玉葉のために、自分のために、ただ、この檻の中で、息絶えるのを待つだけは嫌だ。
 
「私は愚かな人なのよ。同性愛者で、無理やり後宮に入れられた。それなのに、上級妃でいることを嬉しく思ってしまう。」
猫猫は、静かに。だけど、一切揶揄うことも、哀れみの目で見てくることもなかった。
「ねぇ猫猫。私は、どうしたら幸せになりたくなくなるのかしら。」
馬鹿げた質問をしていることはわかっている。だけど、幸せになりたいと思ってしまう理由が知りたかった。
この腐った場所で、二度と恋をすることができない場所で、どう幸せになればいいのか。それにどう理由をつければいいのか、柔月にはわからなかった。
「幸せになりたいと思ってしまうのは、人間の性です。そればかりは仕方ありません。花街出身の私から言えることがあるとするなら、ただ一つ。自分の周りで恋を探すのです。」
何を言っているのかわからない。ここはもう、恋などできない場所。男ならまだしも、女相手など。
「女ならここにたくさんいるではありませんか。この中だけでは満足できないのなら、私の実家である、緑青館の妓女を紹介しましょうか?」
緑青館。花街の老舗妓楼。
三姫と呼ばれる、美しい妓女がいると聞いたことがある。たしか、昔に父上が開いた宴で、緑青館の三姫を呼び、舞を舞わせていた。
「猫猫は、引いたりしないの?」
「しませんね。ごく稀にいるんです。妓女の中にも。女でありながら女に惚れ、そのまま駆け落ちする者もいたそうですから。」
やはり花街出身。様々な情報を持っている。
あのときの宴での、群を抜いて美しく、教養があり舞が上手い妓女。柔月は彼女に一目惚れし、あれ以来忘れることができなかった。名前はわからない。だけど、会いたくて、自分の物にしたくて仕方ない。そんな妓女。
猫猫に頼めば、見つけ出してくれるかもしれない。
「貴方は、花街出身なのね。もしかしたら、頼みたいことが出てくるかもしれないわ。その時は、私に力を貸してほしいの。」
「上級妃である柔月様の命となれば、逆らうことはできません。私でよければ、力をお貸しします。」
最初からずっと変わらぬ空気を纏い、貶しもせず、哀れむこともせず、ただ静かに話を聞いてくれた。
これは、あまりにも大きな恩だ。
「ありがとう。私の話を静かに聞いてくれたお礼に、これを持って行ってちょうだい。」
そうして差し出したのは、柔月の紋が入った簪だった。
少し困惑しながらも、申し訳ないような顔で、猫猫らしくない大きな声で言った。
「いけません!こんな貴重なものいただけません!」
「そう言うと思っていたわ。でもね、これは私からの感謝なの。受け取ってくれるかしら?」
何も言い返せなくなった猫猫は、申し訳なさそうな顔をしたまま
「それでは、ありがたく頂戴いたします。」
少し不満がありそうな声で言った。
柔月は、嬉しそうな顔をして、でも、どこか愛しい物を見るような目をして、猫猫を見つめていた。

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