第3話

3.柔月の簪
104
2026/04/01 07:37 更新
断れずに貰ってしまった。上級妃の紋が入った簪。園遊会のときに玉葉妃にもらったものと、梨花妃にもらったもの。既に他の人の手に渡ってしまったが、壬氏様にもらったものも合わせれば、これで4本目だ。
(そんなにつける頭ないのになぁ)
柔月妃との話が終わり、部屋の外に出ると、扉の前で壬氏様が待っていた。半刻いちじかんほど話していたが、ずっとここで待っていたのだろうか。
「お待たせいたしました、月の君。話は終わりましたので、帰りましょう。」
壬氏は猫猫を見るなり、すごく嫌そうな顔をした。
おそらく、猫猫の頭に、柔月妃の紋がついた簪が刺さっていたからだろう。
「お前、それ、もらったのか?」
「はい、私からの感謝の気持ちだと、柔月様からいただきました。」
壬氏は、不貞腐れたような、おもちゃを取られた幼子のような顔をした。
(あぁ、めんどくせぇ…)
「あら?不貞腐れたような顔をして、どうなさったのです?」
何も知らない柔月妃は、部屋を出て月の君を見るなり、不思議そうな顔をして聞いた。
「なんでもありません。おそらく。」
「そう、なんでもないならいいわ。遅くなってしまってごめんなさいね。今夜は体を冷やさないようにね。」
「はい、それでは失礼いたします。」
月の君と猫猫が去った瑪瑙宮は、たくさんの侍女がいるのにも関わらず、どこか静かで寂しげだった。
 
「猫猫さん、猫猫さん、柔月妃からお手紙が届いていますよぅ」
そうチュエさんに伝えられたのは、あの一件から二週間ほど経った日のことだった。
「雀さん、雀さん、ありがとうございます。一体、私に何の用でしょうか。」
「瑪瑙宮に来てほしいと書いてありました!月の君には既に伝えてありますので、いつでも出発できますよぅ」
たしかに、中には瑪瑙宮に来てほしいと書いてあった。それも、この前下賜した簪をつけて来てほしいとのこと。あのときの変態宦官に似ていると思ったものの、相手は高貴な方だ。
少々の悪寒を感じながら、簪を刺して瑪瑙宮に向かった。
 
「来てくれてありがとう、猫猫。その簪も、よく似合っているわ。」
瑪瑙宮に着くなり、侍女頭である蓝様と、柔月妃に出迎えられた。今日も美しい瞳をしていらっしゃる。
柔月妃は、瑪瑙のような虹色の瞳と、真珠のような真っ白で艶のある長髪。落ち着いた優しい声を持っている。更にここに性格もいいときた。底なしの優しさとしっかりとした教養、物腰柔らかな性格と、どこか玉葉妃に似ているところがある。よほど仲が良かったのだろう。
「本日はどのようなご用件でしょうか」
「今日も月の君がいるのね。今日は入っていいわ。二人じゃなくても平気な話よ。応接間に行きましょう」
前回は二人きりでないといけない話だった。柔月様の過去についてだから。それでは、今回はどんな話なのだろうか。
「今日はね、猫猫に頼みたいことがあって呼んだの」
「頼みごと、ですか?」
「えぇ、花街出身であるあなたにしか頼めないの」
夜の技術か、妃教育とか、そういうことか。柔月様も上級妃、既に帝のお手つきだもんな。
「緑青館にいる、三姫の名前を教えてくれる?」
「三姫の名前…?なぜでしょう?」
妃教育じゃなかったんだ。でも、どうして上級妃が三姫のことを聞く?
梅梅メイメイ白鈴パイリン女華ジョカです」
「それぞれの特徴を教えてくれるかしら。ずっと探している人がいるのよ。」
ますますわからなくなってきた。上級妃が探している妓女?上客の紹介か、それとも何か粗相でもしたか。
「梅梅小姐は、歌、囲碁、将棋にも優れ、知性で客を楽しませることができる妓女です。誰もが嫌がるようなことでも進んでやる、かなりできた人だと思います。しかし、短気なところが玉に瑕、といったところでしょうか。」
「白鈴小姐は、舞に秀でた床上手です。三姫の中では最年長で、既に三十代ですが、まだまだ現役です。学問は肌に合わず、読み書きができませんが、母性は優れており、性格もいい。かなり悪食ですが、悪い人ではありません。」
「女華小姐は、三姫の中で最も学問に秀でた妓女です。女華小姐の話についていけたら、科挙に受かるとも言われています。妓女のくせに男嫌いですが、詩歌の才に恵まれています。舞も上手く、性格も悪くはないです。もう現役は引退してしまいましたが、三姫の中では一番年下です。」
喋りすぎてしまっただろうか。
いや、もしこれが成功して、誰か1人が身請けされるとなったら、緑青館は大儲け。でも、後宮はどうだろうか。
まず柔月様の首が飛び、身請けされた妓女も、柔月様の家族も、全員の首が飛ぶ。
頼むから何もなくあってくれ。なるべく平穏に終わりたいんだ。
「猫猫、ありがとう。どうやら、その中に私が一目惚れした人がいるみたい。」

プリ小説オーディオドラマ